勢い探偵セイ

カバの牢獄

第1話勢い探偵セイ

『疾くと御覧あれ』

 テレビの中の少年が黒色のオーラを纏って超巨大魚を鋭い斬撃を飛ばして捌いていた。

「何だとーーーー!僕よりオーラの色が上で目立つやつが現れるなんて・・・。こんなのは間違ってるっーーーーー!」

 ビールの空き缶を握り潰しながらディアストーカー、ホームズが被っている帽子を被った、無精髭を生やした青年は叫んだ。

 因みにだがオーラの色は上から黒、金、紫、赤、青の順番に凄い。セイは金色のオーラを纏う持ち主だった。

「五月蠅いですっ!」

 まだ、十二歳ほどの少女が温かい湯呑を机の上にドンと叩きつけた。

「兄さん。仕事が無くなると心配するなら足で依頼を探しに行って下さい」

「そんなこと言うなよ、イキ。僕の金の探偵としてのネームバリューが一般人で一番凄く無くなってしまったんだぞ。これを叫ばずにはいられるかっ!アァッーーーーーーーーーーーーーー!」

「五月蠅いですっ!だったら、兄さんも会いに行けばいいじゃないですか!」

「止めろ。そんな惨めなことをこの金の探偵セイ様にさせようと言うのかっ!兄をもっと敬えっーーー!」

「もう、五月蠅い。私も金だけど、ツリト君は凄いなあって素直に尊敬しています。兄さんは何でそんなことができないのですか。バカなのですか?」

「バカなの?・・・兄を愚弄するんじゃないっ!!イキの兄貴は金の探偵だぞ。訂正しろっ!」

 るるるるるるるるる♪

 セイの目の前のスマホが大音量で鳴った。セイは妹のイキを睨み付けて電話に出た。

「もしもし。・・・僕に?・・・機嫌が悪いんだが?・・・どうして、僕がツリト少年の力にならないといけないんだ?・・・ん?解決できない謎がある?・・・僕ほど凄い奴はいない?・・・ツリト少年よりもよっぽど凄い?・・・はあ。仕方ない。今から向かいましょう」

 セイはチェック柄のコートを着るとパンパン叩いて埃を落とすと妹のイキの手を取った。

「僕をツリト少年の解体ショーの会場に連れて行ってくれ」

「また、騎士さん?」

「ああ。今回は近衛騎士だ。高い報酬が得れそうだぞ」

「じゃあ、行きますか」

 イキは金色のオーラを纏うと瞬間移動をしてツリトが解体ショーをしている会場に向かった。

 因みにオーラはシックスセンス(特殊能力、各自)を使うための燃料である。




「で、この五人が魚を盗んだとされる怪しい人物なんですね、サニーニョ」

「はい。私が泥棒という大声を聞いた時会場内で怪しい動きをしていたのはこの五人です」

 おっさん、若い女性、青年、中年の色気のあるおばさん、じいさんだった。

「なるほど。分かりました。容疑者を観察しましょう」

 セイは胸ポケットからパイプ煙草を取り出すと煙草を入れた。そして、ポケットから取り出したマッチ棒を箱から取り出すと横のザラザラで火を点けた。そして、煙草に火を付けるとマッチを振って火を消して握りつぶした。そして、軽く一息吸って香りを楽しむと金色のオーラを纏った。

「セイ探偵。ここは禁煙です。止めてください」

「五月蠅い!お前たち近衛騎士が僕を呼んだんだろう。だったら、僕のやり方を押し通す!」

 セイはイキシチ王国の近衛騎士団団長のサニーニョに対して顔の前で大声で叫びパイプ煙草を吸った。そして、煙を吹きかけた。

「二度と、僕の推理の邪魔をするなっ!」

 サニーニョは怒りで震える手を何とか抑えていた。後ろで部下の騎士が「ダメですよ、団長」と言いながら二人ががかりで抑えていた。だが、それもほとんど意味を成していないようで、サニーニョが腕を軽く動かすと二人の騎士は尻もちを着いていた。仕方なくイキがセイに話し掛けた。

