第13話「冒険者の仕事」

――ここ港街"キシェン"は元は漁港だったらしいのですが、街道に面していて内陸部との行き来も容易だった事から発展した港街だそうです。港で船に積み下ろしする荷物や人を運ぶ馬車が沢山行き交っています。


馬車に付いている表札には様々な街の名前が書かれていますが、「帝都行き」という表札を掲げた商隊や長距離馬車がちらほら見受けられます。ちなみにここから帝都までは長距離馬車の乗り継ぎでも二〇日以上かかるそうです。


(帝都行き、という文字を見るとなんだが郷愁を感じてしまいます。わたくしの家……ラルケイギア家はどうなったのでしょう?)


「おーいレティ、行くよ。また迷子にならないでよ?」


わたくしが荷馬車の列に目を奪われているとアン様に声をかけられました、皆様移動し始めています。


「あ、はいアン様すみません!」


わたくしは小走りで皆様の元へ走りました。



――皆様と一緒に向かったのは″冒険者ギルド組合ユニオン″(単に組合ユニオンともいうらしいです)と呼ばれる大きな酒場パブでした。辺境の街ファッゾ=ファグにあった酒場パブと存在としては同じ「冒険者の集まる店」なのですが、こちらは冒険者ギルド同士の互助会として組織的に運営されているということです。このような組合ユニオン酒場パブみたいな場所は大きな街には大抵あるそうです。



(なるほど、冒険者の一番の財産は"情報"ということですので情報が集まりやすい大きな街にそういう拠点を置くのは自然な流れですね)



このキシェンの冒険者ギルド組合ユニオンは"勇魚いさな亭"という酒場パブを経営しており、旅の冒険者たちが情報や休息を求めてたくさん訪れています。今は夕暮れ時ですので食事やお酒を楽しむ冒険者や一般の方々が沢山いらっしゃいます。


「とりあえず飯だな、そのあと今後について話し合おう」


マーシウ様がいつものように仕切っておられる横でアン様とファナ様は既に給仕の方を捕まえて注文をしていました。


「あまり懐具合に余裕がないんだから、頼み過ぎないようにね?」


シオリ様は苦笑しながらそう仰いました。しばらくして飲み物や大皿料理が運ばれてきました。すでに皆様はお料理をガツガツと食べられています。


「おい、アン。そっちの皿取ってくれ」


「マーシウ、あんたこればっか食べて……あたしあんまり食べてないんだけど?」


「ああ、そうだったかすまん。その白身魚の香草焼き美味かったんでな……つい」


「すみませーん、白身魚の香草焼きもう一皿!」


わたくし以前の食事は一人で摂っていましたので、皆様と同じ大きなお皿に盛られた料理を食べる事に戸惑いを感じていました。幾度も皆様とこうしてお食事をしていますが、野外でのお食事はそれぞれに取り分けて食べるのでわかりやすいですけれど、酒場の大皿料理はどのタイミングでどれだけ自分の分を取ればいいのかいつも迷ってしまいます。


そうして躊躇しているとシオリ様がわたくしにお料理を取り分けてくださいました。


「す、すみません……ありがとうございます」


「まだ慣れないみたいね、こういう食事は。アン姐もマーシウも食べる勢いが凄いでしょう? 最近はファナも二人に影響されているし」



(確かにファナ様もお二人に負けずに頬を膨らませて食べています……)



わたくしに話しかけながらもシオリ様はてきぱきとご自分の分を大皿から取り分けていました。よく見るとディロン様も黙々とアン様とマーシウ様の間を縫う様にご自分の分を確保しておられます。


「一見取り合ってる様に見えるけど、みんなお互いに配慮しながら――でもそれぞれのペースで自由に食べているわ」


「ええ、わかります。凄いですね……息がぴったりです」


「まあこうなるまではよく取り合いになったけど、そこは長く付き合う間に自然とこうなっていったわ。だからレティも遠慮なく食べてね」


シオリ様はわたくしにウィンクして、ご自分のお料理を食べ始められました。



(そうですね……皆様と楽しくお食事ができるこの時間、わたくしは大好きです)



それでは、わたくしも戴きましょう……この街は魚料理が評判ということです、流石漁港の街ですね。焼いたもの、蒸したもの、煮込んだもの……味付けや調理法は今までの街の料理より豊富で、どれも美味しいですね。



(飲み物は……これは果実水ですか?)



