エリザ家のヒモな元社畜⑥



「何がしたいのかさっぱりだが……変なことするなよ」


「ふん。お前如きに言われる筋合いなど無い」


 そう言って九十九は俺から受け取ったスマホを手に持つと、何やら操作し始めた。しかも、自分のスマホも取り出して2台分の作業を同時にやっているようだ。いや、めっちゃ器用だな。


 つか、自分のスマホと俺のスマホを同時操作とか、本当に何をしてんの? もしかして、あれか? 人のスマホでサブ垢作って、それで本垢の自分にとって、何かしら有利になるように仕向けようと―――


「終わったぞ。ほら、返す」


 と、俺が不穏なことを考えながら待っていると、そう言って九十九が俺のスマホを差し出してきたので、それを受け取ることに。受け取りながらも、俺は訝しげに九十九を見ていた。


「……で、お前は俺のスマホに何をしたんだ? もしかして、何か良く分からんアプリでも、入れたりしたんじゃないだろうな?」


「ふん、何を言い出すかと思えば。私がそんなことをして、一体どんなメリットがある。妄言を吐くのも大概にしろ」


「んじゃ、なんで俺のスマホを弄ってたんだよ。普通に気になるんですけど」


「なに、簡単なことだ。お前がそれを使って変なことを仕出かさないよう、利用制限を設けさせてもらった」


「……は?」


「課金やサイトの閲覧、ダウンロードの制限。それとフィルタリング機能の設定をさせて貰った。これで悪用は出来まい」


 えっ? ……すると、なんだ? 勝手に俺のスマホを弄って、勝手に利用制限をかけたってことか? いや、待て待て待て。お前、人様のスマホになにしてくれてんの?


 試しに俺はインターネットの検索アプリを立ち上げると、検索バーにFから始まる5文字のムフフなサイト名を入力する。すると、検索結果には俺の求めていた結果は表示されず、代わりどうでもいい内容が表示されていた。


「……マジかよ。しっかりとフィルタリングされてやがる」


 あまりにもふざけた現状を目の前にして、俺は愕然しながらそんな言葉を漏らす。他にも色々なアレなサイトの名前を入力しても、返ってくる結果はどれも一緒だった。これはヤバい。色々とヤバい。


 それから俺はどうにか設定を解除出来ないか色々とやってみたが……うん、ダメですね。設定をした九十九に権限があることになっているから、それが無い俺にはどうにも出来そうにありませんわ。


 つまり、俺はこれから先……九十九に許してもらわないと、自由にホニャララやチョメチョメなサイトを見たり、アプリを使うことが出来ないってことなのか……?


 ……おいおい。やってくれたな、九十九さんよ。こちとら、ただでさえ監視の目があるから、最近ご無沙汰なのに……この仕打ちはあんまりじゃないですかね?


 俺もいい加減、我慢の限界なんだからな。近日中に適切な処置を施さなければ、どこかしらで俺の眠れる息子が暴発しかねないぞ。そうしたら困るのは、洗濯をするお前だって分かってんのか、この野郎。


「なるほどな。そっちがその気なら……俺にだって考えがある」


「ほう、考えだと。一体、何をするというのだ?」


「決まってるだろ。圧政には反逆を。古代ローマ時代からの常識だぜ」


 俺はそう言いながら、心の中で天地魔闘の構えを取り、九十九と相対する。ジョジョ立ちとかもそうだけど、実際にやったらただの痛い人だからね。心の中だけで止めときましょうね。


「……そうか。お前がそこまで言うのなら、私は止めない。だが……」


 そこで一旦言葉を切ると、九十九は俺を睨み付けながらこう言ってくる。


「あまり度が過ぎるようなら、私も容赦はしないからな」


 その言葉と共に放たれる、絶対零度の威圧。そこから発せられているのは、明確な殺意だ。天地魔闘している俺よりも、大魔王してんじゃないかと思えるくらいの威圧感が、俺の全身を包み込む。うん、これダメなやつだ。逆らったら最後、命はないパターンだ。


「……あー、えーっと。うん、今日はちょっと調子悪いみたいだし、この辺にしておこっかー。いやー、残念だなー。うんうん」


 という訳で、あっさりと白旗を振って、降伏宣言をしてしまいましたとさ。いやー、やっぱ無理ですよ。この圧力を前にしたら、俺には耐えがたきを耐えて抗うなんて、無理ってやつですよ。


「まったく、お前というやつは。そんなことなら、最初から歯向かおうするな」


「あはは……その、おっしゃる通りでして。へへっ」


 俺の完全敗北が決まったことで、話はひとまず収束を迎えた。ふぅ、危ないところだったぜ。あのまま突っ走っていったら、どうなっていたことか。


「それとお前に伝えておくことが1つある」


「ん?」


「そのスマホの支払いについてだが……お前は何も支払わなくていい。これは私が負担しよう」


「……え、マジ?」


「あぁ。元々、お前には連絡手段として、何かしらの携帯端末を用意するつもりだったからな。だから、費用はこちら持ちで構わない。感謝にむせび泣きながら、使用することだな」


 ……あ、ありがてぇっ……。感謝……! 圧倒的、感謝……! フィルタリングとか制限だとか、そういった部分が少し気になるけども、それでもお金を払わなくていいというのは、僥倖と言えると思う。


 なにせ、携帯料金は毎月発生するものだからな。それを月々2万円しかない小遣いから支出するとなると、他に使えるお金が減ってしまう。なので、この申し出は大変助かるのだ。


「いやぁ、流石は九十九さんですわ。その寛大な慈悲の心には、敬意すら覚えますよ。ほんと、ありがとうございます。ありがとうございます」


「……ふん。まったく、現金な奴め。自分に有利な展開になった途端、態度を改めるなんて。少しは恥を知った方がいいぞ」


「お、おっしゃる通りですね、ははっ」


「それとだな。お前がスマホ代の支払いをしなくて良くなった分、それだけの金額が浮いたことになるだろう。その分を財布と服、それと靴を購入する資金に回すといい。それで身だしなみを整えろ。いいな」


「あー、なるほど。それは確かにそうだな。じゃあ、ありがたくそうさせてもらうわ」


 まぁ、そういった訳で。九十九の粋な計らいにより、無事にスマホ代を支払う必要がなくなりまして。俺たちはその後、喫茶店を出てから必要な物を買う為に、更に別の店に寄っていくことになったのですよ。


 そのお陰で、外出をする際に着れる服が増えたし、お金も裸のまま持ち歩かなかくても良くなった。そこは素直にありがたい限りだね。これで少しは生活が充実したものになったと思えるよ、うん。



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