巡る季節と色模様

刻堂元記

読切の短編

 緑あふれる園の中。古来より咲きしは紅の花。蒼を遮る灰雲の下、黒の影より現れる。薄緑の蕾より、奇しくも赤に染まってく。その内側に宿りし線状の黄色。染まらず顔出し、蒼の向こうへ命届ける。細長く脆い黄色種。やがては地に落ち、茶色の世界でひと眠り。やがては透明、水に満たされ、光の刺激で目覚めする。


 茶色を被った幼き芽。その遥か上には白い雲。高み目指して、黄緑の茎を伸ばしゆく。芯の弱さは最初こそ、時を隔てば確かな緑と成り変わる。その落ち着き様、一重に逞しく生きる、青のように尊い存在と並ぶべき。


 とはいえ、あおは空の響きと相対す。蒼に碧、青、そして藍。その区別、もはや境界なくして曖昧に、あおのままに使われる。美しきあお。


 あおの空模様は常にあれ。違う模様も映し出す循環は、茜に紺を繰り返し、灰や黒をも選び抜く。四季にも劣らぬ天気色。その移ろぎに園の緑が呼応して、独自の色を花模様として浮かばせる。まさに虹のごとく。


 けれども紅。その花だけは特別に、夏色限りの顔を持つ。その花姿、思うに西瓜、見れば更に西瓜と言えど、黒の斑点、惜しくも水玉、マル形状。小粒に散らばり、紅に染まらぬ黒印。混ざらず合わさり、不思議に無くなる緑終わりの晩夏後。秋より濃ゆい暖色に、園の葉茎も赤変化。


 落ちて積もるは赤絨毯。空も同じく赤系統。同じ暖色、色違い。強く強烈、茜光。対して赤は、茶交じり色で殊更に、感慨深さが滲み出る。


 暮れる夕焼け、赤茶道。注ぐ橙光、細樹木。光まみれの日中に、哀愁漂う黒影が、静かに揺られて伸び縮み。沈む光源、紺空の、幻想風景、趣深しで、秋めく夜空の向こうには、次なる季節の音響く。


 けれども紺空、冬の夜。白雲無き空真下より、凍える涼風やってくる。寒地、寒地に、そこ寒地。どこ吹く強風白空に、枯れ葉を高くへ舞い飛ばす。


 寒風、粉雪、銀世界。見渡す限りの白大地。茶色の隙間の緑草、白の大群に埋もれゆく。紅の花も花弁散らせて、辞儀倒れ。されど樹木は、緑失くしてありのまま。素直に化粧白下地、慣らして染めての洒落姿。落としてさっぱり雪解けに、息吹が新緑と共にで吹き返す。


 見事な緑地に光陽と、染み込む雪水、光合成。張るも、伸ばすも有限で、白過ぎ去りし春は単純に、決まって答えは成長期。


 そのため緑草、日の差す方へ茎を、若葉を近づける。訪れ、音擦れ、茶土擦れ。転がる小石も灰色に、擦れて削れて丸形に。たまにの偶然茎表面、微かな色痕そこ付ける。濃緑茂みのその先の、記念と誇る天然品。


 生きる古、紅も稀にの奇跡で色痕を、歴史と並んで刻んでく。園の色彩万色の、共生姿を夢に見て、咲かせる模様も七変化。回る季節に踊るうち、着色式に晴れ支度。今か後かと待たぬうち、気ままに開くは色澄みの、美的な外見花模様。

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