第27話 スライムの町の強化指南
「いやーラッキーでしたなー!天使様様ですぞ、ぶっちゃけドラゴンの町行きたくなかったし僕」
ポメヤは上機嫌でテクテク歩いている。
「僕は行きたかったけどなぁ、なんかロマンあるじゃないか」
「じゃあロマン求めて走り出せばいいですぞ、ほら、どうした?」
機嫌良いのはいいが無駄に疲れる煽りすんなよ…
僕達は今スライムの町に向かって歩いている、もうそろそろ見えてくると思うのだが…
「あれですぞーヌメヌメしてそうな大地!」
そのテンションで村に入る気か?窒息しても助けないからな
遠くに町が見える、なんというか、小さめだな…
近づくと小ささがはっきりと分かるな…
建物が10個もない、集落だな、町ではなくて。
簡素な入り口には誰もおらず、声をかけたら住人が出てきた。
水色の長い髪の毛、透き通るような白い肌、というか透き通ってるな、少し向こう側が見える。
形は人間と変わらないかな。
「こんにちは、旅人さんですか?何もない所ですけど良いんですか?」
なんか少し声が籠ってるな、水の中にいるような…
「ちょっと失礼しますぞ、そいや!」
ポメヤはあろう事か女の子の足に手を差し込んだ。
バカかお前、失礼だろ!なんというか異様すぎてどのくらい失礼な行為なのか全く分からん
「おおーっちょっと冷たいですぞ!」
「あら、可愛い魔物さんですね、ちょっとくすぐったいけど気にしないので遊んでていいですよ、それで申し訳ないのですが宿がないので村の広場でキャンプして頂く事になっちゃいますが…」
「それで構いません、少し見て回ってもいいですか?」
「どうぞどうぞ、何もない町ですが、私はキリカといいます、何かあったら声かけて下さいね」
おい、ポメヤ、もうそろそろ足をパチャパチャすんのやめろ
残念そうなポメヤを引きずって町を観光する…のだが…
見えてる範囲が全てだとしたらもうお終いだ。
特に何もない、家が数軒ある程度…
暇すぎるので家の外に座っている老人に話しかけた。
「すいませーん、この町ってどんな町なんですか?」
「お?旅人とは珍しい、この町はスライムの町の18番じゃよ、スライムは数が多いので町を数十個に分けているんじゃ、なにせ弱いのでな…固まってるところに攻め込まれたら滅亡するしの、はっはっは」
「はっはっは!それは傑作ですぞ、カッカッカ」
ダメだよお前それは…
「弱いと言っても見た所打撃はきかないですし、魔法でも撃たれない限り大丈夫では?」
「それはそうじゃが攻撃できないんじゃよ、打撃が効かないのはお互い様じゃよ。」
「いや、だから攻め込まれたら近づいて相手に重なって窒息でもさせたらそこそこ強いと思いますけど…」
老人は少し黙った後、
「悪魔みたいな発想じゃの、でも確かにそうじゃ、今まで逃げていたがそもそも攻撃は痛くも痒くもないし…、これは革命じゃ!スライムを全員ここへ!」
「悪魔とか言われてますぞ、ウケますぞ」
なんか釈然としないなぁ…
狭い町なので全員が集まるまで数分だった。
「皆の衆!この旅人さんは聡明なお方じゃ!できるだけ知識を吸収しておくんじゃ!革命じゃ!」
面倒臭い事になったよ…
「相手を窒息させて倒す方法は分かりましたがもう少しスマートに倒したいんですが…」
まあそうだよね、相手が自分の身体の中で窒息するの待つって相当憎くないと嫌だよね。
「じゃあ武器なんてどうですか?普通に。というかスライム族の身体の構造がイマイチ理解出来ていないので少し聞いてもいいですか?」
僕はとりあえず気になってる事を聞いてみる。
ポメヤがキリカさんの足をパチャパチャしていたって事はどうやって服着てるのかとか、どうやって物持ってるのかとか、不明点は山ほどある。
集まった情報はこうだ、触りたいと思った物に触れる。
