RiRi
白井4
りりと遥佳
りり!遊びに行くよ。
少女が声をかける。りりと呼ばれた女はよたよたと歩みを進める。
「あ、もう。遥佳、待ってよ」
りりが少女に呼びかける。遥佳はりりの小さな手をぎゅっと掴んで走り始めた。
りり、またの名をRiRi。彼女はアンドロイドだ。アンドロイドとは人間のような身体を持ち、人と同じ脳を持った機械の総称である。
RiRiは人工知能を搭載している。だから、遥佳と会話し、友人、そして理解者としてそこに存在することが求められている。アンドロイドとはそういうものだ。人間を理解してくれる、親友や家族、恋人とは違う無二の立場。人工知能は今や、そういうものだ。
「遥佳、今日は何して遊ぼっか」
りりはにこにこしながら遥佳に尋ねる。
「普通に駅前に行ってサンドイッチのお店行かない?お腹減ったよ」
「いいね。行こう、行こう」
りりと遥佳は街の大通りに出る。
「あ、遥佳。あの人かっこいいね」
りりが指差す先には、青年が歩いている。黒いキャップに赤い眼鏡。すらっとした体型で背が高い。彼はにこやかに誰かと話し込んでいるようだ。
「本当だ、かっこいいね」
遥佳も彼を見ながら頷く。彼女は別に男性に興味はないのだが、彼もアンドロイドではないかと少し気になったのだ。アンドロイドの中には人間にそっくりな見た目のものもいるからだ。でも、それは違った。完全に人間だ。そういうものを見た時私はひどく落ち着かなくなるんだ、遥佳はそう思った。
「ね、遥佳、あのお店美味しいの」
りりは無邪気に遥佳に話しかける。
「うん、美味しいよ。行ってみよっか」
りりと遥佳は大通りを進む。この大通りには色々な店が並んでいる。本屋さんや服屋、お洒落なカフェから昔ながらの八百屋などもある。中でも特に目立つのがこのサンドイッチのお店だ。この店では様々な種類のサンドイッチが売られている。遥佳にとっては幼少期からの行きつけ。RiRiを遥佳の家に導入したのはまだ2ヶ月前かそこらだ。だがRiRiもどの店かというのはよく知っている。
「どれがいいかなあ」
「私はこれかな。卵とハムのサンド」
「いいね。買ってきてよ」
アンドロイドは物を食べない。ガソリンを飲むので、それで十分。
「何これ!」
RiRiは公園にいる虫を指さして呟く。勿論知っている。知っているというより検索して答えを知っている。これはカナブン。緑の小さな甲虫。
遥佳は言った。
「これはコガネムシだよ」
「コガネムシ?」
「うん、花の蜜とかを食べる虫。私虫無理だけどこいつはなんか行けるんだよねー、なんか小学校の頃習った」
遥佳は目を見開いて笑っている。RiRiの人工知能は、それをそっくりそのまま記憶した。コガネムシ。カナブンとコガネムシは間違いやすい。だが、コガネムシは丸く、カナブンは扁平な形状。この少女はその点において誤謬がある。記憶した。
「そうなんだ。ありがとう」
「懐かしいなー、小学校」
「もう5年も前のことだもんね」
「コガネムシ」はカサカサと花に顔を突っ込んでいる。遥佳の笑顔はすこし、りりには怖かった。
「りり、みて!虹!」
遥佳は目を輝かせて言う。その指差す先には微かに、だが確かに七色のアーチが掛かっていた。りりもその虹に驚く。だが、RiRiはその仕組みを知っている。虹の原理も色の正体も。驚いた顔になってみせた。犬も鳩もコガネムシも虹を無視するところを、驚くのが人間なのだ。りりはアンドロイドだけど、人間のアンドロイドになれて良かった。
「すごいね」
「きれいだね」
「うん、きれい」
遥佳は笑う。
「ぁ、…あ」
遥佳の太ももが震える。優しい刺激がだんだん激しくなってきたからだ。
りりは舌を乳首から離した。暗がりでりりの顔はRiRiじみてくる。でも、潤んだ遥佳の目の奥にはりりが見えている。遥佳は微笑んで、りりの身体を受け入れる。腰をゆっくり動かす。りりは道具になっている。
「ふ、ふ…っ、ふ」
息が漏れる。りりも溜め込んでおいた気体をちょっと排出して、内部の熱っぽい電子体系を落ち着かせた。防水加工のなされた合成ゴムの皮膚は柔らかく、遥佳の体液で光を模糊に溶かす。それもまた、アンドロイドだからだ。りりはアンドロイドで、よかった、よかった。
別に遥佳の住んでいる煤けたアパートの201号室とは全く関係のない話なのだが、先ほどりりが見ていたコガネムシは、現在公営団地の灯りの周りをうろうろしているところを猫に観察されているところである。
RiRi 白井4 @Tarla
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