やはり俺の従順ラフコメはまちがっている。⑥



 さてさて、吸血鬼とその家畜による、愉快な風俗街珍道中。その道中は分かりきっていたことだが、破嵐万丈……じゃなくて、波乱万丈に満ちていた。


 どんな感じだったかと問われれば、それはもう本当に多種多様な出来事が起こりまくりましたよ。出来事っていうか、ほぼトラブルだけどね。To L○VEるな展開だったら全然ウェルカムだったけど。


 そうだね、例えば―――


「おうおう、兄ちゃん。こんな時間にそんなちっこい嬢ちゃん連れ回して、どういうつもりなんだ、あぁん?」


「いや、えっと……連れ回している訳じゃなくて、連れ回されているといいますか……」


「ボソボソ喋ってんじゃねぇ! はっきり答えろや!」


「ひぃぃっ!? すいません!」


 と、こんな感じでチンピラ風の男に絡まれたり……。


「おい! シンジ、てめぇ! なにカタギに手を出してんだ!」


「あ、兄貴!? いや、違うんすよ。これには訳が……」


「なんだと? うるせぇ! 言い訳してんじゃねぇ!!」


「ぐふっ!?」


「まずは謝ることが先だろうが!」


「す、すいませんでしたッ!!」


 と、スーツを着たチンピラ風の男の上司? 兄貴分? が割って入ってきたり……。


「ねぇねぇ、そこのお兄さん。私たちと一緒に遊ぼうよ」


「そうそう。きっと楽しい時間を過ごせると思うよ」


「ふふ、遠慮しなくてもいいんですよぉ?」


「えっと、あの……自分、連れがいるんで……」


 と、お店のキャストらしき女性たちに強引に捕縛されかけたり……。


「あらぁ、そこのス・テ・キなお兄さん。どうかしら? アタシと素敵な夜を過ごしちゃわない?」


「あ、いえ、その……け、結構です。自分、そういう趣味は無いんで……」


「もう、遠慮することなんかないのよ。ほら、行きましょ……って、あら? なによ、その小さな子は」


「いや、これはですね……そのぉ……」


「ちょっと! 未成年の深夜連れ出しは犯罪よ! そんなの許さないわっ!」


「ち、違うんです! 俺は誓って犯罪行為はやってません!」


「問答無用よっ! 覚悟なさいっ!」


「ちょっ!? ま、待って下さい! 誤解なんですってばぁああっ!!」


「待ちなさーい!!」


 と、黒光りするマッシブな肉体を持ち、スキンヘッドという強面かつ屈強な容姿のオネエに追い掛けられたり、などなど……とにかく散々な目に合うのだった。


 てか、チンピラ風の男の人、ごめんなさいね。あの人、全然悪くなかったのに、俺たちのせいで上の人に殴られちゃって。ほんと申し訳ないっす。


「あははっ、なんだか面白いことばかり起きるねー。流石のボクも予想できなかったよー」


「……あの、笑ってる場合じゃないからね。こっちはいろいろと大変な目に合ってるんだけど」


「えー、でも面白かったでしょー? ボクは結構楽しかったよー」


「そりゃ、エリザはそうだろうけどさ……」


 ニコニコ笑顔で楽しそうに語る彼女を見ると、不思議とこっちも強く文句を言えなくなってしまう。テンションの落差のせいなのか、それとも彼女の無邪気さがそうさせているのか……。


 どちらにせよ、暖簾に腕押しみたいな感じで手応えを感じないんだよな。どんなに言葉を投げかけても、返ってくる反応は決まって同じ、エリザのペースに巻き込まれてしまうのだ。


 だから、諦めて激流に身を任せ同化する。その精神でいこうか。決して『どうかしている』じゃないよ。断じて違うからな。


 そんなこんなで、様々なハプニングを乗り越えつつも、俺とエリザの珍道中は続いていき、気が付けば時刻は既に日付を越えていた。


「ふぅ、結構な時間この街を彷徨っているよな。てか、広すぎでしょ、ここ」


 例えるなら、某ゲームのヤクザの町ぐらいあるかもしれない。さっきから起きてるトラブルも、そのゲームのサブストーリー味を感じるし。遠い場所はタクシーで移動しなきゃ。


「なぁ、エリザ。そろそろ疲れたし、お散歩も満足しただろ。だから、もう帰ろうぜ」


「そう? ボクはまだまだ遊び足りないけどなぁ……」


「いや、十分でしょ。ここまでの道のりで、どれだけのイベントこなしてきたと思ってるの。頼むからもう休ませてくれ」


「んー、それじゃあ仕方ないか。でも、最後にひとつだけ行きたい場所があるから、そこまでは付き合ってほしいなー」


「……はぁ、分かったよ。けど、これが最後だからな。約束だぞ」


「うん、約束だよー」


 結局、最後という言葉に抗えず、俺は渋々了承してしまう。どの道、エリザがいないと帰るに帰れない(九十九に何を言われるか分からない)ので、従うしかないんだけどね。


 そうして歩くこと数分。ようやく目的地へと辿り着いたようだ。そこは大きな建物で、城みたいな外観で、ピンク色の電飾がきらびやか光っていて……。


「……って、ここラブホテルじゃん」


 そう、目の前にあるのはどこからどう見ても立派なラブホです。本当にありがとうございました。ちなみに店名は『HOTEL CAMELOT』と言うらしい。城みたいな外観をしているからかな? 店のど真ん中に立派な円卓でも置かれてそうだ。


「あのさ、エリザさんや。ここが君の来たかった場所なのかね?」


「うん、そうだよー。ここの最上階の部屋はね、すっごく居心地がいいんだー」


「……そうなんだ」


「だからね、今日はここでしようかなって思って、ここまで来たんだよ。えへへっ」


「……」


 まぁ、なんていうか……いろいろと言いたいことはあるけど、何から言えばいいか分からないや。……でも、とりあえず一言だけ言わせてくれ。


「……どうしてこうなった」


 深くため息を吐きたくなる衝動を抑えつつ、俺は小声で呟く。まさか、エリザとこんな場所に訪れることになるなんて、思ってもみなかったよ。


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