第6話 ビールが…

 涙が出てきました。


 窓のほうを見て車内からは隠しました。

 

 つらいわけじゃないんだけれど…ふとね…

 ふと…


「ああ…俺も少しは苦労しているんだな…」


 そんな言葉が浮かびました。


 適当に生きていると思ったけれども

 けっこういいかげんなんだけれど

 この新幹線…


 日帰り…


 サラリーマン時代を思い出し…

 頑張っていたころを思い出して…

 疲れもなかったのにあの頃は…


 昔はみんなと飲んで帰っていました。

 最終の新幹線の時間を覚えていましたね。


 その中で報告書を書いて。

 ビールの数杯ではなんの支障はなかったのに。


 今は…

 50代後半の今は…


 年もとったし体力も落ちたのに

 仕事も責任も重くなっていて…



 僕はネクタイをとりシャツのボタンを少しはずしました。

 皺のよった首筋がさらにあらわになりました。


「やるっきゃないさ…

 でも意外とやってきたんだな…

 苦労もしてきたんだな…

 こんなところで

 泣けるっていうことは…」

 

 ビールが身に沁みました。


     了

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ビールが身に沁みる @J2130

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