やはり俺の従順ラフコメはまちがっている。⑤
「じゃあ、ボクもそろそろ行くねー。ばいばーい」
「はいはーい。またねー、エリっち~」
「お疲れ様でーす、エリちゃんパイセン」
「またお会いしましょう、エリザちゃん」
そしてエリザと女子高生3人組のやり取りがようやく終わり、それぞれに手を振りながら別れていく。そんな様子を遠くから眺めながら、俺はホッと胸を撫で下ろす。
ふぅ……やっと終わったぜ。勝手も分からん街で放置されて、その上で良く分からん茶番劇のようなやり取りまで見せられて、ため息しか出ない。はぁ、疲れたぁ。
そんな心境な俺の下に、エリザが駆け足で戻ってきた。その顔は心なしか、嬉しそうに輝いているように見える。よっぽどあの子たちとの時間が楽しかったんだろうなぁ。
「お待たせー。ごめんね、ヤシロ。待たせちゃったかな?」
「いや、まぁ……別にいいんだけども。ただ、あんまりこんなところに1人にしないでくれよ。心細いからさ」
「そうなの? ヤシロは大人だから、1人でいても平気だと思ってたんだけど」
「大人だって、心細い時もあるんだぞ。普通の場所ならともかく……俺にとってこの場所は落ち着かないんだよ」
「ふーん、そういうものなんだ。じゃあ、今度からは気をつけるね」
「あぁ、うん。分かってくれたのなら、それでいいよ」
俺の言葉に納得したのか、エリザは小さく頷きながら返事をする。そうして俺たちは再び歩みを進めていくのだが……。
「なぁ、エリザ。ちょっといいか?」
「ん? なにかな?」
「その……さっきエリザと話していた女の子たちってさ……なんだったの? ただの知り合いなのか?」
その道中にて、俺はこれまで気になっていたことを思い切って尋ねてみた。人間じゃない吸血鬼のエリザと、あのなんてことない学生たちとの接点が良く分からないままで、モヤモヤとしていたのだ。
もしかすると、俺が想像だにしていないような裏があったりするかもしれない。例えば……そうだな。彼女らはエリザと同じく吸血鬼仲間だとか。それだったら、仲良くしていても納得が出来る気がする。
「なんだったの、って……気になるの?」
「まぁ、ちょっとだけな。どう見てもあの子らは普通の女子高生だったし、どういった繋がりがあるのかって思ってさ」
「ふーん、そっか。ヤシロは気になるんだね。えーっと、どうしよっかなー」
「……なんだよ、もったいぶらなくてもいいじゃんか。別に教えてくれたっていいだろ?」
「うーん……まぁ、特にないしょにすることじゃないから、いっか。えっとね、あの子たちはね……」
もったいぶるように話すエリザを見て、俺の興味はさらに高まっていく。一体、どんな秘密を持っているというのだろうか。
エリザの口から語られる真相を、今か今かと固唾を呑んで待ち構える中、彼女はゆっくりとその口を開く。
「実は……あの子たちは全員、サキュバスなんだよ」
「……えっ? サキュバス……?」
「そうだよー。夜の街を遊び歩いて、男を捕まえては精気を吸って生きる淫魔。それが正体かな」
……おいおい、嘘だろ。まさか、あんな普通に見えた子たちが人間じゃなくて、サキュバスだったなんて……信じられん。
ちなみにサキュバスというのは、男に淫らな夢を見せて、精力を吸い取ると言われている女性の悪魔だ。簡単に説明するなら、えっちな女の子、またはお姉さんといったところだろうか。異論は認める。
ただ、これも吸血鬼と同様にフィクションの存在で、現実的に存在するはずが無いんだけども……目の前に吸血鬼の存在がいる以上、いないと断言は出来ない。もしかすると、陰に隠れて存在しているのかもしれない。
でも、確かに言われてみれば、全員が容姿端麗な美少女なのは事実だし……それならこの時間にこの風俗街にいることにも頷けてしまう。なるほど、まさかそんな存在だったとはな……。
「だからね、吸血鬼のボクと仲良くしてくれているんだ。さっきのはその挨拶って感じかな」
「いやいや、マジか……あの子たちがサキュバスだっただなんて。俺には冗談としか思えないんだが……」
「うん、そうだね。だって、冗談だもん」
「そうか、冗談なんか……って、へ?」
エリザの返答に一瞬納得しかけたところで、俺は目を丸くしながら間抜けな声を上げる。いやいや、ちょっと待ってくれ。冗談ってどういうことだよ。
「あの子たちはね、ちゃんと普通の人間だよ。サキュバスってのは僕の嘘。ごめんね、騙しちゃってさ」
そう言いながらお茶目な感じで舌を出す仕草を見せるエリザ。それはそれで可愛いんだが……騙されたという事実に対しては、なんだか釈然としない気分である。
「おいおい、冗談とかやめてくれよな。うっかり信じ込んじゃったじゃないか」
「てへっ。ごめんごめん、つい出来心で」
そう言ってあははっ、と小さく笑いながら謝るエリザだったが、その表情は非常に楽しそうだ。全く反省しているようには見えない。むしろ、イタズラに成功した子供のように無邪気に喜んでいるように見える。
「本当はね。あの子たちとはたまたまここで知り合って、それで仲良くなっただけだよ。だから、特に深い関係でもないんだよねー」
「……なんだ。ってことはつまり、ただの友達ってことかよ。あー、深く考え過ぎて損した気分だわ」
「あとね、ボクと会うたびに、こうしてお菓子もくれたりするんだー。いいでしょー」
そう言いながらエリザは棒付きのキャンディーを取り出し、包装を破って口に含んだ。その途端、彼女は幸せそうな表情を浮かべる。いや、餌付けされてますやん。
多分だけど、向こうはエリザのことを風俗街に出没する、ちっちゃな子供ぐらいにしか見てないんじゃないかな。だから、あんな風な可愛がられ方をされていたんだと思う。
「それじゃあ、あれか。冗談ってことは、サキュバスもいないってことか。本当にいたら、少しは夢のある話だったのにな」
「そうだね。残念だけど、あそこにはいないかなー」
まったく、本当に残念だよ。もしかしたら、エロ漫画みたいなことが現実に起きるかもしれないって思ってたのにさ。俺の期待を返して欲しいよ、マジで。
そんな風なやり取りを挟みつつ、俺たちの風俗街お散歩はまだまだ続く。でも、一体どこへ行こうというのかね。土地勘の無い俺には先のことなんてさっぱりですわ。
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