第19話 ネズミ族の不幸な少女とフェアリーの国への道中

町を出る時は簡単だった。

人口増加に伴い、一度出ると戻れないが、去る者は追わずというスタンスらしい。

ネズミ族のミリーはすぐに支度を整えて出発した。

「支度早かったみたいだけど大丈夫?もう戻れないみたいだけど…」


「いいんです!もう未練はありません!」


「まあ楽しく行こうですぞ!旅は大変ですぞ!それはもう疲れますぞ!」

数時間後、木陰で休むポメヤと悲しい目で見つめるミリー。


「ポメヤちゃん…足おそいんだね…」

いいぞ!もっと言ってくれ!


「遅いわけでは無く長さがないんですぞ!僕小さいし!気合いだけで生きてるし!」

お前気抜いたら死ぬの?


「いつもこんな感じだよ、だから時間かかるし野宿も増える」


「キャンプみたいで楽しいですぞ」

みたいじゃない、キャンプだ。

まあのんびり行こう、急ぐ旅でも無いし。


「そういえばネズミの町でたくさん買い物していたみたいですけどお金大丈夫なんですか?私も少しなら出せますけど…」


ミリーは心配そうに聞いてくる。

それはそうだ、見るからに金持ってない奴らが値段も見ないで買い物をしまくる姿はもう馬鹿そのものだろう。


「大丈夫ですぞ、お金なら僕らいっぱいあるですぞ」


「無理しないで下さいね。私も使うところ無くて結構貯まってるんですよ。ピザくらいしかお金使ってないので。」

まあ身体を売っていたんだ、そこそこの貯金はあるのだろう。心配させてしまってるな。


「ポメヤ、お前今いくら持ってる?」


「ん?1700億くらいですぞ」


なんで増えてんの?

ミリーは冗談だと思ったらしく笑っていたが、残高確認の機械にカードを通し見せたところ


「何に使うんですか……」


と遠い目をして言っていた。

ちなみに僕は20億あるよ!


「今日はここで休もう。」

日の暮れてきたので僕たちはキャンプの準備を始めた。

ポメヤはいつも通り薪を拾いに行き、ミリーは…

何して貰おうかな…


「私、料理なら得意ですよ!」

可愛くガッツポーズをし、やる気満々だ。

しかし申し訳ない…全部レトルトや保存食なんだ…温めるだけで美味しいものだらけ。

お金を手に入れてからというものこんな食事ばかりだ。


ポメヤは薪拾いが趣味のようなものなので火関係の便利器具は買っていない。

「ダメですよそんな食事!私作ります!食材も持ってきてあるので!」


それではとミリーに料理を任せ、薪拾いから帰ってきたらポメヤと寝床を準備、流石にミリーちゃんと一緒には寝られないので簡易テントももう一つ買っておいた。


1人用の小型の物で軽くて便利、最新型らしいが値段は覚えていない。

するとミリーちゃんがご飯出来ましたーと呼びにきたので楽しみに出来た料理を見ると…


「チーズですぞ…驚愕する僕…」


美味しそうなチーズが目の前にあった、でも時間かかった割りにはチーズを焼いただけ?

「ピザトーストです!中に色々入っていて美味しいですよ!」


食べてみると確かに美味しい、ポメヤもご満悦の様子で楽しい食事の時間を過ごした。

僕達の旅の話を楽しそうに聞いたミリーはそろそろ休みますとテントに入って行った。


「おやすみなさい、テントなんて初めてです!明日の朝ごはんも期待してて下さいね!


