いっそ嫌いになれたら楽なんだけど

茜琉ぴーたん

1・最悪の出来事

第1話


 入籍して半年、夫の浮気が発覚した。


 とは言え相手は海外の風俗嬢で、慰謝料どころかこちらが客として金を払っている立場とくるからどうしようもない。

 所帯を持ったとはいえ個人の遊びに制限をかけるつもりは無かったから、友人との旅行だって自由にさせていた。向こうでは合法のカジノで旅行代以上の儲けは出ていたし、ブランドバッグをお土産に買ってくれたから許せた。

 しかし『結婚したら他の女性と性的に関わってはいけない』なんて当たり前の事を、わざわざ言わなかったのがいけなかったようだ。


 彼との出逢いは、知り合いが開いてくれた合コンだ。

 家電の配送をしているだけあって筋肉が付いて男らしくて、これまでに付き合ったことのないタイプだったけどアプローチされて悪い気はしなかった。


 三十路を前にそろそろ身を固めようと思っていたし、彼はいい意味でいい加減と言うか「細かいことは任せるわ」というスタンスで、交際のルールを提示すれば遵守してくれるし記念日もお知らせすればそれなりの会食を設けてくれる良い人だった。


 ちなみにどうして浮気が分かったかと言うと。セックスをしようと体を合わせた時に、彼がくしゃと何か痛がるような表情を見せたために気に掛かったのがきっかけだった。

 その時は挿入まではせずごろごろと裸で抱き合っただけだった。だけどその後も数日見ていると排尿時にも痛むようだし、恐い病気ならまずいとこちらが懇願する形で穏やかになだめたところ…恐らく性病、そして「旅行先で女を買った」ことを白状された。

 そこから我が家はお通夜状態、連れ添って病院へ行き恥を忍んで陰部を医師とはいえ男性に露呈し…案の定私も感染しており夫婦揃っての投薬生活が始まった。


 そして病院から帰宅した日の夜…とりあえず先送りにしていた浮気問題の話を聞くことにした。


勇太ゆうたなんで?私じゃ物足りなかった?」

「…すまん」

「答えて、私じゃ楽しくなかった?」


 私は元来あまり性行為に固執するタイプではなくて、夫に体を許すのは多くても月に2回くらいである。自分から誘わないのは勿論だが内容も淡白というか…しっとりとまるでドラマの『濡れ場』のようなセックスしかしていなかった。


「ちゃう、んー…その…千里ちさとは意識高いやん、ボロが出せんというか…その…」

「なにそれ…だとしても他の人に手を出す?」

「いや…」


 その後途切れ途切れに出てきたワードを要約するに、どうやら私はお洒落で見栄えがいいし連れて歩くには良いけれど、ずっと背筋を伸ばしているとくつろげないというか窮屈さを感じるらしい。


 そんなことは交際時点で分かっていただろうと一喝すると、夫はついに本音を漏らす。

「下世話な…ただのセックスがしたかってん、気持ちええだけの」

「………はぁ?」

「千里も気持ちええねんで?しやけど…なんやムードとか…そんなんこだわるやん、……ダルい時があんねん、サッとして寝たいいうか…うん…」


 確かに部屋はぼんやり暗くしてアロマを焚いて、キスに始まりきっちり後戯までして、寄り添ってピロートークをするところまでがセックスだと…そういうものだと思っていた。

 しかしそれを最初にしたのは彼からで、私はこの丁重な扱いにいたく感動して賛辞を贈りまくったのは憶えている。

 つまりは小手調べを気に入られたためにそういう丁寧なセックスしかできなくなり不便を感じているのだと…実に身勝手な主張を夫はちびちびとり出した。

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