第3話 本当にそれ買うの
「はい、これで奴隷紋を刻み終わりました、銀貨5枚頂きます。これより、この奴隷はケイン様の物です。奥の部屋をお貸ししますのでどうぞお話し下さいませ!」
「一応聞いておくけど、奴隷紋の解除には幾ら掛かりますか?」
「銀貨2枚です」
「ありがとう」
購入前の奴隷とは話していけない。
高額な奴隷は兎も角、安い奴隷の場合はそうだ。
販売されるまで奴隷は奴隷商人の持ち物。
だから、会話をするのはマナー違反。
尤も、不味い事は臨時の主人である奴隷商人に話さないように命令されているから購入する前まで解らない。
奥の部屋に行き話をする事にした。
先に口を開いたのは彼女の方だった。
「それで、貴方は私を買ってどうするつもりなの? 私は言ってはなんだけど、家事能力は低いわ」
どう考えても違和感がある。
見た目はどう若く見ても40歳は越えている。
前の世界とは違いこの世界では充分年寄りだ。
それなのに、声だけ聴くと凄く若く聞こえる。
齢をとった人間特有のしわがれた声ではなく、綺麗な澄んだ声だ。
俺は彼女を奴隷として手元に置く気はない。
この世界で早くに両親を失った俺。
先に父親を亡くし苦労して俺を育てた母。
だが、そんな母も俺が10歳位の時に亡くなった。
だから、亡くなった母親に似た彼女を親孝行を兼ねて購入しただけだ。
「別にどうこうする気はないよ。 貴方は亡くなった母親に良く似ている。 残念な事に俺の親は俺が子供の時に亡くなってしまったから半分親孝行のつもりで買ったんだ。だから貴方さえ良ければ、君さえ良ければすぐに開放するよ……ただ、手持ちが余り無いから、解除代の銀貨2枚を用意する為、悪いけど5日間位待って欲しい」
悲しい事に俺は余り稼げてない。
ゴブリンを狩って1日銀貨1枚と銅貨5枚。
前の世界で言うと日給1万5千円と良い報酬に思えるが、そこから宿賃を払い、食費を払い、手入れに必要な物を買うとそれほどのお金は残らない。
だから銀貨2枚というお金を手にするのに5日間位は掛かる。
「別に解放しなくていいわ。 だけど、貴方随分お人よしなのね。こんなお婆ちゃんみたいな奴隷を買うのもそうだけど、買って何もしないで解放するなんて! だけど、解放されても行く所も無いし、私はやりたい事もないのよ! なにが出来るか解らないけど、良かったら一緒に暮らさない?」
幾ら聞いても声が若い気がする。
二十代、いや十代の若い子の声にしか聞こえない。
「そうだな、俺も一人暮らしが永いから、誰かと暮らすのも良いかも知れないな。母親と暮らすつもりで一緒に生活してみる? 尤もそんなに裕福じゃないから楽はさせてあげられないけど……」
「本当にお人よしね……奴隷に態々そんな事いう必要もないのに、まぁ良いわ! これから宜しくね……え~と、貴方名前は?」
そう言って手を差し出してきた。
「ケインです」
俺は名前を伝え、差し出された手を握ったのだが……
気のせいか?
手に皴が殆ど無い若い子の手の様なきがする。
「私…...の名前はメル……宜しく」
どう見ても良くておばさん、お婆ちゃんだよな?
だけど若々しく感じるのは何故だろうか?
◆◆◆
奴隷商の帰り道、メルさんの服を買う事にし古着屋にきた。
ボロボロの奴隷服のままじゃ可哀そうだ。
だが、俺は余りお金が無い。
「悪いな、余り余裕が無いんだ。悪いけど銅貨6枚位の範囲で納まるようにお願いできるかな?」
「銅貨6枚ね! 解ったわ、ケインくん」
何故だか、メルさんの笑顔が凄く綺麗に見えた気がする。
俺は決してマザコンやババコンじゃない。
だけど、一瞬胸が高鳴ってしまった。
メルさんは、楽しそうに服を選んでいる。
幾つになっても女の子は女の子なんだな。
そう思っていたら……
「よし、決めたわ! これにする」
メルさんが手にした服は、ミニスカートのどう見ても若い子向けの服だった。
「本当にそれにするの?」
「いけない?」
まぁメルさんが良いなら良いか……
流石に若作りとは言えない。
俺達は代金を払い、古着屋を後にした。
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