第12話「洞窟からの脱出」
(古代ではこんな綺麗に岩に穴を掘る技術があったのですね)
そして今のところ船は問題なく走ってくれていますが……。
「アン姐、さっきからどうしたの?」
アン様は先ほどからわたくし達がやって来た後方の暗闇を見つめながら耳に掌をかざしています。それを見てシオリ様は怪訝な表情で尋ねました。
「しっ……みんな黙って」
アン様は人差し指を唇に添えて「静かに」というジェスチャーをしました。皆でアン様の見つめる暗闇を見つめています。すると船の後方、わたくし達の来た方向から微かに唸り声のようなものが聞こえました。
「何かくる……」
アン様がそう言うと、唸り声は波しぶきの音と共に徐々に大きくなりだんだん近づいてきているように聞こえました……。
「ディロン、
ディロン様は船の先頭の灯かりにしている
ディロン様が
「
「まだ生きてやがったのか!」
「くそっ……このままじゃ追い付かれる!」
マーシウ様は苦虫を噛み潰した様な顔をされています。アン様は弓を構えて
「レティ、船のスピード上がらないの!?」
ファナ様がそう言われ、わたくしは光る文字の浮かぶ金属板に目をやります。
「やってみます。皆様、何かに捕まって下さい!」
わたくしは金属板に浮かんだ光の古代文字の中で、速度を表していると思われる数字で一番大きな「五」に触れました。すると船体から放たれる「フオンフオンフオン」という音が徐々に速くなり金属的な「キュイーン」という音に変化しました。船は徐々に加速していきます。
「ちょ、ちょっとレティ速すぎない?!」
船首からは白波が立ち上下に揺れ始めます。シオリ様がその船首で
(……あれは、光が?)
緩やかに曲がる洞窟の暗闇の先に光が見えてきました、出口でしょうか?
「レティもっと速度上げて、追い付かれてきたよ!」
ファナ様がわたくしの服の裾を引っ張りながら仰いました。
「え? わたくし速度は変えていませんが……」
金属板を見るといつの間にか何か赤い光が点滅しています。船体から発せられる音も心なしか周期が徐々に遅くなってきているように感じます。
(まさか船が?! ……ここで壊れたら……お願いします、保ってください……)
洞窟の外の光がどんどん近づいてきます。ですが船の速度も徐々に落ちてきました。点滅する光の文字が更に増えていて、
「追い付かれるぞ!」
「ファナ、危ないから伏せてな!」
「アン姐、もう
ファナ様は普段はあまりお見かけしない真剣なまなざしで、船に掴まりながら立ち上がって片手で
「……
ファナ様の
――そして船は
空が赤く染まり、夕日が海に半分ほど沈むところでした。船体から発せられている音は小さくなってゆき、やがて聞こえなくりました。
「壊れた……のでしょうか?」
わたくしは光る文字がすっかり消えた金属板を掌でぽんぽんと叩きますが、うんともすんとも言いません。
「元々動いたのが幸運だったような船でしたし。とりあえず浮いてさえいてくれればいいですけど……」
「ま、まあとりあえず
アン様は頭の上で「ぱっ」と手を広げて爆発したようなジェスチャーをされました。アン様のその素振りを見てわたくし達がホッとしているとシオリ様が「キャ!?」と小さな悲鳴を上げられました。
「冷たいわ、濡れてる……え、水?」
――わたくし達の足元から水が湧き出てきています。これって……。
「船に穴があいたんじゃないの!?」
「陸地が近い、なんとか泳ぐぞ!」
「ファナが気を失ってる!」
皆様大慌てですので言い出し辛いのですが……。
「すみません、わたくし泳げません……」
「マジか……」
皆様の絶望した顔を見て申し訳なくてたまりません。するとディロン様は冷静に儀式用短剣を取り出して海面に触れます。
「……
そうしている間にも船が海の底に沈んでいきました。しかし何故かわたくし達は上半身が海の上に浮いていました。わたくし達の身体は淡い水色の光に包まれています。
「これは……た、助かりました、ありがとうございますディロン様」
「ちなみにこの魔法は水に浮くだけだ、海岸までは泳いでいかねばならん」
わたくしは皆様の見様見真似でなんとか海岸の砂浜まで泳ぎました……もうぐったりです。でも、皆様泳げるのですね……やはり冒険者という人たちは泳げないといけないのでしょうね。
(しかもアン様は気を失ったファナ様を抱えて泳がれましたから、本当に凄いです……尊敬します)
「そういえば、魔術結晶って船ごと沈んじゃったね……」
アン様がポツリと呟かれます……そうです、逃げるのに必死でまったく念頭にありませんでした。
「まあ、全員無事に生きて帰ってこれたし……ほら嵐も治まってる。
マーシウ様はアン様の肩にポンと手を乗せて微笑まれました。
――わたくし達は町へ戻り、町長様に事の次第を報告をしました。町の皆様も嵐が急に治まった事は確認しておられました。さらに、この辺りで被害が出ていた
当初の契約通りの岬の神殿跡の調査報酬と「
船が出られるようになるのを待つ数日間、わたくしはシオリ様とファナ様に
(これから合間を見て教えて頂きましょう、仲間として雑事くらいはこなさないと……)
――そして船の準備が整ったのでわたくし達は漁師の方に船で送って頂き、最も近い港街"キシェン"に着きました。ちなみにこのキシェンへは船で行くと僅か一日ですが、徒歩だと険しい山などを避けて回り込まなければならず三日はかかるそうです。
(どんな街でしょうか、ワクワクしますね……)
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