第23話 フェアリーの国最終日、ポメヤのデート

「ポメヤさん!行きましょう!起きて!」

王女ニーアは早朝から部屋に飛び込んできた。

よっぽど絵の件が悔しかったのだろう。


「おい、ポメヤ、王女様と遊んでこい、もうそこにいるぞ」


「いややべぇ早いですぞ、まだ日も上ってないですぞ」

ポメヤは王女に引きずられていった、頑張れ。

僕はもう少し寝るよ…


「こんな早くからどこに行くんですぞ?」


「朝日を見ます!丘から見ます!」


王女はポメヤ達が来るまで病気を患っていたのだ。

なのでまだあまり外出をした事がないらしい。

まあ今日は一日中付き合いますぞ。


「おー快適ですぞー」


王女のニーアはポメヤ用の手押し車を準備していた。

魔石などが組み込まれており、簡単に坂も登れる。

押している方も普通に歩くより楽な優れものだ。


ニーアから誘われて嫌な予感がしたポメヤは国宝の水筒を持ってきている、これで疲れ知らずだ。


「ほら!出てきました!」


指さされた先を見ると太陽が登ってくるのが見えた。

気にした事は無かったが改めて見ると綺麗だなと素直に思った。

「素晴らしいですぞ!次はどこへ?」


「朝ごはんを食べます!王宮で!お店空いてないので!」

えぇ…戻るのぉ…


王宮に戻って朝ごはんを食べ、また街に出かける。

なんかこれ、やりたい事いっぱい詰め込みすぎてタイトなスケジュールになるんじゃ…


次は床屋さんでニーアの髪をセットする、どの髪型が良いか聞かれたので、お祭りの時のポニーテールが似合っていたですぞと言っておいた。


ニーアは迷わずポニーテールに決めて、店主も笑いながらヘアスタイルを作っている。


「あれはもしかしてポメヤちゃんの絵ですか?」


「そうなのよ!すごいわよねぇこの絵、見るたびに仕事頑張ろうって思うの!」


「良かったですぞ!僕も鼻が高い!」

ニーアは絵を見つめている、そのクオリティに感動しているようだった。


「出来たわよ!楽しんでらっしゃい!」


店主に背中を押され、ニーアと外に出た。

「次はどこ行きますぞ?」


「お洋服屋さんに行きます!」

あの洋服屋って確か祭りの時以外は下着みたいな服しか売ってないんじゃないの?


「お久しぶりですぞー」

「こんにちはー」


「あら、王女様とポメヤちゃん!遊びに来てるっては聞いていたけどちっとも来ないから忘れられてるかと思った」


「トーマはウブなので下着売ってる店には入れないんですぞ」


「下着じゃなくて服よ…まあフェアリーの服って外から見たら下着に見えるみたいなのよね。今日は何をお探しで?」


「ポメヤちゃん!私に服を選んで下さい!」

おお、デートっぽい。


「任せて下さいですぞ!お金も僕が出すですぞ!これなんか似合いそうですぞ!」


ポメヤが選んだのは薄緑でシンプルな物だ、しかし試着してみると確かに似合う、というかドンピシャだった。

少し幼い顔でグレーの髪の毛、緑の瞳の少女にはコレしかないというくらい似合っていた。


「ポメヤちゃん、流石のセンスですね、これ下さい」

「あとコレとコレも書いますぞ、カードで!」


結局三着買ったが、まあポメヤの資産からすれば微々たるものだ。


「一生大事にしますね!

ニーアは袋を抱きしめてピョンピョン飛び跳ねていた。


「次はどこですぞ?」


「水遊びをします!」


ん?どこで?


気がつけば荷車でかなり遠くまで運ばれていた。

途中水筒からミルクを飲んでいたので無限に歩ける。

森を抜けると透き通った湖が現れた。


「うおおお!すんごいですぞー!」

ポメヤはすぐに飛び込んでプカプカ浮いている。


ニーアも飛び込んでポメヤに水をかけ始めた。

「うわっぷ!やめるですぞー」


「これするの夢だったんです!ポメヤさんもプカプカしてないで遊びましょう!」


「本気で行きますぞー!うわっぷ!」


しばらく湖ではしゃぎ、ニーアに泳ぎを教え、水中に潜ってどっちがより綺麗な石を見つけるか対決をした。

二人とも宝石のような石を見つけ、お互いにプレゼントしたのだった。


一心不乱に遊びすぎてとっくにお昼を過ぎてしまっている。

ニーアは早起きしてお弁当を作っていたらしく、水筒のミルクを二人で分けて楽しく食べた。


よほど楽しいのかご飯を食べた後も遊び続ける。


「あ!そろそろ戻らないと!」


「次はどこへ行くんですぞ?」


「最後は絵画の店で絵を書いて下さい。お願いします。」

少し名残惜しそうにニーアが言う。


「絵なら得意ですぞ!ミルク飲んで出発ですぞ!」

エリクサーをがぶ飲みして遊ぶのはこの2人くらいなものだろう。

ニーアは濡れた服を脱ぎ、新しく買ってもらった薄緑の服を来て出発した。


「また来れたら良いですね」


「まあ生きていればまた来る事もありますぞ。」


「また一緒に遊んでくれますか?


