家畜ヒモ野郎はヴァンパイアレディの夢を見ない⑥



「うーん、心当たりねぇ……」


 そう言いつつ、俺は頭を掻きながら記憶を遡ってみたものの、特に思い当たる節は無かった。違和感という点で言えば、大きい姿といつもと違う言葉遣いが該当するけど、眠気とは関係無いしね。


『なんでもいいから、とにかく言ってみろ。情報が無ければ私も動くに動けないからな』


「そうだな……ちなみにだけど、エリザが大きくなるとエネルギー消費が速くて、すぐ燃料切れで寝てしまうとか、そんなのは無いのか?」


 ほら、あれだよ。某光の戦士みたいに時間制限があったりするとかさ。顔が赤くなったのも、カラータイマー的なやつだったりしませんかね?


『無いな。それだったら、私が早々に指摘をしている』


「だよなぁ……」


『それで、他に何か無いのか?』


 いや、他と言われてもなぁ……もうこれ以上は出てくるものもないと思うんだけど。とりあえず、ここまでに起きたことを時系列順に思い出してみようか。


 えーっと、まずエリザが大きくなった→ラブホに連れ込まれる→エリザに説明を受ける→エリザのスキンシップが密になる→ベッドインからの床ドン→まさかの寝落ち。うん、こんな感じだな。


 でも、この中に眠ってしまうような要因が含まれているとも思えないし、単純に疲れて眠くなっただけなんじゃないか。それぐらいしかもう思いつかないな。それかもしくは……。


「あれだな。エリザが飲んだワインに、睡眠薬でも入ってたかな」


『……なに?』


「いや、まぁ、そんな訳ないよな。元から置いてあったワインを飲んだだけだから、そんなもの入ってるはずないしな」


『おい、ちょっと待て。お前、今なんと言った?』


「え? いやだから、エリザがワインを飲んで―――」


『それだ』


「へ?」


『エリザ様が眠ってしまった原因はそれだ。ワインを飲んだからだろう』


 ……はい? いやいやいや、どういうことよ、それ。ワインを飲んで寝たってことは……酔っぱらって寝落ちしちゃいました的なことだろうか。いや、そんなことあるか? だって、あのエリザだよ?


 あんなに大人の余裕たっぷりな雰囲気を醸し出しといて、自分からワイングラスと生み出して飲み出したってのに、それで酔っぱらうとかありえなくない?


「その……そんなことあるの? だって、吸血鬼なんでしょ?」


『何が言いたい』


「例えば、えっと……毒耐性だとか、何かしらの状態異常の無効化能力だとか、そういうの持ってないの?」


『なんだそれは。そんなものは無い』


 えぇ……無いんですか。漫画とかアニメの吸血鬼だと、そういうのは効かないみたいな設定があったりするのに、エリザさんは持ち合わせてないんですか。


 じゃあ、マジでアルコールで酔ったってことなのかよ。あんな一気飲みしてたくせに? しかも2杯飲んだだけで? 耐性クソザコやんけ。どうなってんのよ。


「あのさ。本当にワインが原因なの? エリザってそんなにアルコールに弱いの?」


『あぁ、そうだ』


「……なんか意外だな。普通にそういうのは強いもんだと思ってたんだが」


『エリザ様はアルコール類……特にワインを好まれるのだが、どう頑張っても1杯までが限界だ。おそらくだが、2杯以上を口にしたのだろう?』


「あー、うん。その通りです」


『やはりな。だから限度を超えてしまい、徐々に意識を保てなくなったという訳だ』


「なるほど……てか、アルコールに弱い割にはかなりの勢いで飲んでたけど、エリザは自分が弱いって自覚してないのか?」


『残念ながら、そうは思われていないのだ。むしろ、お酒に強い方だと自負されている』


「嘘でしょ……」


『私が傍にいればお止めするのだが……そうで無いと、自分の限界を超えて飲まれてしまう。そういう御方なのだ』


 ……なんというかな。いろいろと台無しだわ。ギャップ萌えとかそういう次元じゃねぇぞ。なんかこう、がっかり感の方が勝っちゃってるわ。


 あんな夜の女王っぽい言動しておいて、蓋を開けたらこれですか。せっかくの威厳や色気が全部吹き飛んじゃいましたよ。どんなに大きくなれても、ベースは幼女のままなんですね。残念過ぎる。


『……まさか今回のお出掛けで、エリザ様がアルコールを摂取するとは思わなかった。これは私の失態だ。くっ……』


「ま、まぁ……それはいいんだけどさ。で、俺は結局どうしたらいい? どうにか頑張ってエリザを起こした方がいいの?」


『それは無理だ。エリザ様は普段と同様に、一度寝てしまわれると、そう簡単には目を覚まされない』


「……じゃあ、どうするんだよ?」


『こうなってしまった以上、仕方がない。今から私が迎えにいく。それまで大人しく待っていろ』


「あ、はい。分かりました」


『……くれぐれも変なことはするなよ』


「いや、しないっての」


 その言葉を最後にプツンと通話が切れた。ったく、毎度のことながら、人を何だと思っているんだろうな。失礼してくれちゃうぜ、まったく。


 しかし、これからどうしようか。九十九が来るまで暇だし、何かしようにもやることもないし。かといって、エリザにいたずらでもしようものなら、後でどんなことになるか分かったもんじゃないしな。


「……とりあえず、風呂にでも入っとこうかな」


 浴槽には既にエリザがお湯を張ってくれていたので、すぐにでも入れる状態だ。せっかく用意したというのに、入らないというのは非常にもったいない。ということで、頂いちゃおうと思う。


「けど、ラブホに来ておいて、何もせずに風呂だけ入るとか、使い道として終わってるよなぁ」


 ホント、悲しいよね。人生初ラブホがこんな思い出になるだなんて。まぁ、お陰で俺の貞操は守られたんだけどさ。でも、それでも思うところはある訳でして。


 そんなこんなで風呂を済ませた後、俺はスマホにダウンロードしたソリティアで時間を潰しましたとさ。うおおぉぉぉぉぉっっ! アクセルシンクロォオオオオーーー!!


 ……あっ、ちなみに部屋に置いてある、持って帰れて使えそうなアメニティは、全部回収しました。この先で使う機会があるかもしれないからね。知らんけど。




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