第2話
「…言ってくれれば良いのに」
「いや…千里みたいなんは…ちょっと手ぇ抜くと『私に飽きたん?』とか『最近優しくない』とか言いよるやろ」
「なおさら…結婚前に言ってくれれば良かったのに」
「…シてもせいぜい月数回やん?しやったら我慢しよかなぁて…それ以外は好きやし」
「がまん、」
私とのセックスは苦行なのか。
その言葉はまるで刃物…大柄な彼のリーチで離れた私の心をひと突き、ずばと貫かれた気分がした。
元々が真面目な人だとは思っていないしヤンチャで男らしいところがむしろ好みで交際した。
何事もいい加減に済まそうとするのを
「……最近…勇太、太ったよね。もしかして買い食いとかしてる?」
「んあ…仕事帰りにメシを…その…ファーストフードとか、こってりしたもん…」
「ご飯も…物足りないかぁ」
細マッチョで凛々しかった彼はここ最近お腹が出てきて、心なしか顔もふっくらとしている。
周囲は「幸せ太りか」なんて言ってくれたけどそれも違った、哀しいというか無力感に叩かれて蹴られて非常に惨めな気分だった。
「いや、凝った料理もさ、雑穀米の弁当も美味いよ、けど不健康そうなもんガッツリ食いたい時もあるやんか。お洒落な部屋も汚されへんし気ぃ遣う…けど千里がしたいようにするんがええと思うから…我慢するよ」
「我慢なんて…一緒に暮らす意味ないじゃない…」
「意味はあるよ、俺は千里が好きやねんもん、子供も欲しいし」
「こんなことされて…子供なんて無理だよ…」
この人は何故私と結婚したのだろう。心が休まらない家に帰って来ることに意味があるのか。
口に合わない料理を食べて感想を言って、我慢して妻を抱いて…分からない、
「おい、大丈夫か⁉︎」
「……勇太…なんで、私と結婚したの?何にも…合わないじゃない、我慢ばっかりさせて、」
幸せだと思っていたのは私だけ、旦那は他所で性処理をしてジャンクなご飯を食べて、そんな息抜きがあるからこそ私との時間を乗り切れていたのだ。
「そら千里が好きやから」
「どこが⁉︎どこが…好きなの、どこが…全部合わないじゃない、こうやって泣くのも面倒くさいと思ってるんでしょ⁉︎やだもう……嫌、いや‼︎」
「落ち着けて、おい」
「触らないでっ‼︎」
「っ‼︎」
伸びてきた手を振り払ったら私の爪が彼の頬に筋を作り、悪い当たり方をしたのだろう数秒経ってぷくぷくと盛り上がりところどころに血が滲む。
「あ…」
「…痛ってぇ」
「勇太…ごめ…」
「ええよ…寝る」
「ごめ…なさ…」
その夜はそれぞれのベッドに分かれ、彼はスマートフォンをつついていたが日付が変わると明日に備えてすぐ就寝したらしかった。
反対に私は2時を回っても眠れず、新聞配達のバイクの音が鳴り出した頃にようやく意識を飛ばすことができた。
つづく
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