第25話 ドリアードの町の大きな穴 その2

「まずは隣の奥さんに話を聞きますぞ、簡単に口を割ればいいが」

小さな魔物のポメヤは短い手を顎に当ててそう呟く。


「なんだそのキャラ鬱陶しい、行くぞ」


隣の家のドアをノックすると1人のドリアードが出てきた。

裏世界に通じる穴の事を少し聞きたいと言うとすぐに話してくれた。


「あの穴ね、きっと裏の世界に繋がってるのよ、昔旅人が持ってきた本で読んだ事があるの、異世界っていう世界があるの!素晴らしい世界なんだわきっと!」


うん?なんか少しミリィの話と違うような…今の話だとこの奥さんの妄想の話のように聞こえる…。


「その穴って奥さんが見つけたんですぞ?」

そうポメヤが聞くと奥さんはこう答えた。


私は隣の奥さんから聞いたわ!


…隣にも聞きに行くか…


隣の家もドアをノックすると同じようにすぐ話してくれた。


「裏の世界?は分からないけど穴は知ってるわ。どこかに繋がってるっていう話よ、入って行った人は誰も帰って来てないけど。」

私は隣の奥さんに聞いたわ!


はぁ…行くところまで行くか…


「穴は知ってるわ、とても深いみたい、きっとどこかに繋がってるわ。それ以外は知らない、隣の奥さんに聞いただけだし」


次!


「穴ね、あれは急に空いた穴よ、深さなんて分かるわけないじゃない、入ったら出てこれないくらい深いんだから、隣の奥さんがそう言ってた気がするし」


次!


「穴は急に空いたらしいわ、でも危ない場所じゃないし、別に気にしなくて良いわよ、隣の奥さんともそう話したわ」


次!


「多分穴を最初に見つけたのは私よ」


お、ここで終点か


「散歩してたら見つけたの、不思議だったから穴を見つけたって誰かに喋った気がするわ、でもそれが何かしたの?」


公園でベンチに腰を下ろし、話を整理する。


「結局何なのか分からなかったですぞ」


まず一人のドリアードが穴を見つけ、

途中で尾鰭が付いて穴は深い、入った人は誰も帰ってきてない。

挙句に果てに裏の世界に繋がった穴にまでなってしまったのか。


結局入ったドリアードはいるのか?なんかすごい気になるなぁ…


ちょっとミリィに聞いてみるか。

宿屋まで戻り、ミリィにちょっと聞きたい事があると言って席に着いてもらった。


「あの穴なんだけど、入った人いるの?なんか話を聞くと…」


僕は今日聞いてきた事を簡潔に説明しつつ疑問を投げかけてみた。


「え?じゃあ裏の世界じゃないかもしれないじゃん!でも入った人は何人もいるわ、若いドリアードはここの生活に飽き飽きしてるの、だから私の知り合いも数人入ったのは事実だよ!」


「でも危険なんじゃないか?魔物の穴とかだったらどうするの?」

「危険ですぞ、食べられちゃうかも知れないですぞ」


「でも行くの!もうお金も貯まったし大丈夫!きっと素晴らしい世界が待ってるの!」

少し怒らせてしまった…


僕たちは部外者だからこれ以上はなぁ、

実際どこかに繋がってるかも知れないし、止めても行くだろうし。


僕たちはありがとう、気をつけて行くんだよと10万ベルを選別に渡した。

それで機嫌を直したミリィは仕事に戻った、明日出発するらしい。


僕達も明日出発するか、少し気になるけど…


翌朝、僕達は穴の前でミリィを見送った。

見送るっていうのも初めての経験かもしれない。


「じゃあね!水も持ったし数年は大丈夫そう!行ってくる!」


「気を付けるですぞー」

「まあミリィが決めた事だ、行ってらっしゃい」


僕達は手を振り、自分達も町を出て出発したのだった。


「心配しかないですぞ、そもそもあんな暗闇で出口が分からない穴なんて…普通に旅に出れば良いのに」


「毎日毎日日の光を浴びて水飲んで、そんな生活してたんだ、急に冒険の話なんか聞いたら飛びつく奴もそりゃいるだろ、若ければなおさらな。ロマンってヤツだよ」


「どこかに繋がっていて仲間に出会って楽しく暮らせたらいいですぞ。」


そうだなと相槌を打って僕たちは次の町を目指した。



その頃、ミリィは縦穴をゆっくりと降りていた。

結構深い、きっと見た事もない世界が広がってるんだ。

希望に胸を膨らませ、下へと降りる。


半日ほど降りたか、急に足が地面に着いた。

手探りで壁を触ると横に穴が広がっている、太陽の光をいっぱい吸わせた花をライト代わりにして進んでいった。


穴はどんどん狭くなったが這っていけばなんとか進める

しばらく進むと下り坂になっており、慎重に進んだが途中から下が泥になっており、滑って広い空間に投げ出されてしまった。


ライトで確認すると穴が無数に空いている。

その時気がついた。

自分が出てきた穴がどれか分からない。


無理だったら帰ろうとどこかで思っていたミリィは急に怖くなった。


数年は大丈夫とは言ったが、予想以上に暗闇にライト一つというのは心細い。

太陽の光も無いので時間も分からない。


進むしかない、自分を奮い立たせて上に向かっていそうな穴の中に入り、進んで行った。


途中分かれ道が多くあり、さっきの広い空間にも戻れそうにない。

お気に入りの歌を歌って気を紛らわし、少し開けた所では水を飲んで目を瞑り、バックに入ったお気に入りの服と帽子をかぶって素晴らしい世界を満喫することを想像していた。


そしてまた穴の中を進む。


数ヶ月経った。

ライトは光を失い、暗闇を進み続ける。光は見えない、もうどっちに進んでるか分からない。

そしてミリィは…


心が折れた


「嫌だぁあ!暗いのはもう嫌ぁ!お日様の光浴びたい!もう嫌だぁ!帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたいぃ!」


泣き叫んだ、もうどうでもいい、どうなっても良いんだとただがむしゃらに泣き叫んで暴れた…


「誰かいるの?」


急に奥から光が現れ…


「ミリィ?ミリィよね!?あなたも裏の世界を探しに来たの?すぐそこにみんないるよ!ミリィも来なよ!」


ああ、先に穴に入って行ったみんなだ…もう寂しくない…良かった

安心してまた涙が溢れ出した。


すぐに出口があり、数ヶ月ぶりに日を浴びた。

周りを見渡すと先に入っていった仲間が村を作っていて、見た事の無いような道具を使っていた。


「みんな久しぶり!ここは裏の世界!?私ね!服もオシャレなの買ったしお金もいっぱいあるんだよ!」


「すごいね!ミリィもここで楽しく過ごそうよ!村を見せてあげる!驚くおもうよ?すごいんだから!」


やっぱり間違ってなかったんだ、穴に入って辛い事も多かったけどこの達成感に比べたら…私は仲間に案内され、村に入っていった。



目を開けると、そこに冷たく黒い壁があった。

何回同じような夢を見ただろう、もう目覚めたくない、夢の中でずっといたい。

這って進めるギリギリの狭い洞窟、もう身体中泥だらけ


お気に入りの服が入った荷物も狭い洞窟では持っていく事ができずに置いてきてしまった。


どこまで続くのか、もう何も分からない…



……………


ドリアードの町には深い穴がある。

ドリアード達曰くその穴は異世界と裏世界に繋がっており、戻ってきたら者はいない、中には金銀財宝が眠っていて、地底人の村もあるそうだ。

隣の奥さんが言ってた、そう口を揃えて言うのだそうだ。

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