第4話 兎族の生贄
「え?ドラゴンの町今戦争中なの?」
ドラゴンの町へ向かう途中に出会った行商人から衝撃の事実を聞かされる。
「最近平和だったって聞きましたぞ。」
ポメヤも珍しく驚きを見せている。
どうやらクーデターが起こったらしく俺達のような人間と1匹は近づいただけで消し炭らしい。
「到着してからじゃ無くて良かったな」
「トーマ弱いもんね、炭が残るかも怪しいですぞ。チョークにもならん」
面白いと思ってるの?それ
さてどうしたものか、近くに村や町なんてないと思うんだけど
とりあえず今日はここで野宿してそれから考えるか。
「えー嫌ですぞそんなの、お前寝息うるさいんですぞ」
寝息はいいだろ、川のせせらぎでも寝れないの?
ポメヤには薪を探してきて貰い、僕はキャンプの準備をする。簡易式のテントを立てるだけなのだが1人ではなかなか手間がかかるのだ。
「薪ー」
ポメヤは両手いっぱいの薪を抱えて戻ってきた、なんだかんだでやる事はやる魔物だ。
なんかお前の後ろに白いのいない?
「そこで友達になったんですぞー、ウサギの人ー」
兎族か、近くに村でもあるのかな。
僕を見てサっとポメヤの後ろに隠れてしまった。
警戒しているのだろう。
でも全く隠れてないよ、その水色のマヌケはチビだから
僕は非常食に取っておいたクッキーをカバンから取り出してハンカチの上に置いた。
それを見て走ってきた、マヌケの方が
しかし兎の手を取って走っている、結果的に成功だ。
「一緒に食べるですぞー、隠してやがったな卑怯者め」
お前は昨日の夜全部食ってたろ卑怯者。
兎族の女の子はお腹を鳴らしてクッキーを見ている。
「全部食べていいよ、ソイツは昨日食ったから」
流石にお腹が空いた女の子のお菓子を横取りは出来ないらしくポメヤも大人しくしていた。
全て食べ終わってお茶を差し出すと小さな声でありがとうとお礼を言われた。
見た目は15歳?くらいか、頭に可愛らしい長耳がついており、ボロボロのシャツにスカートという服装、何かあったのだろうか。
「助けて下さい!」
急に大きな声を出されて体が硬直した。
「村を助けて下さい!妹が食べられちゃう!」
「話を聞いてから考えますぞ、どうしたんですぞ?」
流石のポメヤも真面目に話を聞くようだ。
「村では一年に一度山の神様に生贄を差し出す決まりなの…そして今年妹が選ばれちゃって、村の大人は決まった事だって言って聞いてくれないの…お兄さんどうか妹を助けて下さい!私に出来る事ならなんでもしますから!」
そう言われてもなぁ…僕たちは別に強い訳でもないし力になれそうにないのだが。
これが勇者とかなら山の神様とやらを退治に行こうって話にもなるだろうけど…無理だなぁ…
「それは不可能ですぞ、弱いもん、僕とトーマ」
良く言った!無理なものは無理だと言った方が長生きできるんだ。
兎族の女の子は泣き出してしまった、そりゃそうだ
「無理だな、妹さんと逃げたら良いんじゃ無いの?」
この苦し紛れの言葉が余計だった。
「1人じゃ無理です!どうかお力添えを!」
確かに神様退治よりは楽そうだけど、メリットが無さすぎる。
「御礼に兎のお守りを差し上げます!」
それは欲しい。
兎のお守り、身につけるだけで移動速度が跳ね上がるアイテムだ。ポメヤにつければ旅も大分楽になる。
「手伝うだけだよ?」
兎はピョンピョン飛び跳ねて喜んだ。
「私カロンと言います!宜しくお願いします!勇者様!」
「報酬に釣られるとは落ちたものですぞ」
お前も兎くらい足が長かったら良かったのにな
その晩、カロンは家族の思い出を聞かせてくれた。
ピクニックに行った時のお父さんのお弁当の話。
お父さんは凄腕の料理人らしい、とても料理が美味しいと自慢していた。
妹とも仲は良く、良く一緒に追いかけっこをするといつも自分が勝つから不貞腐れるらしい。
お母さんも優しく、寝る前にお母さんの作った童謡を聞くのが大好きなんだそうだ。
「幸せそうな家族だ、僕にもそんな家族がいたらいいのに」
「僕はカウントしないで頂きたいですぞ」
ラインって分かる?
話し込んでるうちにカロンは寝てしまったので僕たちも眠りについた。
ポメヤは何か考えてるらしく空を見上げていた。
翌朝、兎族の村へと歩き出した。
意外に近く数時間で着いてしまった。
作戦としては僕達が妹さんと接触し事情を説明後、誘拐する、そこにカロンが合流。カロンも誘拐された事にする。
カロンの白い耳は夜だと目立つ、なので実行役は僕たちだ。
村としては部外者が悪さをしただけなので両親は咎められないだろう。
というもの。安直すぎないか?
