第3話 サラマンダーの町のボードゲーム
「快適ですぞー」
荷馬車に揺られながらポメヤは空を見上げてそう呟いた。
僕たちは特に何が出来るでも無くこうして1人と1匹で多種族を回る旅をしている。
「お前勝手に荷物をベットにすんなよ」
「ベットの概念を教えて頂きたいですぞ」
…普通に鬱陶しいなやっぱコイツ…。
ドワーフの町ではただ風呂に入っただけとなってしまったが次のサラマンダーの町では何か良い旅道具を買えたら良いな。
「見えてきましたぞー」
サラマンダーの町が見えてきた。
石の城壁に囲まれた立派な町だ、友好的な種族らしく旅人の評判も良い。
戦闘力が高く魔物狩りや傭兵として暮らしている種族らしい。
男性は真っ赤な鱗にトカゲのような姿、二足歩行で歩き、体内の温度を上昇させると戦闘力が増すらしい。
一方女性は真っ赤な髪、スレンダーな身体、足と手は鱗があるがそれを除けば人間に近い、ただ体温は人よりも高めだ。
なぜかこの世界の種族は人間ベースになっており、祖先を辿れば人間なのでは?と言われている。
そこから狩猟や仕事の為に獣化や龍化をして今に至る。という事らしい
城門に到着すると屈強な戦士の番兵が立っている。
旅人で観光希望と言うとすんなり通してくれた。
「なんか毎回思うけど僕たちフリーパスすぎん?悪いヤツだだったらどうする気ですぞ?まあ楽で良いけど」
うん、そうだね、もっともだね。
しかし僕たちを第三者視点で見てみるんだ。
ウサギも殺せないような貧弱な身体の人間。
その横をちょこちょこ歩く間抜けなチビ。
はっきり言って脅威になる可能性がほぼ無いんだよ。
もしなにかしたとしても一瞬で制圧できる。
人は見かけで判断するもんなのさ。
「僕だったら通さないけどなー怪しいですぞー」
奇遇だな、番兵をしていたら俺もお前なんか来たら通さないよ。
町の中は賑わっていた、こんなに騒がしいのは久しぶりじゃないか?
「トーマ!あれ!あの串焼き!買ってきますぞ!」
数分後大量の串焼きと、ローストポーク、デザートを抱えたポメヤがムシャムシャと食べながら帰ってきた。
君こういう時に急に俊敏になるけどなにか隠してる?
楽しく食べ歩きしていると一つの店が目に入った。
玩具の店だろうか、ボードゲームのような物が置いてある。
「すみませーん、このお店って何売ってるんですか?」
店番の女の子は目を輝かせて食い気味で説明してくる。
真っ赤な髪の毛が肩のあたりまで伸びており、ツヤがあってとても美しい、牙がチョンと口から出ており、真っ赤な瞳は宝石のように輝いている。
「私が考えたゲーム!ポンギっていうの!流行ったら大儲け!試しに遊んでいかない?」
「ゲームなら得意ですぞ!吠え面をかかせて差し上げる!あげちゃいますぞ!」
「チビの魔物さん!負けないよー!
「カッカッカですぞー」
……数分後
ポメヤは頭を抱えてウーンウーンと唸っている
「魔物さん!もう降参?さっきの威勢はどこいったの?」
少女はケラケラ笑いながらポメヤを煽っている。
「いやそういうお話ではないですぞ…」
流石に可哀想になり一旦ゲームを中断した。
このゲーム、ルールが複雑すぎる、というか破綻している。
【誰でも簡単!ポンギの遊び方!】
8×8のボードに黒と白に別れて駒を交互に置いていく。
自分の駒で作った形によってポイントが入る。
三角1点、四角が2点、5角形が6点である。
相手の駒が邪魔な時は周りを囲えば排除できる、囲う前にその駒ポンギ!と発声する。
発声を忘れると一回休み。
先行の人は次の人が置く位置を予測して手元の紙にメモをしてから駒を置く。
後攻の人は好きな場所に置けるが先行が予測した場所に置いてしまうと一回休み。
最終的にポイントが高い方が勝ちである。
……
なんだろう、脳みその処理が追いつかない、しかし盤面には無造作に置かれた駒が散乱していた。
見た所図形は一個も完成していない。
「これは今までどのくらいの売れたの?
「一個も売れないよ!なぜかみんなルール説明の途中で頭を抱えて帰っちゃうの!頑張って考えて作ったのに!」
頑張って考えすぎて天才しかできないようなゲームが出来てしまったワケか、しかも天才なら必勝法を編み出して絶対先行が勝つゲームになる予感がする。
「こんな良く分からないゲームは10年間何も無い部屋に監禁されても遊ばないですぞ」
言い過ぎ言い過ぎ、ポメヤは久しぶりのゲームでテンションが上がったところを叩き落とされて配慮を忘れている。
まあいつもより少しだけって程度だが。
「ひどい!けど確かに難しいのかも…一生懸命考えたけど売れないし…このままじゃご飯食べられなくなっちゃうよ…」
食べられなくなっちゃうな…しかしこのボード見た事があるぞ。
転移前にリバーシというゲームがあった、それに流用できないか?娯楽だし世界に大きな影響は与えないだろう。
「このボード使ってできる面白いゲームを思いついたんだ、ちょっとやってみない?」
白と黒の駒をそのまま使い、ひっくり返す事は出来ないので挟んだら駒を入れ替えていく。
少し手間だがこの際仕方ない。
僕と少女の戦いが始まった。まあ実は僕結構強いんだけどね
「なんでぇー!最初は私が勝ってたのにぃー!」
オセロ初心者が良く言うセリフNo. 1じゃなかろうか、盤面は真っ白に染まった。
「次は僕ですぞ!日頃の恨みここで晴らしますぞ!」
恨みあったの?後で話聞くよ?
