第16話 1年目

 堀の中に道が2つ出来上がる。その中にゴブリンが転がっていき、その中を動き回る。目的は2つの道にたどり着くことだ。1つ目の道は左に回って街の側面部にある家裏にたどり着く道、それと反対側につく道だ。本命は反対側で、左側は囮として使われる。


 この時点で経過した時間は約20分だ。死んだゴブリンの数は、25体前後でその死体の中に生きているゴブリンが紛れ込んでいる。ゴブリンの魔法使いや弓といった後衛部隊は、まだゆっくりと進軍しているようだ。


 笛が聞こえると同時にその足の速さが上がる。最初に前線に出ていた土魔法使いは既に死んでいるが誰も気に留めていない。笛が鳴ってから2分後のことだ。造られた塀の左側に穴が開き、そこからゴブリンが数十体流れこむ。その数秒後だ。


 そこから全て流れてくると考えていたのと、誰かが見ているだろうという思考から誰も後ろの壁を見ていなかったのだった。ゆっくりと音を立てないようにして塀が破壊される。


 さらにゴブリンが、俺が先に行くと言わんばかりに押し合うことで、その入り口は少しずつ大きくなっていく。その奇襲により、全てのグループで生産職の1人が必ず殺されていた。


 仲間が1人殺されたことで、穴が空いていることに気が付く。その対処に数人が向かおうとしていた時だった。火のついた矢が飛ばされ、家に刺さり燃えていく。方法は単純だ。


 火魔法使いのファイヤーボールを作ったものに自分の布をちぎって燃やし、その布を矢に突き刺して放つ。魔力消費もなく、そのファイヤーボールを維持しているだけでいいのだから、これほど効率が良いことはないだろう。


 作ったものから順番に矢を放ち、家や人を燃やしていく。ゴブリンに当たり燃えているところもあったが誤差のようなものだろう。20、30と矢が放たれ、家が燃えていく。消火するのも遅く、既に砦の中にゴブリンが侵入しているのだから厳しいものだろう。


 この時点で40分が経っている。背面のゴブリンが侵入するタイミングを測っていたのと、弓ゴブリンがくるのが遅かったこの2つの理由からだ。家が燃えていく中、集会場として中央のひらけたところに人が集まり、背を向け合い互いを守るように立っている。


 ここが最後の関門となるところだ。ゴブリンの生き残りの数は100体ほどだ。


「少し多くしすぎたかな?」


 今まで見ていたのは、あの真面目くんがいるところだ。他は似たようなものだが、数を減らしていたあのグループはダメだ。そのうちの2つは壊滅、1つは仲間割れの状況になっている。


 あのビッグスライムで壊滅した理由での罪のなすりつけあい、そして今回のゴブリンが入ってきたことによる罪のなすりつけ合いだ。失敗したグループがあることとその個数が出ているのだから、自分もその中に入っていると気が付く。そして失敗した個数が出ているということは成功していたグループもあるということだ。


 その失敗を指揮したやつに全てをなすりつけようとしていたのだ。そのグループはまだレベル上げをしていたため、なんとか耐えている状況だ。だが、魔力も限界に近づいていることから、少しずつ押されていく。


 どうせ負けるのだからチャンネルを真面目くんがいるところに切り替えた。

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