家畜ヒモ野郎はヴァンパイアレディの夢を見ない②



「さってと。これでボクがどうやっておっきくなったのか、分かってくれたよね?」


「あー……まぁ、うん。一応は理解しましたけども。受け入れがたくはあるけどさ」


「うんうん、それならよかった。じゃあ、ボクはまたさっきの姿に戻らせてもらうねー」


「……ん?」


 俺が疑問の言葉を口から出すと同時に、エリザの身体から眩いほどの鮮烈な光が放たれた。サイコ・パワーとかサイコ・プレッシャー的なやつね。


「な、何の光!?」


 てか、なんで光った? DX玩具かよ。それか飛行石でも持ってたのか。まるでフラッシュバンのような閃光に目をやられた俺は、咄嗟に腕を使って光を遮った。


 けど、一体何が起きたんだ? そして数秒後、徐々に視力を取り戻していき、ようやく目を開けることができるようになった。


「な、なんだったんだ、さっきのは……?」


 そう呟きながら俺はゆっくりと目を開けていく。すると、俺の目の前には―――


「ふぅ。こう何度も姿を変えるのは疲れるのよね。説明する為だから我慢しているけれど……正直言って面倒だわ」


 と、煩わしい感じでそう口にする、さっきまでの大きいエリザの姿があった。髪を掻き上げながら、やれやれと言った表情を浮かべていらっしゃるその姿は、非常に絵になっている。


「え、いや……また戻ってるやんけ」


「あら、残念そうね。もしかして、社は小さい私の方が良かったのかしら?」


「そういう訳でも無いけど……というか、さっき光ったのってなんだったんだ?」


「あぁ、あれのこと?  別に大したことじゃないわ。単なる羞恥心。変化するところをあまり見られたくないの。それだけよ」


「……そういう割に、さっきはえっぐい変化シーンを見せられたんですが」


「あれはあなたに私がどう変わるのかを教える為に、はっきり見せたのよ。所謂いわゆる、無修正版ってやつね」


「マジかよ……つか、そんな気遣い、いらないんだけど。R−18ならともかく、R−18Gの妖怪変化なんて見たくないんですが」


「うふふ。ごめんなさいね」


 俺の返答に対して軽く微笑んでから、エリザは謝罪の言葉を口にした。だが、その表情はとても楽しげであり、反省の色は見られない様子だ。まったく、困ったものだ。


「そういえば素朴な疑問なんだけど……小さい時と大きい時で服が違うよな。あれってどうしてるんだ? 肉体を変化させるように、服は変えられないだろうし」


「そうね。身体の大きさだけを変えたなら、服のサイズや形状はそのままになるわね。だから、肉体を変えた後にその体型に合うように再生成してるの」


「……ん? 再生成……?」


「えぇ。実はこのドレス……私の血で出来ているの」


「なるほど、血で出来ている……って、は?」


 衝撃的過ぎるカミングアウトを聞いて、俺は固まってしまった。血で出来ている? どういうことなんだ?


「私はね、自分の血を自由自在に操って、変化させることができるの。だから、それを衣服のように生成して、纏うことも出来るということなの」


「……いや、なにそれ。吸血鬼、なんでもありじゃん」


 さらっととんでもないことを口にしたエリザに対して、俺は率直な感想を述べた。


「あら、そんなことないわ。流石になんでもは生成出来ないわよ。せいぜい、こうして服を作ったり、小物を作ったり出来る程度」


 そう言いながら、エリザは右手の手のひらを上に向けると、何もない空間から瞬時にワイングラスを生み出してみせた。おお、すげぇ……。


「まぁ、こんな感じね。けど、多用は禁物なの。あまりやり過ぎると、貧血になってしまうもの」


「いや、貧血って……吸血鬼なのに、人みたいな症状になったりするんだな」


「吸血鬼だって貧血ぐらいなるわよ。人間と同じで、血が足りなくなったら死んじゃうんだもの」


「……そう考えると、種族は違っても割と人間の構造に似てるのか」


「そうね。ただ、違う部分ところももちろんあるわ。例えば、寿命は人間よりも遥かに長いわね」


 まぁ、そうだろうね。けど、そういえば……エリザの年齢についてはまだ何も分かってないんだよな。九十九の祖先の代から仕えていたみたいだし、少なくとも100年以上生きていることは確定してるだろうけど。


