第2話 突然の選択


スズの人生は至って平凡。

人間関係のトラブルも無く学校生活は順調で、成績も中の下、私生活も目立った事はなく、波風が立たない順風満帆の生活だった。

そんな穏やかな日常に、事件は起きる。


「海外!?」


俺は椅子から1人転げ落ちそうになった。

それは、学校帰りのある晩。夕食も終わったから、自分の部屋に帰ろうと思っていた矢先に両親に呼び止められ。

神妙な顔して言うものだから、不安に駆られながら両親の対面に座り直すと、母は落ち着きを払った声で『数年、海外に転勤することになりました。一ヶ月後にはここを出ます』と言ったのだ。

日常が一気に変わるような突飛な話に俺は、心が騒がしく揺れ、開いた口を閉じる事はできない。


「海外って、どっどうするの。ここの生活は?俺、父さんと2人きりって事なのか」

「父さんは勿論、母さんについていくさ。君を1人なんかしないよ」


そう言って、愛に満ちた眼差しで父は母の手を包み取る。

息子の目の前でキスでもするのかと、それ程の近さだったが、冷静な母は手からスッと抜け出した。


「分かった、ありがとう。話が長くなるから後でして。混乱すると思うけど選んで欲しいの、ここに残るか、私達と海外に行くか」

「えっ、そんな突然言われても。ていうか、ここに残るにしても俺、家事とか全く駄目だし」

「貴方が家事が出来ないのは勿論知ってます。それに高校生と言って子供を一人にするのは不安ですから、私達が日本に居ない間は知り合いの家に住んでもらいます」

「知り合いって、もしかして義宗(よしむね)さん」

「そう、義宗なら貴方を任せられるし、貴方も知っているから良いと思って」


義宗という男は母親の古くからの知り合いで、母の信頼の出来る友人。何度かスズは会っているが挨拶をした程度の顔見知り。

知らない人の家に数年か、外国で親と数年、どちらを選んでも、この先の未来に波乱が待っていそうだ。


「今ここでとは言わないから、どっちにするか決めて欲しい」

「分かった……」

「そうね。もし、義宗の家が不安なら、一週間ぐらい泊まってきなさい。そこでゆっくり決めるといいと思う」


下見も兼ねてそれが良いと、母親の提案に俺はゆっくりと頷いた。



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ガラス玉のように シカクイホシ @sikakui

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