Re:吸血姫幼女と送る、愉しい軟禁生活⑥
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「時間だ。行くぞ」
「……ウス」
夜。21時を回った頃。俺はエリザに呼ばれて、九十九の案内の下、また彼女の部屋に赴いていた。ここには昼間にも来ていたけれど、夜になるとどこか神秘的な雰囲気を感じる気がする。
部屋の主たるエリザが目覚めているからなのか、それとも単純に時間帯が違うからなのか。はたまた両方か。なんにせよ、普段とは違う印象を受けるのは確かだった。
「おい。くれぐれもエリザ様に対して、粗相のないようにな」
いざ、部屋に入ろうとする間際、九十九が俺にそんなことを言ってきた。しかも、殺気マシマシで。マシマシにするのはアブラとかヤサイとかだけにしといてくれ。
「へいへい。分かってますよっと」
適当に返事をしながら部屋に入ると、相も変わらずの豪華な部屋が俺を出迎える。そして、部屋の中央付近に鎮座する、ソファの上には―――
「あっ、ヤシロ。おはよー」
無邪気な感じで俺に向けて手を振ってくる、愛らしいエリザの姿が見えた。今日の服装は薄手の黒いワンピース姿で、肩や足などを露出させているタイプのものだ。そしてスカート丈は膝上くらいの長さになっている。
まるでサキュバスを彷彿とさせるような衣装であり、非常に扇情的だと言わざるを得ないだろう。だが、そんな格好をしていても、天使のような可愛さは失われていない。エロスと可愛さが同居した、奇跡のバランス感覚である。
そんな眼福過ぎる光景を前にして、思わず俺は合掌をしていた。それほどまでに尊かったからだ。素晴らしい。実に素晴らしいぞ。ありがとう神様。……だが、こんな不幸な人生にしてくれた恨みは消えてないからな! あの世で覚えてろよ!
「……? ヤシロ、どうしたの?」
と、俺が一人で感慨に浸っていたところ、エリザが不思議そうな声で尋ねてきた。おっと、いかんいかん。つい悟りの極致に達してしまってたわ。精神が至る前に戻ってこれて良かったぜ。
「いやー、なんでもない。ただの発作みたいなもんだ。気にしなくていいぞ」
俺はそう言って軽く手を振った。すると、エリザは首を傾げながらも、「ふーん。そっか」と言いながら素直に引き下がってくれた。
うん、本当に素直な子だよなぁ。素直すぎて、悪い人間に騙されないか心配になるくらいだ。……まあ、あの九十九が付いている時点で、そんなことはあり得ないだろうけど。
「じゃあ、こっちに来てもらってもいい?」
そう言いながら俺に向かって手招きをして、彼女はソファを軽く叩いた。なるほど。そこに座れば良いわけですね。分かります。
言われるがままに俺はソファに腰掛ける。すると、座り心地の良い柔らかい感触が伝わってきた。いつもながら、一般的な市販品とは比べ物にならないくらいに高品質だな。このソファは。
流石はお金持ちといったところだろうか。こういった高級品を惜しみなく使っていて、うらやまけしからんというやつだ。俺なんて、ワンルームの部屋には無用の長物になるから、買ったことが無いというのに。
……てか、こういうのにお金をかけられるのなら、少しでもいいから俺の待遇とか食事を、良くしてくれてもいいんじゃないですかねえ? まぁ、九十九からすれば俺への出費は、無駄遣いぐらいにしか思ってないんだろうけど。あいつ目線だと、俺は家畜だしね。
「えへへー」
などと思考を巡らせていると、エリザが抱き着くような感じで俺に飛びついて来た。そしてそのまま顔を埋めるように押し付けてくる。まるで飼い主に甘える子犬のようだ。可愛いな、おい。ただ、立場的には逆なんだけどね。
「それじゃあ早速だけど……ヤシロの血、吸わせてもらうね」
エリザはそう言うと、俺のふとももの上に跨るような姿勢となり、向かい合うような形になる。互いの吐息がかかるくらいの至近距離となり、俺の心臓は緊張のあまり鼓動が速くなる。
彼女の綺麗で可憐な美貌、それと真紅の瞳に魅せられているというのもあるけど、大半はこれから血を吸われることに対してのドキドキ感の方が強いと思う。既に何回か経験をしているけども、いつになっても慣れやしないんだよな。これが。
例えるなら……そう。俺の感覚的には歯医者の治療のような感じかな。あれも何度受けたって慣れるものじゃないよね。これから歯を削られるという恐怖は、いくつになっても消えるものでも慣れるものでも無いし。
「今日はどんな味がするのかな。ちょっとでも美味しくなっているといいんだけど」
舌なめずりをしながら、嬉しそうに微笑むエリザ。そして彼女は俺の首元に顔を埋めて―――
「それじゃ、いただきます」
小さく呟くように言った瞬間、鋭い牙が俺の首筋に突き立てられ、そしてそのまま肉を引き裂くようにして中へと侵入してくる。そうした痛みに反応してか、俺は思わず身体を強張らせてしまうものの、すぐに力が抜けていくような脱力感が襲ってくる。
「んっ、んくっ。じゅぷっ、んちゅっ……」
艶めかしい声を出しながら、吸血行為を続けるエリザ。懸命に俺の血をすするその姿は可愛らしくもあり、同時に蠱惑的にも思えた。
「んんっ、ふぅっ……」
ある程度飲んだところで満足したのか、エリザはゆっくりと顔を上げた。舌なめずりをしつつ、さっきまで吸っていた血を味わうように喉を鳴らす彼女の表情は、とても色っぽく見える。
「……うん。やっぱり、ヤシロの血っておいしくないね」
そして開口一番に放たれた言葉が、それだった。どうもまだまだ俺の血はマズいままらしい。あんな地獄や拷問に近い食生活をしているというのに、まだエリザの言う美味しい血にはほど遠いようだ。
……てか、どうすれば血って美味しくなるんですかね? 教えて、有識者の人。このままだとずっと俺はマズいマズい言いながら、血を吸われ続けて生きる羽目になりそうなんですが。
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