第11話「大海蛇の襲撃」

船着き場跡の水の中から現れたのは、体長が一〇メートル以上もあり人間の胴より太い身体を持つ銀色の鱗で覆われた怪物でした。確か、以前図鑑で読んだことが……。


「あれは大海蛇シーサーペントだと思います。海に棲む魔物で海中の穴などを巣にしている狂暴な大型の怪物モンスター……らしいです!」


わたくしは皆様に向かって声を上げました。


大海蛇シーサーペントか……」


マーシウ様は盾を構えながら大海蛇シーサーペントと対峙しています。アン様は少し離れた場所から大海蛇シーサーペントに矢を射かけます。


「……武器強化ウルフエレメント……鎧強化タートルエレメント……重量軽減バタフライエレメント……集中力向上ホークエレメント


「……命の泉リジェネレ―ション……護りプロテクション……疾風ヘイスト


マーシウ様とアン様が大海蛇シーサーペントの気を逸らしてる間に、ディロン様とシオリ様が強化魔法エンチャントを唱えています。わたくしは近くにおられるファナ様に声をかけました。


「あの、ファナ様……」


「どしたのレティ?」


「ご存じかもしれませんが、大海蛇シーサーペントは水に棲む怪物モンスターですので稲妻ライトニングの魔法が有効です……」


わたくしがそうお伝えするとファナ様の瞳が輝いたように見えました。


「やっぱそう?! 多分そんな気してたんだよね!」


「ファナ嬢、いつでも稲妻ライトニングが放てる心づもりを」


「ディロン撃っていいんだね? わかった!」


ファナ様はローブの袖をめくり長杖スタッフを両手で構えて唇を舌でぺろりと舐め、大海蛇シーサーペントの動きを見ています。


「レティ嬢、徐々に向こう側の通路へ移動を」


「ディロン様?」


大海蛇シーサーペントは必ずしも倒す必要がない、逃げられるなら逃げるということだ。だから君はいつでも逃げられるように通路の傍にいて欲しいのだ」


「分かりました……」



――わたくしは様子を見ながら通路に向かいつつ戦士の方々に目を向けます。皆様苦戦されているご様子……マーシウ様は大海蛇シーサーペントが噛みいてきたところを盾で角度をつけて受け流しています。それでも相手は巨体なので弾き飛ばされそうになり、剣で反撃できずにいます。アン様はマーシウ様がたて続けに攻撃を受けないように矢を射かけて牽制しています。



(戦いになるとわたくし本当に無力です……)



その時、アン様の放った矢が大海蛇シーサーペントの右目に命中し、のたうち回って暴れます。大海蛇シーサーペントが暴れて壊した壁や天井のガレキや放置してある物の破片が飛んできたので慌てて物陰に身を隠します。しかしそれらが石畳を刎ねてあらぬ方向からわたくしに向けて飛んでくるのが見えました。



(あ……これは……当たるのでしょうか?)



凄い速さで跳ねてくるはずのガレキの動きがゆっくりに見えました。そして自分に当たるのだろうなと冷静に考える自分と恐怖で動けない自分が居ました。


「……障壁バリア!」


わたくしの目の前にシオリ様が走り込んで来て、ガレキに向かって魔法を唱えました。わたくしとシオリ様は淡い光の球体に包まれ、飛び跳ねてくるガレキや破片は光の球体に当たると砕け散りました。


「レティ大丈夫?!」


シオリ様は防御魔法でわたくしを護って下さったようです。


「は、はい……」


わたくしは返事をするのが精一杯でした。


「ごめん、マズった!」


アン様がこちらを心配そうに見ています。シオリ様は「大丈夫」と手を挙げて合図しています。大海蛇シーサーペントは地面にうねうねとのたうっています。


「好機だ……ファナ!」


マーシウ様は合図すると大海蛇シーサーペントから距離を取ります。それを見てファナ様が長杖スタッフを両手で構えて大海蛇シーサーペントに向けます。


稲妻ライトニングぅ!!」


ファナ様のローブがふわっと膨らんだ次の瞬間、両手に持った長杖スタッフに火花が散り先端から大海蛇シーサーペントに向かって激しく蒼白い稲光りが走り雷鳴が轟きました。


大海蛇シーサーペントは稲妻に撃たれて低く響く咆哮を上げながらブルブルと激しく痙攣しました。もがき苦しみなが水中から飛び出て、全身を船着き場跡の石畳の上に晒してのたうっています。あまりの激しさにわたくしたちは距離を取ります。


「ファナ、これ効きすぎじゃないの?!」


「そんなの分かんないよアン姐!」


「こいつデカいな……全部で二〇メートルはありそうだ」


のたうちながら壁や石畳、天井にぶつかった為にあたりは崩れ落ちてきます。シオリ様が防御魔法で護って下さいますが、これは危ないです……そしてファナ様が大海蛇シーサーペント長杖スタッフを向けました。