複雑な作戦よりシンプルで良いかも知れない。
夜になるのを待ってカロンの家に忍びこむ、屋根に夜に光る目標を付けておいたらしい、あれか、青白く光っている。旗か?良く見えないがあそこに向かおう。
ポメヤは力だけ強いので意外と役に立つ、今だけは抱えてあの家を目指す。
家の2階に妹がいるらしい、カロンが用意していた梯子を使い、2階の窓に到着、鍵を開けて中に侵入した。
「妹どのーポメヤですぞー」
ポメヤは小さい声で囁くが…普通に不審者だ、もっとこう、考えて行動して欲しい。
異臭がする、なんの匂いだ。
嫌な予感がして持っていたマッチで光を灯す
そこには首を吊った兎族の女の子の死体があった。
見開いた目、床に滴る液体、舌をダランと垂らしていた。
ガチャ
後ろの方から音がして振り返るとカロンが窓の鍵をかけて笑っていた。
「まあ、最初から怪しかったよね」
「ですぞ、でもまぁ、信じたい時もあります故」
「カロン、妹が生贄とか言ってたけどウソだろ、本当は“この家の誰か”だ。」
「大当たりー」
カロンがふざけたように笑いながらそう言った。
「この家の目印にした光る布は弓矢だろ、毎年その弓矢が刺さった家から生贄を出すんだろ?」
「またまた当たりー!お兄さん頭いいね!」
「そしてお前は両親に頼み込んで妹に生贄役を押し付けたんだ、そして妹はそれを苦に自殺してしまった、妹が居なくなって次は自分だと思ったお前は村を抜け出して代わりを探したんだ」
「半分当たりー!ちょっと違うよ!パパとママはすごい優しいんだ、妹は死にたく無い!お姉ちゃんにして!って泣き叫んだよ!
だから私はこう言ったの、
”私にしていいよ、パパママ、みんな大好きだからみんなに死んでほしく無いってね」
ポメヤは悲しそうな顔でカロンを見ている。
「家族思いで自分を捧げる覚悟の姉と、自分可愛さに姉を差し出そうとする妹、生贄は決まったわ、もちろん非情な妹にね」
そして悩んだ末に自分で命を絶ってしまったわけか…
自分可愛さに大好きな姉が死んでも良いと思った事に絶望したのか、それとも生贄が自分になるように仕向けた姉への抵抗か…今では分からないな。
「まあ鍵が外側にある時点で大体分かってたけどな」
「まあそうですぞ」
「何で落ち着いているの?明日死んじゃうんだよ?別に家の誰かでいいならお兄さん達で良いと思うんだよね!じゃあねー、抵抗しないで神様に食べられてきてね!」
そういうとカロンは闇に消えていった。
「多分大丈夫ですぞ、というかほぼ確実に」
「そうだよなぁ、大丈夫だよなぁ」
明かりを付けて妹さんを降ろしてあげた。
泣き叫んだのだろう、涙の跡が顔に残っている。
ポケットに何か入っている、手紙か
「無粋ですぞ、なんて書いてあんの?」
震えた時でこう書いてある。
【パパママ、お姉ちゃん、大好きだよ。ごめんね。ピクニックまたみんなで行きたかったな】
流石のポメヤも何も言わなかった。
特に脱出するわけでも無く、朝まで妹さんの遺体を綺麗にしてあげた。
「うむ、これで少しは弔いになったでしょうぞ」
ポメヤがそう言ってまも無く、扉が開いて僕たちは縛られた。
村長らしき男性が旅人には悪いがこれで村から生贄を出す必要はない、来年からも生贄は外から連れてこよう、などと話している
カロンは僕達とは目を合わせず、両親と楽しそうに喋っていた。
そうですね、来年も旅人でいいっすね。
「縄が痛いですぞー、逃げないからほどけよーこのボケ共ー」
ポメヤはグルグル巻きで運ばれていった。
山の洞窟に放置され、僕たちは山の主とやらを待つ事になった。
奥から何かを引きずる音が聞こえる、やっぱりか。
巨大な大蛇が目の前に現れた。僕達を見てひどく怒っているようだ。
そりゃ怒るよなぁ、お前が好きなのは兎であってガリガリの人間と不味そうなチビじゃあ怒っても仕方ないよな…
この大蛇は一年に兎1匹という破格の契約で村を守ってきたんだ、そうでなきゃドラゴンの町の近くにこんな小さな村が存在出来るわけない。
それをケチられたらそれはもう…
「行ってしまいましたな。」
大蛇は俺たちを食べようともせずに山を降りて行った。
縄をなんとか解いて村まで降りていくとさっきまではしゃいでた村人がグニャっと変な方向に曲がっている、巻きつかれてへし折られたのだろう。
キャーと悲鳴が聞こえる方を向くとカロンが蛇に巻きつかれてるところだった。
もう手足は変な方向に曲がっている、まず助からない。
「ごめんね、カリン…」
そういうとカロンは血を吐き動かなくなった。
大蛇は今からゆっくり食事だろう、僕たちは足早に村を出たのだった。
「はぁー酷い目に会いましたぞ!どっかのアホが騙されるから!」
最初に友達できたーって連れてきたの誰だっけ?忘れてないよね?
「まああんなの信じてたら旅なんかできないよ、でも少し、ほんの少し信じたいと思っただけだよ、お前もそうだろ?」
「知らないですぞ!話しかけないで頂きたい!
急に沸点低くなるじゃん…
テントでカロンの話を聞いてお前も故郷の両親とか思い出してたんだよな、だから信じたいと思ったんだろ、知ってるぞ。
「ニヤニヤして気持ちの悪い、さっさと行きますぞ!」
次はどこへ行けば…早く戦争おわんないかな…
地図にも載っていない兎族の村が一夜にして壊滅した。
血はあるものの死体が見つからなかったそうだ。
唯一見つかった死体は家族の写真を胸に抱いて幸せそうに眠る首にアザのある死体だけだったという。
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