やはり俺の従順ラフコメはまちがっている。⑧



 唐突に現れた目の前の美女。それは俺が待っていたエリザとは似ても似つかない容姿をしていた。てか、大きく違い過ぎる。


 凛々しくキリッとした表情を見せる、クール系ビューティと言えばいいのか。それと雪のように白く透き通る肌、加えて端整な顔立ちをしていて、全体的に気品が溢れているように見える。


 しかも、背がすらりと高くてスタイルもいいときたもんだ。ここが一番エリザと違ってるね。出ているところは出てるし、引っ込んでいるところは引っ込んでるし。色々とヤバいですね。主に胸の辺りが。


 あと、着ている服がまた凄いんですよ。黒いドレスに大胆なスリットが入ってて、そこから覗く白い足が艶めかしくてセクシーなんです。そんでもって、その格好で胸元も大胆に開けちゃってるもんだから、目のやり場に困っちゃうんですよね。


 まぁ、唯一の共通点といえば、宝石のような輝きを放つ真紅の瞳。それと髪の毛1本1本に艶があり、サラサラしている綺麗な銀髪。でも、この美女はツインテールのエリザと違って、腰まで伸びるほどのストレートなロングヘアーだね。


 総括すると、キュートな可愛い系のエリザとは対照的に、この女性はクールで理知的な雰囲気のある美人さんって感じだな。それにしても、マジで何者なんだ、この女性は……。


「えっと……どちら様でしょうか?」


「あら、そんなの決まっているじゃない。私が誰かなんて、一目見れば分かるでしょう?」


「いや……生憎、さっぱりと分からなくて……その、どこかで会ったことありましたっけ?」


「そうね。むしろ、つい先ほどまで会って話をしていたと思うけれど」


「ついさっき? それってどういう……」


 ……おい、待てよ。あの、まさかですが……さっきまで会って話していたってことは……これって、ひょっとしなくても……。


「もう、やっと気付いたみたいね」


 彼女は微笑みながら言うと同時に、前髪をかき上げる仕草をしながら俺のことを見つめる。ということは、やはり彼女は……。


「えーと……もしかして、エリザ……なのか?」


「そうよ、社。やっと気づいたのかしら」


 そう言いながら悪戯っぽく微笑む彼女。やっぱりというか、目の前の美女は先程まで話していたエリザ本人だったようだ。まぁ、共通する部分もいくつかあったしね。


 しかし、それでも驚かずにはいられない。だって、さっきまでのちんちくりんな容姿の彼女が、ここまでのグラマラスなお姉さんになるだなんて思いもしなかったんだもの。


 見た目としては完全にハリウッド女優を圧倒するほどの美貌だし、そんな美女が風俗街のラブホの前に立っていれば、もの凄い場違い感があるというものだ。周りの通行人たちも何事かと思って二度見、三度見してるし。


「ふふっ、驚いたかしら?」


「あ、あぁ……そりゃ、ビックリするだろ。急にそんな大きくなったら、別人かと思うじゃん」


「ごめんなさいね。けど、安心して。私はちゃんとエリザで間違いないから」


「そう、みたいだな。それで、その……どうやって大きくなったんだ? それに口調も……なんか違うような気がするんだが」


「うふふ。そうよね。私がどのようにしてこうなったかは、当然気になるわよね」


 くすくすと妖艶な笑みを浮かべ、流し目を送るエリザ。その様子は実に煽情的で官能的であり、思わずドキッとする色気があった。これが大人の女性の余裕というやつなんだろうか。


「……まぁ、それについては追々説明するわ。それよりも、まずはホテルに入りましょう」


「えっ、あ……ちょっ……!?」


「こんな入口前で立ち話だなんて、レディに対するエスコートの仕方としては失格よ。だ・か・ら、続きはこの後で……ね?」


 エリザは俺の左腕に絡みつくように抱き着きながら、耳元でそう囁く。吐息がかかるほど近くに感じる彼女の身体から漂う甘い香りに、鼓動が激しく脈打つのを感じた。


 こ、こんなの……エリザには無かった煽情的要素だぞ……。しかも、細い体付きなのに、大きな2つの双丘が俺の腕に柔らかく潰れたり、擦り付けられたりと……ちょっと、なんちゅうエロいことをしてくるんですかねぇ……。


「そ、その……ち、近いんだけど……」


「あら、何か不満でもあるのかしら?  男の人って、こういう風にされると嬉しいと思っていたのだけれど」


「い、いやぁ……そのぉ……」


「それとも……これよりもっと素敵なことをお望みなのかしら? 私の身体を隅々まで堪能して、好き勝手に弄びたい。そんな願望があったり……なんてね」


「ひぇっ……!」


 そう言って挑発的な笑みを浮かべながら、人差し指で俺の首元をなぞる彼女。その瞬間、ゾクゾクっとした感覚が背筋を駆け巡っていくのが分かった。それと同時に心臓が高鳴り、顔が熱を帯び始めていったのだ。


 俺のそうした反応を見て満足したのか、彼女はクスッと小さな笑い声をあげると、俺の耳元に口を近づけてきた。


「ふふ、冗談よ。それよりも早く行きましょう。時間がもったいないでしょ?」


「え、あ、あぁ……そ、そうだな」


「ほら、こっちよ」


 エリザに促されるようにして、俺たちはラブホの中に入っていく。ちなみに受付とかそういうのは全てエリザがやってくれた。妙に手馴れた感じなのは気のせいだろうか。いや、深く考えるのは止めよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る