「もういっちょ行くよ……稲妻ライトニング!」


「ファナま……」


再び稲妻が大海蛇シーサーペントを撃ちました。肉の焦げる臭いがして鱗が剥がれ落ち、所々皮膚が露出してただれていて動かなくなりました。


「待てって言おうとしたんだが……」


「でもやっつけたよ?」


マーシウ様は苦笑いしていました。アン様が倒れた大海蛇シーサーペントを観察しています。


「大丈夫、殺ったみたいだ」


「はぁ……まあ、なんとかなって良かったけどな……」


マーシウ様はホッとして溜め息をついています。


「まさか弱点らしい稲妻ライトニング一発では倒せなかったとは……なかなか生命力の強い怪物モンスターだったな」


ディロン様がそう仰るとファナ様は「えっへん!」と両手を腰にあてて胸を張っています。


「ねえ、みんな? よろしくない報告なんだけど……」


周囲を調べていたアン様が暗い声で仰いました。


「さっき色々崩れたせいで、私らが入ってきた通路が崩れて塞がってるよ……」



――わたくし達は慌ててアン様の元に駆け寄りました。仰る通り壁や天井が崩れて通路が埋まっていました。


「だめだ、これだけ崩れてたらちょっとやそっとじゃ取り除けないし、下手に動かしてさらに崩れてきたらヤバいぞ……」


マーシウ様は深刻な顔で崩れた通路を見つめておられます。


「他に道が無いか調べるよ、通気口とかあればいいけどね……」


皆様手分けして辺りを調べます。わたくしも何か方法が無いか考えなければ……。



(ここは船着き場なので海に繋がっている可能性が高いのですよね……塞がっていなければ。でもどうやって……あ)



わたくしは水際にある壊れた船のようなものを調べます。大きさは全長が七メートル、幅が二メートルほどです。真ん中あたりに屋根や壁が壊れた船室のような部分があり、台座が置かれ舵のような輪が据え付けてあって輪の真ん中に何かをはめ込むくぼみがありました。



(所々壊れていますが浮いているということは船として機能しているということですよね? そしてこのくぼみは……)



わたくしはくぼみに魔術結晶を取り付けてみました。すると台座から「ぽうん」という音がしました。そして船自体が振動し「フオンフオンフオン」という音が鳴り始めました。その音で皆様がわたくしの方へ集まってこられました。


「ちょっと、レティこれは?」


「アン様、この船が使えるか調べてみまして……魔術結晶を取り付ける部分があったので置いてみたらこうなりました」


皆さん一斉に顔を見合わせてからわたくしの方を向いて「マジ?!」と仰って船に乗ってこられました。


「レティ動かし方分かるか?」


マーシウ様が真剣な表情でわたくしを見つめておられます。


「ちょっとやってみますね……」


台座には例の鏡の様な金属板が付いていて光る古代文字や記号が浮かんでいます。



(恐らくこの輪は舵ですよね。金属板の文字は……古代数字が〇から五まであります。とりあえず一を選びましょうか?)



わたくしは光る文字の「一」の部分に指で触れました。すると「フオンフオンフオン」と鳴り続けていた音が少し大きくなり、船がゆっくり動き始めました。皆様「動いた?!」などと驚かれています。次にわたくしが「二」に触れると少し音が大きくなり、船が速くなった気がしました。



(なるほど、これは速さを操作するという事ですね)



そして輪を左右に回すと右に左に船が動きます。しばらく動かしてみましたがとりあえず問題なさそうです。


「なんとか動かせそうです!」


わたくしのその言葉に皆様は喜びの声を上げられました。ディロン様が精霊探知エレメンタルセンスで風の流れを感知してくださいましたが、風は暗闇の向こうから吹いてくるようです。


ディロン様が再び鬼火ウィルオウィスプを召喚して照らしてくださり、周囲の様子がわかりました。どうやら洞窟は、風が吹いてくるということは外に繋がっていて出られる可能性は高いとのことです。シオリ様もご自分の指輪に灯かりライトの魔法をかけて周囲を照らしています。わたくしは船を洞窟の奥へと進めました。



――しばらく船を進めて行くと、水面の波のうねりが大きくなってきました。波音も洞窟に反響して徐々に大きくなってきましたので、やはり海に繋がっているのでしょうか。


「ねえねえレティこの船結構ゆっくりだね、速さはもっと出ないの?」


「ファナ様、多分出ると思いますが暗い洞窟ですので……波も強くなってきましたし安全に行きましょう」



こうしてわたくし達の乗る古代の船(?)は海に繋がると思われる洞窟の暗闇を進んでいきます……。

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