「おやすみですぞー」


・・・・


ミリーのテントからはゴソゴソという音と熱い息遣いが聞こえる、種族的に性欲が強いと言っていたしそういう事なのだろう、

それはそうと…


「なあポメヤ、なんか胃のあたりが重くない?」


「まあ僕チーズ好きだし、たまにはいじめてもバチは当たらん、この体。」


なんか嫌な予感しかしないんだよね。

僕は胃をさすりながら眠りについた。


朝起きるとミリーが朝食の支度をしていた。

良いもんだな、こういうのも。

爽やかな風、太陽の光り、優しい鳥の鳴き声…せっせと料理を運ぶ可愛い女の子

食卓に並ぶ大量のチーズ…


「ポメヤーそろそろ起きろー朝ごはん作って貰ったぞー」


「んあ、今行くですぞー朝ごはん何ですぞー!」


テントからノソノソ出てきたポメヤは食卓を見て言葉を失う。

「朝はやっぱりオムレツですよね!どうぞ召し上がれ!」


「ぽめや、美味しいな…卵を使ってる気配がないくらいのチーズの量だな…。」


「濃厚ですぞ…なんかこの…卵を探せって感じの…」


それから晩御飯、朝、昼、夜とチーズだらけが続き、たまに違うモノが食べたいな、と言うと趣向を凝らしたチーズ料理が出てきた。


「あのー、ミリー、思い出したくないなら無理にとは言わないんだけど…前の旦那さんの時もご飯はこんな感じ?」


「そうですね…毎回違う料理でしたけどチーズ好きなので…」

悲しそうに呟く。


前の旦那が言った、「流石に飽きた」ってもしかしてこの料理も原因だったんじゃないか…まあ不確かだし今更言っても真相は闇の中だ。


「そして残念なお知らせなんですけど…」

ミリーが申し訳なさそうに口を開いた。


なんだろう…今の僕達にとって残念なのは毎度食事の支度をしている焚き火の方からチーズの匂いが漂ってくる事くらいなんだけど。

ポメヤなんてチーズ食い過ぎてテカテカしてるし。


「持ってきたチーズがもう無くなっちゃったんです、ごめんなさい…」


「え?そうなの?それは仕方ないね、そう、でもしょうがないもんね!」


「いやぁそれ本当ですぞ?ウソ言わないよね?本当かーまあそうよねー」


「はい、だから明日からは味気ないご飯に…」

しょんぼりしているミリー、内心喜びを隠せない一人と一匹。


「そろそろチーズは飽きてきた所だったので大丈夫ですぞ!」

ナイスな言い回しだ!やれば出来るじゃないか!

他の町でもチーズは買えるけどネズミ族の町のチーズは絶品だ、そもそもあまり出回ってもいない。


「しょうがないですね…でも故郷の味であまり良い思い出もないので良かったのかも知れません。」


こうしてチーズの呪縛から解放され、食事は質素なものとなった。こんなに普通のご飯が美味しいなんて、涙がでそうだ…。

この日は久しぶりに胃の中がスッキリして寝られた。

「あと数日すればフェアリーの国に着くと思う」


「結構かかったですな、遠いですぞ。」

お前がもっと早く歩けたらもう着いてるけどな


「なんか水の音がしませんか?」

音の方向に向かうと大きな湖があった。奥の方には滝が大きな音を立てて水しぶきをあげていた。


「うおおおー水は生命のゲン!ゲンですぞー」

ポメヤは勢いよく水に飛び込んだ。

ゲンじゃないよ、源な、みなもと。


僕達は少し休憩して水浴びをする事にした。


「生きていたい、このまま生きていたいですぞ…」


生き返るって言いたいのか?遺言みたくなってるぞ。

そんなポメヤを横目に僕も身体を洗ってポメヤの真似をしてみた。

案外気持ちがいいな、生き返る


ミリーちゃんもいそいそと服を脱いで湖に入ってはしゃいでいた。

「ミリーちゃん、一応聞くけど裸で恥ずかしくないの?


「裸にならないでどうやって体洗うんですか?」


正論である。まあ確かにそうなんだが…まあいいか、気持ちいいし。

尻尾ってお尻の上らへんに生えてるのか…。少し気になってたんだよね…。


「ポメヤー遊びすぎた、今日はここでキャンプするぞー。


プカプカ浮き続けて数時間、水死体の気分を味わい尽くしたところで日は暮れていた。

ポメヤは朝も入ると大喜びでこっちに向かって来る。


その瞬間、ポメヤの頭がスッポリと魚に飲み込まれた…

「おい!大丈夫かお前!」


急いで駆け寄ろうとすると手で丸を作りながらノソノソと陸に上がってきたかと思うと、

スポンといい音で魚を抜き、ドサっと地面に投げた。


「淡水魚の分際で僕にケンカを売るなんて無謀ですぞ、調子のりやがって、淡水魚め」


淡水魚には容赦ないポメヤ、まあ無事で良かった。魚の口のアザが顔についてるぞ、良かったな。


溜まった服は全部洗いましたとミリーは洗濯物を干していま何も着ていない。

羞恥心が薄い種族なのだろうか、魚を焼きながら動き回るので色んなものが見える、まあ見ないのが紳士だ。


全裸の女の子とご飯食べるのって緊張するなぁ…しかし気にしていないようだったのでこっちも平静を装ってご飯を食べ、そのまま就寝した。


ミリーのテントからはいつもの荒い息遣いが聞こえる、慣れないんだよなこれ…

心を無にして瞳を閉じたのであった。


明日には到着だな、みんな元気にしてるかなー

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