やはり俺の従順ラフコメはまちがっている。④



「しっかし、どういうことなのやら……エリザの奴、何の用で向かって行ったんだ?」


 とりあえず状況が良く分かってないので、俺はエリザと別れた場所から動かないまま、遠目でその女子高生たちを観察してみる。


 傍から見ると、女子高生たちの集団に近付いていく、いたいけな幼女を眺める危ない人みたいになってるかもだけど……細かいことを気にしてはいけない。気にしたら負けだと思え。


 まず、女の子たちの人数は3人。中には制服を着崩していたり、スカート丈が短くなってたりしてる子もいるので、おそらくギャルだと思う。ギャルの生態系についてあまり良く分かってないけど、多分そう。


 で、3人は近くに寄り合って会話をしているみたいで、時折スマホも見ながら楽しそうな笑い声が聞こえてくる。場所が場所で無ければ、ごく普通の日常風景って感じだな。


 けど、なんだってこんな夜も遅い時間に、学生が風俗街にいるんだ。親御さんは心配しないんですかねぇ。それよりも補導されないかの方が心配だわ。


 そんなことを思いながら彼女たちの様子を眺めていると―――


「ねえねえ、この後どうするー?」


「んー、そうっすね。あたし的にはまだまだ遊んでても大丈夫っすけど?」


わたくしは……その、こういう場所は皆さんの方が詳しいので、お2人にお任せしますね」


 と、そんな感じの会話が遠くの俺にも聞こえてきた。どうやら何か予定を話し合っているようだ。彼女らは遊ぶと言っているが、この辺りに学生が遊べるような場所ってあるのか?


 ……待てよ。もしかしてだけど、あれか? 少しアレな想像をしてしまったんだが……未成年がこの時間、この場所にいて。それで遊ぶってことはつまり……そういうことなのか?


「……いやいやいや、流石にそんなことはありえないよな」


 俺は首を横に振り、脳裏によぎった可能性に関して否定をする。そんな漫画みたいな展開なんて、ある訳が無いでしょ。そもそも、あの子たちが何をしてるかなんて、分かるわけないじゃないか。考えすぎはよくないぞ、俺。


 そんな風に俺が邪な思考を追い払っていると、エリザがようやく彼女らのすぐ傍まで歩み寄っていた。そして手を挙げながら―――


「やっほー♪ みんなー、元気してたー?」


 と、明るい調子で声を掛けていた。えっ、何その挨拶。めっちゃフレンドリーなんですけど。それに対して女子高生たちは驚きつつも、嬉しそうな顔を見せる。


「あー、エリっちじゃん! 久しぶりー!」


「エリちゃんパイセンお久っすー。今日も相変わらず可愛いっすねぇ」


「どうもお久しぶりです、エリザちゃん。こうして顔を合わせるのはいつぶりでしょうか」


 エリザの登場に対して、3人の女子高生が思い思いの言葉と呼び名を口にする。そんな彼女らに対し、エリザが笑顔で返事をしていた。


「えへへー、ありがとー。みんなも元気そうでなによりだよー」


 ……なんだろう。割とフラットというか、フランクというか……和気あいあいとした会話を目の前で繰り広げられてしまい、俺はポカンと口を開けたままその光景を眺めていた。


 そして女子高生たちの輪の中に迎え入れられたエリザはというと、頭を撫でられていたり、抱っこされていたりと、可愛がられている感じになっていた。


「もう、エリっちってば相変わらずちっちゃくて可愛いぃ~!」


「あー、ホントそれっす。マジ尊いっすねー」


「ふふっ、私も同意見です。小さくて可愛くて、いつまでも撫でていたい気分になりますよね」


「きゃー♪ くすぐったいよー」


 まるでマスコットキャラクターみたいな扱いを受けているエリザだが、彼女も楽しそうにはしゃいでいる様子が見える。なんというか……満更でもない感じだ。


 こんな風にかなり親しげに話し掛けている、ということは……彼女らはエリザにとって、前からの知り合いってことなのか。……でも、どういう繋がりなんだろう? いまいち見えてこないな、この関係。


 ……にしても、あれだな。エリザがあの女子高生たちの輪に加わったことで、一気にその周辺が華やいだ感じがするな。主に見た目的な意味で。エリザの美しさと可愛さが一番際立っているけども、女の子たちも十分可愛い子たちばかりだ。