果実水……わたくし以前に果実水で酔ってしまって皆様にご迷惑をおかけしたのを思い出しました。


「レティ、どうしたの? 難しい顔をして……」


シオリ様が心配そうな表情でこちらを見つめておられます。


「あ、いえ大丈夫です。また果実水で酔ってしまったら……と」


シオリ様は「ふふふ」と微笑みました。


「あったわねそういう事。大丈夫、この果実水はお酒がまったく入っていない、子供でも飲めるものだから」


シオリ様がそうおっしゃったのでひと口飲んでみますと、爽やかな酸味と甘みの美味しい果実水でした。一杯飲み干しましたが大丈夫そうでしたので早速お代わりを頼んでしまいました。




――そして、食事も一段落しマーシウ様が今後の事についてお話を始めました。


「ここに来るまでの間考えてたんだが、前回の岬の一件での報酬だけじゃ全然足りないからこの街でも依頼クエストを受けようと思う。大きな街だからそれなりに色んなものがあるはずだからな」


皆さん「賛成」「異議なし」と仰っています。


「レティ、また回り道をしてしまうことになるが……すまない」


マーシウ様はわたくしに向けて申し訳なさそうな顔をされました。


「いえ、わたくしこそ皆様にお任せしていますから大丈夫です」



(実際、わたくしは楽しんでいますので本当に大丈夫です……)




――翌日の朝、酒場の掲示板の前で皆様と貼りだされた依頼クエストを見ていました。失せもの探しから魔獣退治まで様々な依頼クエストが書かれた紙が貼りだされていました。「割がよさそうな依頼クエストはどれも"契約中"の札が付けられている」とマーシウ様が嘆いておられます。


「マーシウ、手分けして地道に小銭稼ぐ?」


「ああ、俺もそれを考えていた。パーティーを二手に分けて軽めの依頼クエストを並行してこなす、だな」


アン様とマーシウ様が話し合っている内容は、アン様とディロン様はおふたりで討伐など戦闘的な依頼クエストを受け、あとの4人で街中で危険が少なそうな依頼をこなす、という案でした。そしてそれに見合いそうな依頼クエストは……。


「あたしとディロンでこの"地下水路の大鼠ヒュージラット退治"ってのをやって来るよ。倒した数の歩合制みたいだから無理のない程度にね」


「じゃあこっちは……」


「マーシウ、これどう? "海岸の漂着物処理"ってやつ。これならあんまし危なそうじゃないからレティもできるじゃん?」


ファナ様が貼られた依頼クエストの一つを指さしています。


「なになに? 先日の長く続いた嵐で難破した船や流れ着いた漂着物で海岸が溢れかえっているため、その処理に力を借りたい……なんだ、この前の岬の古代遺跡が起こしていた嵐のあとのゴミ拾いって事か」


「えーっと、漂着物は所定の場所でゴミとして処分するか持ち主不明として拾得者が処分してよい……だとさ」


「これってなんかお宝が流れ着いてたら貰っていいってことだよね?!」


ファナ様は目を輝かせています。


「そんなものはもう誰かみつけちゃってるじゃない?」


シオリ様は苦笑しています。


「まあゴミ掃除だけで日当がつくなら安全でいいかもな」



……ということで、わたくしたちおさんぽ日和サニーストローラーズは二手に分かれて依頼クエストをこなして旅費を稼ごう、という事になりました。



(ゴミ拾い……力仕事でしょうか? 頑張らなくてはなりませんね……)

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