ワンライ作品「空想作品 ミラクルナンバー」

バルバルさん

1時間ライティング作品 とあるヒーロー番組の導入

 金管楽器のような、巨大な音楽のような音が鳴り響く。

 街が燃え上がる。人々が逃げ惑う。

 それを、彼は呆然とビルの屋上から見下ろしていた。


「あれは、なんだ?」


 一体、あれは何だろうか。

 巨大な蜘蛛のような、それでいてUFOのような見た目の、巨大な存在が、街を蹂躙していた。


「おめでとう! 大城柊真君!」


 そう、彼の後ろから声がかかる。


「君は、君の望む世界にやって来たのだ!」

「俺の、望む世界?」


 後ろにいたのは、真っ白な男。どことなく中性的で、銀をもっと白に近づけたかのような白髪に、眩しい純白の肌。


「そう、君が望んだ、怪獣が人々を蹂躙する世界。それがここだよ」

「ど、どういうことだ?」

「何を言ってるんだい?君は毎日毎日、この単純でくだらない、平和な世界が壊れるのを空想していたじゃないか。それを叶えてあげたんだよ。この、僕が!」

「……は?」


 一体、何を言っているんだ。この存在は。そう彼は思う。

 俺が、世界が壊れるのを空想していた?

 そんなわけはない。毎日、この平穏で人々の笑顔が続けばいいと思っていた。

 なのに……


「一体、お前は、なんなんだ?」

「僕かい?僕は、願望をかなえるだけの存在さ。名前なんてない。僕は、その世界に生きる、破滅願望を持つ者の願いを叶える……それだけの存在さ、大城柊真君」

「……さっきから、わけのわからないことを。というか、そもそも……」


 そこで、首を傾げながら。


「おおしろしゅうま、って誰だよ」

「え? それは君の名前だろう?」

「俺は、おおきしゅうま。だ」

「……え」


 その瞬間、奇妙な間が産まれる。

 彼は、大城柊真と書いて、おおきしゅうま。と読む名前だ。


「……もしかして、だけど。願いを叶える相手の名前、間違ってないか?」

「……」


 その次の瞬間だった。無言で、その純白の青年はスライディング土下座を彼の足元に決めた。


「……」

「……まあ、間違いは誰にだってあるだろう。」


 それよりも。と、眼下の惨状を見て。


「この世界の状況は、お前が作り出したのか?」

「いや、僕じゃない。僕は。おおしろしゅうまが望んだことの怒っている世界に、君を連れてきただけだ」

「そうか」


 なら、まあ。やるべきことの優先順位は決まった。

 そう、彼は覚悟を決める。


「じゃあ、お前をぶん殴って元の世界に戻るのは後だ」

「え」

「まずは、あの化け物をぶっ飛ばして、一人でも多くの人を救う」


 そして、懐からコイン状のエネルギー結晶を取り出した。


「それは……?」

「おや、知らないのか。まあいいや。」


 そして、その結晶「エネルゲイン・コイン」を、左腕の腕時計……に擬態した、変身アイテムに挿入した。


――キィィィィィィィィィン


◇◇◇


その少し後、ビルの屋上。

そこでは、変身を解いた柊真にしこたま殴られた「存在」がいた。

 変身したままでは命を奪いかねないので、彼は変身せずに小一時間っていたのだ。


「まあ、この世界の崩壊というか、滅びるべき運命は助けれたけど……」

「き、君は、一体?」

「ん? 俺は……そうだな、あの姿の名前なんて考えたことも無かったけど……ミラクルナンバーマン? いや、もっとカッコいい方がいいかな……まあ、何か頭の良いやつが言うには、世界に求められし者? らしいよ」

「求められし、者」

「さて、あの巨大な化け物は倒したし、お前にもお灸はきっちり据えたから……帰ろうか」

「え」

「え。って何だよ。連れてきたんだから、帰る方法もあるだろ?」

「……」


 その瞬間だった。

 音もなく。

 気配もなく。

 ただ、素早く。

 スライディング土下座の二回目が柊真の前にさく裂したのは。


「……まさかと思うけど」

「帰れません」


 その後、もう1時間しこたまにこの「存在」を彼は殴った。


◇◇◇

この日。チーキュ世界を襲った大厄災は、光の人型の存在によって払われた。

 人々は口々に、TVで子供の頃に見た、あるいは、見ているヒーローの名前で彼を呼んだ。

 これから始まるのは、この世界に「来てしまった」ヒーローのお話。

 超光機 ミラクルナンバー

 30XX年 XX月XX日、高次元TV各社より、生配信!


◇◇◇

 そんな、別の高次元でTV番組にされているとはいざ知らず。


「まあ、来ちまったものは仕方がない……おい。真白」

「真白って、僕の事かい?」

「当たり前だろ。まあ、この世界でも俺は寝るし、食べるし、飲む。そのためには先立つ物がいる」

「そうだね」

「だから、当面のそれくらいは用意しろ。あとは自分で何とかする」


 柊真は、この世界で生きていく。この世界で。生きて、戦い、もしかしたら、大切なものに出会い、守り、そして……

 きっと、柊真はこの世界の守り人となるだろう。

 え、その過程の物語が知りたいって?

 それを見れるのは、高次元の存在だけでだよ。

 今これを読んでいるあなた達は、その過程を空想してみよう。

 空想すれば、その数だけ、柊真の物語は広がっていくはずだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ワンライ作品「空想作品 ミラクルナンバー」 バルバルさん @balbalsan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画