 3人ともそれぞれが別タイプの美少女だし、系統が被らず違うからこそ、それぞれの魅力がより強調されて見えるんだろうね。まさに学校のクラスカースト上位のリア充グループって感じだ。


 ちなみにそれぞれの特徴としては、一番最初に声を上げた子は明るい茶髪でストレートのロングヘアー。着崩した制服と短いスカートの間から覗く健康的な太ももが魅力的だね。活発的な性格っぽい印象を受ける子だ。


 続いて声を上げた子は黒髪で少し癖のかかったショートヘアー。眼鏡を掛けていて優等生のような風貌だが、意外とノリがいいタイプかもしれない。後輩キャラみたいな雰囲気がプンプンと漂っている。


 最後に声を上げていた子は金髪のセミロングヘアー。派手な外見なのに、どこか清楚な雰囲気を感じさせる子で、とても真面目な性格をしてそうなイメージがある。大人しめの子がこういうところにいるっていうギャップ感がいいね。


 そんな魅力あふれる女子高生たちに混ざって、きゃっきゃと楽しんでいるエリザの姿は、さながら歳の離れた姉妹のようだ。実際のところはエリザが一番お姉さんなんだけども。


 そうしたやり取りは俺からすると非常に微笑ましい光景なのだが……その反面、周りからの視線を集めてしまっていることにも気付いてほしい。


 もうね、道行く人たちみんなの視線が、あの4人に釘付けになっちゃってるんだよね。中には立ち止まって見ている野次馬までいるぐらいだ。


 単純に彼女らが可愛いというのもあるし。学生と幼女という、完全に風俗街において異質な組み合わせでもあるし、そりゃ注目も集めるよねって話ですよ。


 けど、当の本人たちはそんなことを気にすることもなく、楽しげにおしゃべりをしている。周りの視線なんかまるで気にしちゃいないようだ。なるほど、これが陽キャってやつなのかな。すげぇなおい。


 こんな状況だと俺もエリザに声が掛けにくくなってるし、野次馬連中も邪魔にならないよう遠巻きに眺めているだけという感じになっていた。これで話し掛けられる奴がいるなら、そいつは勇者と呼んでやってもいいと思う。


「お、お嬢さん方、ちょ、ちょっといいですかな。ふひっ」


 ……そう思ってたんだけど、いたよ。勇気を振り絞って声を掛ける奴が。男子禁制の花園の中に、堂々と足を踏み入れることが出来る猛者が。


 そいつの姿を一言で表すとすれば……まぁ、典型的なオタクくんですかね。黒縁メガネを掛けていて、チェック柄の服とリュックサックを背負っている。いかにもなオタファッションというやつですな。


 というか、いきなりしゃしゃり出てきて、なんなんだよこいつは。絶対にお前、本筋と関係無い奴だろ。そんな感想が俺の中で生まれた瞬間だった。


「も、もし良かったら、この僕と一緒に、お茶でもしませんか……? じゅるり……」


 うわぁ、しかも絵に描いたようなキモオタっぷりだ。めっちゃ興奮してんじゃん。鼻息も荒いし、鼻の下が伸びきってるし、目も血走ってるし……色々とヤバすぎて怖いわ。俺がエリザたち側だったら、迷わず通報するレベルだね。


 そして、そんなオタクくんに対して、JKトリオの反応はというと……


「え、なにこいつ。いきなり現れてナンパしてくるとか、マジないんだけど」


「うっわー、ないっすねー。ありえないっすねー。ドン引きっすわー」


「ごめんなさい。そういうつもりは一切ないので、お断りします」


 ……という感じでした。一刀両断どころか、粉微塵レベルのフルボッコでしたね。見事なまでにバッサリと切り捨てられていた。ここまで見事な拒絶は初めて見たかもしれん。


 まぁ、そうだよね。あんな見るからにヤバい奴だもん。関わり合いになりたくないに決まってる。俺だって嫌だもん。彼女たちの判断は正しいと思う。


「……ちっ。なんなんだよ、どいつもこいつも……」


 そして哀れにも玉砕してしまったオタクくんは、悪態を吐きながら去っていってしまった。彼は勇者だったけれども、残念ながら選ばれる側の器ではなかったようだ。それを見送る俺プラス野次馬たちの間には何とも言えない空気が流れる。


 ……てか、本当に何だったんだ、あいつは。何だったんだ、今の時間。突然現れたかと思えば、少女たちからフルボッコされて撃沈する。あまりの意味不明さに脳が追い付かない。誰か説明してくれ。


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