「あのさ。ちなみにエリザって何歳なんだ? 俺よりも年上なのは分かってるけど、具体的にはいくつなの?」


「ふふっ、それは秘密よ」


「えっ、なんで?」


「レディに年齢を尋ねるのはマナー違反よ。だから、教えてあげない」


 エリザは少しいたずらっぽい表情でそう答えた。ぐぬぬ、そう言われるともっと知りたくなってくるな。だけど、無理に聞き出そうとしても、きっとはぐらかされてしまうだろう。なので、俺はさっさと話を切り替えることにした。


「……ま、いいや。それよりさ、なんでまた大きくなったりしたんだ? 別に小さいままでもこうして話は出来るよな。なんで?」


「あぁ、それはあなたにちゃんと説明するには、こっちの方が適しているの」


 そう言いつつ、エリザはさっき生み出したワイングラスに、この部屋に置いてあった赤ワインを注ぐ。そしてグラスの中のワインをぐるぐる回した後、優雅な動きで口元に運んでいった。


「ふぅ……美味しい」


 一口飲んで満足げな表情を浮かべるエリザ。そうした後、グラスをテーブルに置くと再び口を開く。


「ほら、あなたも言及してたけど、今の私と小さい時とでは口調が全然違うでしょう?」


「そ、そうだな。なんていうか、見た目相応な感じになってる気がするけど」


「それはね、身体のサイズに精神が影響されているからなの。身体に引っ張られるから、小さい時は子供っぽくなっていて、大きい時は大人っぽくなっているのよ」


 はぁ、なるほど……そういうことなのか。どういう仕組みかまでは分からんけど、幼女姿で今の感じの話し方されても違和感バリバリだもんな。


「それと小さい時だと、あまり説明するのに向いてないの。どうしても抽象的な会話になってしまって、より分かりづらくなるしね。だから、こうして大きくなったのよ」


「ふーん、そういうものなんだな。けど、それなら普段からその状態を維持してた方が良くないか? わざわざ小さいままでいる必要も無いんじゃないか?」


「嫌よ。だって、この状態だと色々と疲れるのよ。肩は凝るし、身体は重いし、燃費は悪いし……小さい方が身軽でいいの」


 ……なんか自動車の寸評みたいだな。普通車よりも低燃費だから、軽自動車の方が良いみたいな。それか原付かロードバイクの方が小回りが利いて便利だよね、みたいな。


「あと、入る時に大きい身体で入ったから、出る時に縮んだ状態で帰ったら怪しまれるでしょ。だから、また大きくなったの」


「あー、うん、確かにそりゃそうだわ」


 ホント、ごもっともである。多分、ホテルの入り口や通路には監視カメラとかあるだろうから、それに映ってしまって怪しまれるのは避けたいところだしな。


 そう考えれば、エリザが取った行動は納得できる。もし仮に同じ立場だったら、俺も同じことをしているかもしれない。そんな風に思えるほど、説得力のあるものだった。


「さてと。他に質問はあるかしら?」


 俺に向かってそう尋ねつつ、エリザは飲み途中だったワインを一気に飲み干した。そしてまた新たにグラスへワインを注いでいく。


「まぁ……気になっていたことは大体聞き終えたから……後は特に無いな」


 俺が分かんなかったのは、突然大きくなったその方法と、それと口調が変わっていたりなど、小さい時から変化してたことについてだ。


 他にも色々と聞きたいことはあるにしても、今はこれぐらいで十分だろう。あんまり話し続けても疲れそうだし、今日のところはこの辺にしておくとするか。


「それじゃあ……これであなたに説明するのは終わり、ということね」


「ああ、そうだな」


「そう……なら、ここからは私の好きにしても良いわよね」


 ……ん? 今、なんて?


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