「なんという態度ですか、兄さん。失礼ですよ!」

 イキはそれなりに叫んで兄のセイを叱った。兄は悪いと平謝りだけした。サニーニョの怒りはその様子を見てだんだんと収まったようだ。

「では、改めて。観察します」

 セイは金色のオーラを纏い直した。セイのシックスセンスは人が嘘を吐いているかを見極める能力だ。

「質問です。今日、この会場で窃盗しましたか」

「いいえ」「うんうん」「してないっていってるだろう!」「してないわよ」「するもんか」

 全員、嘘を吐いているのか。

 セイの視界には嘘を吐いたひとは黒く染まっている。セイは一度パイプ煙草の香りを楽しんでから肺を大きく膨らまして吸った。

「犯人が分かりました。では、今から問い詰めます」

 セイはもう一度パイプ煙草を楽しんだ。そして、大きく息を吸った瞬間に背筋が凍った。

「俺見たよ」

 黒色のオーラを纏った十歳の少年、ツリトが来たのだ。セイはガタガタと歯を言わせながら振り向いた。そして、ツリトが続けて喋ろうとしていたため、思わず叫んだ。

「去ねっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 会場にいた全員が顔を顰めた。ツリトだけが飄々としていた。

「五月蠅い。おっさん。アンタ、さっきから痛い目を向けられてるぞ」

「おい、待て。おっさん?餓鬼。ふざけるなっ!訂正しろっ!!!!」

 会場がザワザワした。セイに視線がより多く集まっていた。だが、セイはツリトに視線が集まっていると理解して更なる恥を晒した。

「見てみろ!お前の失礼な大人への態度に周りの大人全員が白い目を向けているぞ!少しは恥というものを知ったらどうなんだ!」

 ツリトは思わず笑った。

「面白いね。おっさん。そこまで勘違いしているなら、そのままでいいんじゃない」

 ツリトは興味を失くしたのか背中を向けて黒色のオーラを纏わずに人混みの中に消えた。セイはその様子を愕然として見て怒りで手が震えて大きく息を吸ったところで妹のイキがセイの頭を思い切り叩いた。

「兄さん。どこまで、恥を晒した気が済むのですか!いい加減にしてください!」

 セイはイキが怒っていたため、仕方なくツリトへの怒りを鎮めた。そして、容疑者たちを改めて金色のオーラを纏って見た。そして、大きく息を吸った。

「犯人はお前だっ!」

 まずは左端のおっさんに指を向けた。おっさんは酷く動揺した。同時に、右の四人は肩を下ろして安堵した。その瞬間を見計らってセイは叫んだ。

「犯人はお前だっ!」

「犯人はお前だっ!」

「犯人はお前だっ!」

「犯人はお前だっ!」

 丁寧に一人ずつ指を指して大声で叫んだ。五人は次々に動揺して行った。セイの勢いに呑まれて本心が体に出てしまったのだ。サニーニョは目を細めて頷いた。

「どうやら、皆酷く動揺をしているみたいですね」

 サニーニョは一人一人に睨みを利かした。全員怯えてそれぞれに自供をした。

「では、後は一人一人に詳しいことを聞きますか。個室にお願いします」

 セイはディアストーカーを深く被り直すとパイプ煙草から煙草の匂いを楽しんだ。サニーニョと部下たちは容疑者ならぬ窃盗者の手を拘束して個室に連れて行った。セイはしばらく静けている会場で歓声が沸くのを待った。だが、一向に沸かずにそれどころか睨まれていることに気付いた。

「兄さん。行きますよ」

 イキはセイの腕を引いて騎士たちのあとに続いた。そして、一度振り返って立ち止まった。

「兄が迷惑を掛けてごめんなさい」

 十二歳の可愛い少女の謝罪に温かい声が掛けられた。セイはそれを自分に向けられたものだと勘違いして上機嫌に高笑いした。

「はーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」

 冷めた視線を向けられているのに気付かずに。





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