「もちろんですぞ!かっかっか!」

少女は嬉しそうに荷車を押していった。

そして程なくして絵画の店に到着したのだ。


「爺さーん!きたよー」


「おお、やっと来たか、王女様、頼まれてたもの出来てるよ!」


「ありがとうございます!無理言ってすみません。」


「いや、良いんだよ、このくらいお手のもんだ」


そこには1冊の大きめの本が置いてあった。


「ポメヤさん…今日の朝からのデート、絵にして貰えますか?左側に絵を描いてもらって、右側には私の今日の思い出を書きます。ずっと忘れないように…」


ニーアは分かっているのだ、自分の立場、ポメヤのしたい事、永遠に一緒に遊んではいられない事、次があるか分からない事…


「任せるですぞ!てりゃー!」


ポメヤは描き出す。


一緒に見た綺麗な朝焼け


楽しく食べた朝ごはん


床屋でポニーテールにして笑っている少女


服屋で服を選んで貰って喜ぶ少女


美しい湖での水遊び、綺麗な石探し


笑いながら食べる昼ごはん


少し寂しい帰り道…


そして今…泣きそうになっている私。


全てを書い終え、最後のページには全員揃って王宮でパーティーをしている絵を書いた。


少し待ってくださいと言われ、爺さんと談笑しながら待つ。

少女も今のこの気持ちを本に綴っていき、思い出のアルバムは完成した。


「ポメヤさん!ありがとうございました!」


「最後に金物屋に行きますぞ」


「え?」

ポメヤは金物屋に行き、今日湖で拾った石をネックレスにして貰った。


「おお、カッコいいですぞ、ニーアちゃんも似合ってますぞ!」


「ハイ!ありがとうございます…」

ニーアは涙を流して喜んでいた。


そして王宮に戻り、みんなと合流


「おかえり!楽しかった?」

上機嫌のニーアを見てユーカも嬉しそうだ。


「楽しかったし幸せだった!これ見て!」

ニーアは今日作ったアルバムを姉に見せる。

姉は幸せそうにページをめくり、パタンと閉じた後に…


「あの、ポメヤちゃん、明日トーマとまた視察に行く予定なんだけど付いてきて貰ってこれと同じ物作れないかしら?」


「そんな予定はない」

僕は即座に否定する。


「お姉ちゃん!流石に仕事終わらなくなるよ!」

王様、もう諦めろ…無理だ…


「そこをなんとか!!」


結局視察はなくなり、夜は大宴会となり、散々食べて飲んで遅くなってしまった。最後の風呂を堪能し、僕は部屋に戻る。


まだポメヤは帰ってきてないか…

ベッドに横になっているとユーカがノックもせずに入ってきた。


「どうしたんだ?」


「明日出発するのよね?」


「まあそうだなぁ、もう次の町も決めてるんだ」


「その…また来る?」


「正直分からない、嘘を言ってもしょうがないからね。


「あの、私は…」


「でも」

僕はユーカの言葉に割って入る。


「ポメヤはフェアリーミルクが好きだからな、また飲みたいとか言い出すかも、そしたら来ないと飲めないよな。」


少しの沈黙の後、


「そうね!あのミルクはうちでしか飲めないんだから!きっと飲みたくなるでしょうね!」

ユーカは笑いながら、嬉しそうに言うのだった。


「それじゃあおやすみ!明日朝見送りに出るからね!」


「おやすみ、いつもありがとう」


バタンと扉が締まり、

「で、ポメヤ君は王女様に会いに行かなくていいのかい?」


ベッドの下からのそのそと出てくる魔物。


「今日はもう疲れて寝てますぞ。」


じゃあ寝るか、明日は出発だからな!

何か忘れてるような気もするけどまあいいか…。


翌朝、またいつかと手を振っていて思い出した。


「ミリーどこいった?」

「そういや見てないですぞ…」


感動のお別れだったが引き返して国に戻り、全員で国中を探す

あ、あそこだ、フェアリーミルクの店だきっと


扉を開けるとミリーはいた。


「ミリー、俺たちもう出発しますがー?」


「え?もうですか?」

ミリーはずっとここに篭ってチーズを作るために研究していたらしい、店主も迷惑では無いと言ってるから良いけど…


ミリーは目の前に来て頭を下げた。


「本当に感謝してます、ありがとう御座いました。旅も楽しかったです。私はここでチーズを作ってみたいと思ってます…。本当にありがとう。次来る時までにはチーズ作って待ってます!」


「こちらこそ楽しかったよ!それじゃあ僕たちは行くよ!」


「バイバイですぞーチーズ楽しみにしてますぞー」


「あ!ポメヤちゃん!」


「ん?なんですぞ?」


「絵画の店で湖で私が裸で遊んでる絵書いた?」

おい、お前やっぱり描いたのか…謝っとけ謝っとけ。


「あの絵を見て天使みたいだって一目惚れしてくれたフェアリーの人と今度デート行くの!ありがとう!この国でやっていけるか不安だったけど…良い人しかいないしもう大丈夫!」


「良かったですぞ!いや、ほんとに」


この国って善人しかいないしな。大丈夫だろう。

ミリーちゃんと別れてまた出口の前。

一回感動的に別れたのに戻ったからなんか微妙な空気に…


「ユーカは王様頑張れよ!」

「ニーアちゃん!また遊ぼうですぞー!


「王様なんだから当たり前でしょ!」

「また湖で遊んでねー」


今度こそ出国だ。


次は少し遠いけどドリアードの君に行くぞ!


「えー遠いの?手押し車貰ってくれば良かったですぞ…」


トーマ達が旅立った後、王の自室


あーあー行っちゃったか…ユーカは飾ってある絵見てそう呟いた。

まぁどうせまたひょっこり現れるだろう、それまではこの絵を見て元気を貰おう。



あーあー、行っちゃいましたね…ニーアもアルバムを捲りながら呟く、でもまた行くって約束したもんね!

石のペンダントを握って気合いを入れたのだった。

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