体は水ではなくて文字通りスライム状で、粘度があるらしい、例えばフライパンを持とうとすると手に水分が凝縮され、持つ事ができる。
流石に重いものはすり抜けてしまうらしいので、持てても水の入ったバケツくらい。
「なんか不便な感じですぞ、この家はどうやって作ったんですぞ?」
「この家は全員で重さを分配してやっと作りました。全員でやれば一人にかかる重さは大した事ないので、液状になれば壁とか登れますし…」
なるほど、剣とか持てないし持っても振れないわけか。
そんな状態で武器とか言われても…
「スマートにって言うなら正直溺死以外ないですぞ、自己防衛にカッコ良さなんて不要ですぞ。」
「ポメヤの言う通りで正直水に同化して引き摺り込むとかしかないと思います。そもそも敵って何なんですか?」
「たまに人間が来て襲われるんです、観賞用とかふざけた事言って」
また帝国か…自分達が一番偉いと思ってるからなぁ…
ここまで話して自分がとんでもない事をしていると気がついてしまった。
同時にポメヤも気がついたらしく、マズイという顔をしていた。
「とりあえずそんな所ですね、お役に立てず申し訳ない…。まあ皆さんも自己防衛なら出来ると思うので今までののどかな暮らしを楽しんで下さい。」
「ちなみにこの村に食料って売ってる?なんか見た所水以外ないんですぞ。」
「すみません、我々は水のみで生きていけるので…」
「それは困った、食料が尽きそうなので急ぎ次の町に出発します!」
「急ぎますぞ!忙しい忙しい!」
僕たちは逃げるように町を出た。
「やっちまったですぞ、これは非常にマズイ」
「だよなぁ…」
僕達の軽はずみな言動でパワーバランスが崩れた。
スライム族は自分達が強いと気がついてしまった。
というか魔法が打てない種族からしたら厄災クラス。
一人でも町に入られたら打つ手がない。
簡単な魔法では大したダメージが入らない。
爆破で吹き飛ばすくらいじゃないと無理だ。
攻撃手段が無いと思いこんで逃げ回っていた種族に攻撃手段を教えてしまった、あの爺さんが言っていた通り革命だ。
「しかも憎んでるの帝国ですぞ?スライム全員で夜中にでも街に入られたらお終いですぞ。」
結果から言えばポメヤの勘は的中した。
数日後、スライム達はそれぞれの町から仲間の救出と帝国の壊滅を目的に進軍
ある者は水に化け、ある者は液状になって忍び寄り、音も無く脅威になり得る魔導士から殺していった。
異変に気がつく頃には帝国兵の半数が溺死しており、残りの者もなす術なく殺される。
物理無効の相手にはどれだけ剣が上手くても、どれだけ鍛錬しても無意味だった。
夜が明けた事には王宮は制圧されており、その日中に奴隷は解放、その後、帝国に恨みを持つ種族が一気に攻め入り、1週間も立たず帝国は壊滅した。
スライム達は帝国に住みつき、最強種族の一角となったのだ。
「これはマジでヤバいですぞ…まあ人間からしたらトーマは本当に悪魔ですな」
「いや考えないようにしてるんだからやめてくれ、罪悪感で潰れそうだ…しかしだ、帝国は明らかにやりすぎだったしいつかは滅びたと思うんだ。」
「しかし沢山の血は流れましたぞ」
「言うなよ…でも帝国があのまま数十年数百年続いていたらもっと血が流れたと思うってのもある。」
「まあそうですぞ、規模はどうあれ街や国は滅ぶのは珍しくないですからな、逆に人間以外の種族には感謝されると思いますぞ。」
「まあそうかもな、気を取り直して旅を続けよう。」
・・・・じゃあどうすれば良かったんだよ…
僕は小さく呟いた。
…………
帝国が滅んだ。
奴隷達は解放されて自分の町に戻っていく。
勝利を掴んだスライム達は自分達を導いた英雄を探しているんだそうだ。
トーマとポメヤ、次の王は彼らだと。
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