第16話 DXミュージック、踊り子興業、揚羽蝶来演!

 昼食後の喫茶店で健二は朝刊新聞に眼を通していた。

第一面から順次に斜め読みをして、経済面を見ている時だった。下段の枠組み広告に「映画・演劇案内」というのが在った。

今、どんな映画を上映しているんだ?・・・

広告欄には、年末顔見世で有名な「南座」を初め、幾つかのシネコンや名画座の上映作品名が掲載されていた。その最後尾にピンク映画を映す二つの映画館と並んでストリップ劇場の広告が載っていた。

 健二は眼を見張った。

「DXミュージック、踊り子興業、揚羽蝶来演!十八歳未満入場お断り」

彼女の名前に続いて、桃瀬麗華、瀬能結城、皐月かえで、黒井瞳、夢野あずさなどの踊り子の名前が並んでいた。

揚羽蝶は人気のトップダンサーなのか?・・・

健二は瞬時に、観に行こう、否、揚羽蝶に逢いに行こう、と決めた。

逢って、きちんと生命を救われた礼を言わなければ・・・

 

 翌日、週末金曜日の夜に、彼は「DXミュージック」の黒いカーテンを潜った。

彼は学生の頃に友人たちと連れだってストリップショーを見に行ったことは二、三度あるが、社会人になってからは、然も、一人で行くのは、今回が初めてだった。

開演の六時半真際で館内は既に照明が入って明るく、八割方の席が埋まっていた。女性専用席にも三、四人の若い客が座っていた。

えっ?若い女性がストリップを見に来るのか?・・・

健二はふと「スト女」という言葉を思い出した。ストリップに嵌まっている女子を指す言葉で、この数年、スト女が増えて来ているらしい。

幕が上がると、彼女たちは「来た、来たぁ~!」と身を乗り出し、缶チューハイを片手に舞台に釘付けになった。

 館内の照明が落とされ、開演の音楽が流れると同時に、バタフライとブラジャーだけを着けた七、八人の踊り子がステージに登場し、一列に並んで軽やかに踊り始めた。その真ん中に、長い羽根の逆立つ帽子を被ったメインダンサーが居た。揚羽蝶だった。彫りの深いマスクに白い肌、均整の取れた伸びやかな肢体を、健二は眼を一杯に見開いて凝視した。

 オープニングが終わって踊り子たちが一旦退場した後には、ソロのショーが始まった。一糸纏わぬ踊り子が黒い恥毛をライトに光らせて煽情的に腰をくねらせた。彼女たちは皆、逆T字形に客席にせり出したステージへ踊り出て、両脚をM字に開き、股間を大きく前へ突き出した。その度に噛り付きの客達が一斉に頭を寄せて覗き込み、健二も自分の股間を固く膨脹させ、頭に血を登らせて懸命に見入った。

 何人かのソロが終わって再び揚羽蝶がステージに現れた。無論、彼女も一糸纏わぬ生まれたままの姿だった。健二は眼を見張って息を呑んだ。肢体の美しさと華麗さは言うに及ばなかったが、彼が驚いたことには、彼女の白い下腹に蝶が飛んでいた。左脚の太腿の付け根辺りから恥丘にかけて、黒い陰毛の真横に蝶のタトゥーが在った。彼女が脚を開いたり、閉じたり上げたりする度に蝶は華麗に舞い飛んだ。実に幻想的で淫らで、凄艶で魅惑的な踊りだった。

 一通りソロの踊りが終わるとビンゴが始まった。

若い踊り子が五人、一糸纏わぬ全裸で登場し、音楽に合わせて踊りながらビンゴのバーを潜り抜けた。彼女たちはバーが低く下がるに連れて、腰を仰け反らせ、脚を大きく開いて秘所を前に突き出し、太腿が床と平行になるほどに膝を折り曲げてバーを潜った。まるでヨガの修業でも積んだかのような曲芸だった。客席からやんやの喝采と拍手が湧き起こった。中には折角下半身は潜り抜けながら、乳首がバーに触れて失敗する踊り子も居た。が、それも又、愉しめる一つのご愛敬だった。

 踊り子の演目の後はポラロイド撮影だった。

観客が好きな踊り子を選んでツーショットの写真が撮れた。無論、踊り子たちはヌードで登場した。館内はカメラや携帯やスマホなどによる撮影は厳禁だったので、撮れるのは踊り子が持っているポラロイドだけだった。撮影を終えた客達は、それぞれに、ツーショットの踊り子にチップを渡し、中には全ての踊り子と写真を撮って全員にチップを配る客もいた。彼女たちは笑顔で受け取った。

 スタイル抜群で顔も美形、常連の客が惚れ込むほどに印象深いショーも二時間余りであっと言う間に終わった。

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