第22話 フェアリーの国、ポメヤの覚醒
「うおおおー張り切ってきたですぞぉおおお」
なんで毎回僕が入り口に立ったタイミングで叫んでるんだアイツ…
ポメヤは筆を握って何か絵を書いている、何書いてるんだ仕事の邪魔すんなよ
絵画の店の爺さんは腕を組んで後ろから見ている。
孫の落書きをみるお爺ちゃんみたいだな…まあまさにそうなんだけど。
横には床屋の店主がいるじゃないか、何してるのこんなところで。
全員集中して固唾を飲んで見守っている、うーん…
「こんにちはーお久しぶりですー」
僕が声を出すと流石に僕たちに気がついた。
「おお、トーマさんと王様、トーマさんはお久しぶり、元気でしたか?王様もお変わりないようで」
爺さん、元気になったなぁ…あなたがいつもお茶入れてる水筒、それ中身がエリクサーになる国宝ですよ…
「お久しぶりじゃない!王様もこんにちわ!」
床屋の店主は何かテンションが上がっているようだ。
「ポメヤちゃんは何を書いているの?そもそも筆持てるの?」
ユーカさん、ポメヤの扱いに慣れてきましたね。
「うおおお、乗りそうですぞーーー」
一心不乱に筆を動かしている。どれ、どんな怪物を…
ん?お前が書いてるのこれ?
そこには優しい顔で水筒からお茶を飲む爺さんと横で楽しそうに話すポメヤが描かれていた。
しかも…とんでもない上手さだ…なんというか、躍動感が凄すぎる。
今にも爺さんはお茶を飲んでカップを置きそうだし、ポメヤの自慢話が聞こえてきそうだ。
しばらく言葉を失って眺めていると、いつの間にか絵は完成していた。
「どういう事ですか?これ」
爺さんに聞いてみる。
「それが…ポメヤが楽しそうに旅の話をするもんだからいつか私もそんな景色見てみたいなぁって言ったんですよ。そしたら絵に書いて見せてあげるって言うもんだから試しに描かせたら…」
後ろには行った町の様々な風景が書いてある絵が置いてあった。
エルフの町の赤い噴水の前でエルフのフィリアさんに抱き抱えられるポメヤ
ドワーフの町で美味しそうにケーキを食べるドワーフのハナちゃん
サラマンダーの街でオセロを遊ぶミーナちゃんとポメヤ、それを笑顔で見ている僕
サキュバスの国の喫茶店のマスターさん
他にも色々な場面が鮮明に描かれている。
少し目頭が熱くなる、確かに色んな見たくないものも見たが、素晴らしい旅だ。かけがえのない体験を今してるんだ。
「ポメヤちゃん…国宝級の腕前じゃないの…それはそうと美人に囲まれて楽しい旅のようね、楽しそうで何よりだわ。」
ユーカさん、なんか怒ってます?
「それにしても良くこんな鮮明に覚えてるもんだな、背景までバッチリじゃないか」
「トーマは忘れるんですぞ?こんなに色んな事がある旅なのに、やっべぇなお前」
なんか薄情な人間みたいに言うなよ、覚えてるけどこんな鮮明に絵に出来るのがすごいって話だろ。
何かを思いついたようにユーカが口を開いた。
「ポメヤちゃんってもしかして一度見たモノなら絵にかけるの?洋服とかも」
「余裕ですぞ、簡単だもんこんなの」
お前爺さんの前であんまり言うなよ、人生否定するレベルだぞそれ
「じゃ、じゃあ私も書いて欲しいな!外の世界のドレスとか着せて…一人じゃ寂しいから隣にトーマも書いて良いわよ!」
隣に書いて頂けるんですか、ありがたいよ…
「王様だからって割り込みはズルいわよー、次は私のお祭りでの仕事ぶりを書いて貰う約束なの」
「じゃあ次で良いわ!ポメヤちゃん!お願い!」
「いいですぞーもっと素直になればもっと良いですぞー」
よく分からないけど絶対余計な一言だよな…ユーカ顔真っ赤だぞ。
この魔物は数分で一枚を描く、描いたら少し休憩して水筒のフェアリーミルクを…
あぁ、だから無限に描けるのか…
すぐに床屋さんの絵は完成した。
髪の毛一本一本まで鮮明に描かれており、汗を書きながら笑顔でヘアスタイルを作る店主、完璧な構図だ。
床屋さんは店に飾るとニコニコで帰って行った。
ミルクを一口飲んだポメヤは次の絵に取り掛かる。
「ポメヤちゃん!ドレスも捨てがたいけど外の世界の可愛い服で良いわ!どこか綺麗な場所で2人で笑って暮らしてる構図で!1枚目はこれで!
