第39話 次郎、プロの女に馴染む

「いらっしゃ~い!」

はすっ葉な物言いだった。店に客は居なかった。

座ったホステスは胸の大きく開いたシャツを着てパンティーが見えるほどに短いスカートを履いていた。はみ出した脚を誇示しているように次郎には見えた。女は足を組んで座り、その肉感的な魅惑の脚を惜しげも無く披露した。

「亜希子と言います。宜しくどうぞ」

女がそう言って次郎に寄り添い、身体を押し付けて来た。

彼の太腿に手を置いて暫く摩っていたが、やがて、手は次郎の股間に触れて来た。そして、次郎の手を自分の乳房に導いて掴ませ、唇を半開きにして、舌なめずりをした。じい~っと彼の眼を覗き込んだ女の眼は、引きずり込むように官能的な眼だった。

 導かれた二階の部屋で女はミニスカートを捲ってストッキングを脱ぎ始め、次郎を手招きした。

成熟し切った二十代半ばの快楽の対象としては打ってつけの肉体に眼を射られて、妄想を掻き立てられた次郎は、挑むように女に飛びかかっていった。

性急な次郎に女はやさしかった。

「そんなに慌てるんじゃないの」

そう言って、いきり立つ次郎の一物に手を添え、ゆっくりと自分の中へ導いた。そして、次郎の腰を両手で抱えて緩やかに腰を上下させた。

女の優しい手ほどきと柔らかくい誘いに、積極的な快楽を与えられた彼は、次第に陶酔境に浸っていった。

「あたしはねえ、この肉体によってねえ、多くの若い人達に男らしさの土台を作ってあげているのよ」

女はそう言って動きを激しくした。

激しく営む交わりの中で、女の水位の持ち上がった花園と淫らな線を描いたその割け目とに必死に交わりながら、然し、次郎は醒めていた。

女は戸惑いの声を挙げた。

「ちょっと、あんた、初めてじゃないわね」

眼の前に在る女の官能的な肉体に、激しく突き進んだり穏やかに退いたりする次郎に、やがて、女も呼応した。開いていた瞼を閉じ、両手を次郎の首に巻いて、あっ、あっ、と小さく声を漏らした。女にとって、商売での交わりでは在り得ないことだった。女は次第に燃え上がって昇り詰め、肉体の奥底から突き上げて来る陶酔の中で、次郎と一緒に頂点に達した。

「ああ、私も本気でいっちゃったわ。こんなに良かったのは何年振りかしら・・・でも、あんた、若いのに凄いわね。こんなエロい性技を一体何処で習ったのよ」

そして、行為が終わると、女はその代償を喜んでさっさと受け取った。

「もしあたしがお金を受取らなかったら、あんた達は残酷なまでに自尊心が傷つくでしょう。慈悲心なんて不躾だと怒るでしょう」

女は言った。

「相手の肉体を愛しもせず、ただ魂の力だけで相手を征服しようとしても、真実に相手を高揚させることは出来ないのよ」

肉体を精神から完全に切り離すことは出来ないし、精神以上に自己に深く根ざしている肉体の可能性以外のところに、愛を見ることは出来ない。

「あたしもプロの女よ。あんたに負けている訳にはいかないわ。もっと凄いテクニックをいっぱい教えて上げるから、明日もいらっしゃい」

帰り際に、女はそう言って片眼を瞑った。

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