第2話 出会い


この齢まで雑用ばかりしていたのがあだになったな。


今の俺は32歳。


冒険者の旬は短い。


もうロートルも良い所だな。


最初に組んでいた仲間はしっかりと家庭を持っている者も多いし、人によっては引退している。


気がついたら流される様に『雑用ばかり』していたけど、本当は俺も普通の冒険者に成りたかったんだ。


前世の記憶が虫食いだけどあり、つい料理や雑用を頑張ってしまったのが失敗だったな。


転生者ではあるけど、虫食いは一番役に立たないんだよな。


流されやすいこの性格が恨めしい……今更言っても仕方が無い。


今更、親友や恋人になるような人間関係を作るのは難しい。


パーティは組む気になれば引く手あまただけど『お父さん扱い』だし、そろそろ諦めた方が良いのかな……


いつもの様に冒険者ギルドから宿屋への帰り道。


いつもの光景。


だけど、この日は少し違っていた。


いつも前を通りかかる奴隷商に檻がひとつ置かれていた。


水色の髪に、背が小さくて小柄な女性。


年の頃は俺より10歳以上は年上に見える。


ボロボロの奴隷服を着ていても気品の良さが解かる。


なかなか綺麗なお婆ちゃんだ。


さぞかし若い頃は綺麗だったんだろうな……


だけど、それ以上に……似ている。


俺のこの世界での母さん。


もう、死んで居ない母さん……メルティア母さん。


勿論、別人なのは解る。


だが、どうしても目が離せない。


似すぎているからか……


「おや、ケインさん、この奴隷が気になりますか?」


奴隷商の親父が声を掛けていた。


高位のパーティに居たからこれでも顏が広い。


「いや、少し亡くなった母さんに似ていたから気になった、それだけだよ!」


「そうですか? それなら買いませんか? 安くしておきますよ! 年老いた家事奴隷ですから」


「そうか……と言いたい所だが、相変わらず金欠でな、悪い」


「ケインさんがお金を無いのは知っていますよ! だから、奴隷の販売の最低価格、銀貨5枚で良いですよ? 如何ですか?」


銀貨5枚か。


それならどうにかあるな。


このまま一人で暮らすのも、なんだかな。


母親位の歳の人間と暮らすのも悪く無い。


家族を買った。


そう思えば良いかも知れない。


「解った……それなら、買わせて貰おうか」


「お買い上げありがとうございます」


つい勢いで買ってしまったが……まぁ良いか。


「ねぇ、貴方本当に、私、いや儂を買うの?」


「ああっ買わせて貰うよ」


「そう……随分と奇特な方なのね」


可笑しいな……


結構な齢のはずなのに、声は、まるで若い子の声だ。


多分、気のせいなのかも知れないが、声だけ聞くと少女の声。


それも甘ったるい可愛らしい少女の声にしか思えない。


多分、気のせいだよな。


なかには齢をとっても若い声の女性もいる。


気にする必要は無いな。


購入手続きが終わったら話してみるか。





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