一枚目?何枚描かせる気?
「余裕ですぞーていやー」
謎の掛け声と共にポメヤは筆を走らせる。数分後、絵は完成した。
うわっこれはまたすごいな。
小さな家の中、窓から見える月明かりに照らされた海、僕の服装はいつもの服、ユーカは可愛らしいミニスカートと白のブラウスで綺麗な羽はキラキラ輝いている。
小さなテーブルに座って談笑しながらお茶をしている。
今にも楽しい会話が聞こえてきそうだ…
ユーカはその絵を見つめて何か物思いに耽っている。
幸せそうな顔で見るじゃないか。
それがユーカの望む将来なのか。
僕だって馬鹿じゃないさ、好意を寄せられてるのにはずっと前から気づいてる。
しかし旅は続けたいんだ。
気が付かないフリをいつまでも続けるかは分からない。
でもいつか、自分の気持ちと向き合う日が来たら…
まあ分からないな。考えないようにしよう。今はまだ世界を全て見ていないんだ。
「なんかノドが乾いたなぁ、僕達もフェアリーミルク飲みにいくか!」
「そうね!まずこの絵を入れる額を買ってからね!」
「ポメヤー!あんまり遅くなんなよー!
「爺さん!次はこの国に来る途中に綺麗な湖で遊んだ絵を書いてあげますぞ!」
ん?大丈夫か?それ。
金物屋に額を作ってもらい、上機嫌のユーカ
ニコニコとずっと眺めている。
「良かったなぁ、飾ったりするの?」
「ま、まあ自分の部屋にでも飾るわ!描いてもらったわけだし、飾らないと失礼だしね!」
なんか今日は喉が乾く…フェアリーミルクの店に入るとミリーが店主と何か真剣に喋っている。
「何してるの?なんか真剣に話してるけど」
「あ、トーマさん、ユーカさん。今大事な話をしてるんです!このフェアリーミルクからチーズが作れるかも!」
へぇ、チーズね、楽しみだそれは…ホント楽しみ…
「チーズ?なにそれ?」
ユーカは知らないらしい。
「ミルクを発酵させて作るんです!とても美味しいんですよ!もうネズミ族の食卓には欠かせません!」
「それは楽しみだわ、この国でできるようならお店を出しても良いわよ。」
王様だったなそういえば、なんでもアリだ。
「やったぁ!期待して待ってて下さいね!」
僕たちはフェアリーミルクを飲んで談笑した後王宮に戻った。なんかあの絵のような空間だったな。
王宮に帰ると王女のニーアが駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん!仕事もしないでどこ行ってたんですか!私一人で大変だったんですよ!」
おいおい、一区切りついたんじゃなかったの?
「ごめんねニーア…たまには息抜きもしたいのよ、明日はあなたが遊んできて良いから!許して!」
普通に頭下げるよなこの王様。
「もう…遊びに行くなら先に言ってくれれば調整するのに…ん?その手に持ってるの何ですか?」
「ああ、見て!見て!ポメヤちゃんに書いて貰ったの!すごいでしょ!宝物よ!」
「ポメヤちゃんは今どこにいるんですか…?」
「多分まだ絵画売ってるお爺さんのところに…」
「お姉ちゃん!あとは任せました!」
ニーアちゃんが走りしたところで…
「ご飯の時間だから戻りましたぞー、あー書いた書いた、爺さんも喜んでましたぞ」
うわぁ、ニーアちゃんすごい顔してるじゃん…
人間こんなに落ち込む事あるんだな…
「ポメヤちゃん!明日は私とデートしましょう!」
ニーアちゃん…そんなののどこがいいんだ…
結局明後日の朝出発となった。
明日は旅の支度をしよう、次はどの町に行くかも決めないとな。
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