「ぬおおぉ!最初は僕が勝ってたのにぃ!」
はい、そうですね、最初から僕が勝ってましたよ。
熱い勝負は日暮れまで続き、僕は強いからやらなくていいでしょと言われ、ポメヤと少女が白熱した試合を繰り広げていた。
「そのゲーム売れば流行るんじゃないか?好きにしていいよ、駒は白と黒の両面にしてひっくり返せるようにしたら良い」
少女が勝ち越したところで声をかけた
「いいの!?お兄さんの発明なのに!」
お兄さんの発明じゃないんだよなぁ…
「勝ち逃げか!?許しませんぞ!また明日勝負ですぞ!」
…まあ良いけど。
少女はミーナと言うらしくいつもここで商売をしているらしい、また明日覗いてみるよと店を後にした。
ミーナは徹夜でリバーシを作るらしい、無理はしないようにね。
宿に帰って食事を取って風呂に入る。
ベッドでポメヤはブツブツと何か言っている。
「あそこに置くのは最後か…いや、置かせるように誘導して…そうですぞ、相手が置ける場所を少なくなるように…」
確かにシンプルなゲームが故に奥が深いのだ、元々ゲーム好きのポメヤならハマるだろうと思った。
今まで教えなかったのは毎日リバーシの相手をするハメになるのが嫌だったからだ。
「明日も楽しみですぞー、久しぶりにゆっくりですぞー」
まあ良いだろ、ちょっと休んでいこうか。
一応無駄に滞在はしないとポメヤとの約束をしている。
2人で出来るだけ多くの町を回って旅するための約束。
居心地が良いと定住を考えてしまいそうになるので短期間と決めた。
僕たちは出来るだけ多くの町を見て感じるんだ。
ブツブツうるさいポメヤを気にせず僕は目を閉じた。
明朝、ポメヤに叩き起こされた。
「起きてよ!もう我慢ならねぇですぞ!」
何怒ってんの?
足早に朝食を済ませミーナの店へと向かった。
「すごい人ですぞー!」
「あー!お兄さーん!ポメヤー!
仲良くなったね君達
「ぬおお!どけよぉ!どいて頂きたいですぞー」
ポメヤは人混みを掻き分けてミーナの元へトコトコと走って行った。
おっせぇなぁアイツ…
狩猟や戦闘を得意とするサラマンダーでもリバーシは理解できるらしく、お試し版でリバーシを楽しむサラマンダーで溢れかえっていた。
すごい熱気だ、というか僕は近づけない、暑すぎる。
歴戦の勇者達が小さな盤面と睨めっこしている風景は異様なものがあったがみんな楽しんでいるらしい。
結果ミーナが持っている1つ以外完売した、予約も数ヶ月待ちだそうだ、忙しそうで何よりだ。
商人ギルドと契約したらしく、世界中で売られるリバーシの売り上げの数%はミーナに入るらしい。とんでもない額だろう。
ミーナとポメヤはオセロで遊んでいる。
「そこは悪手ですぞ!握手だけにね!」
アイツ言いたいだけだからね。
ポメヤは頭が良いのでコツを掴んだらしく連戦連勝だ
「なんでぇ!最初は私が勝ってたのにー!」
ミーナは相変わらずか…あの複雑怪奇なゲームを作った子とは思えないな…崩壊してたけど
「ミーナはなんでお金が欲しいんですぞ?
ゲーム中余裕になったポメヤが聞いた。
「私はねー、世界を旅したいんだ!いろんな場所を見て回るの!それにはお金がいーっぱい必要なんだよ!」
「危ない事も多いですぞ、悪い大人も多いですぞ」
「じゃあ一緒に連れて行ってよ!ポメヤ!」
「何があったら責任取れません故ー無理ですぞー、ホラ、もうそこしか置けないですぞ」
「ケチー!」
そんな風景を微笑ましく見ていた。
確かに無理だ、仲間が増えれば問題も増える。
例えばサラマンダーを拒絶する町があったら?
そもそも亜人を受け入れない町があったら?
色々な町を見てきたがそういう町も実際あるんだ。
何があっても責任が取れない、リスクは回避すべきだ。
結果ぽめやは全勝、お前子供相手に本気になんなよ。
「強さとは、儚いですぞ!」
無視して宿屋に戻った。
「明日には出るぞ」
「はいですぞー」
やけに素直だな…
「久しぶりに雑魚っぱ以外といっぱい遊びましたぞ、もう悔いはない」
死ぬの?まあ良いけど
明朝ミーナが見送りに来てくれた。
「もう行っちゃうの?もう少しゆっくりしていけばいいのに…」
少し寂しそうだ。
「時間はあって無いようなものですぞ」
「お金いっぱい貯まったら旅にでるからどこかで会えるかな!」
「道は繋がっているんですぞ、いつか会いますぞ、どこか行きたい場所はあるのかね?」
かね?ってなんだ腹立つななんか。
「初めての町はエルフの町って決めてるんだ!美形ばっかりなんだって!あと絵本みたいな綺麗な場所なんだって!今から楽しみ!」
……
「あそこ辞めた方がいいですぞ!ご飯は美味しく無いし別に美形もいないですぞ!なんか、そう、臭いですぞ!」
「そうなの!?じゃあピクシーの町にしようかな!」
「そうしたら良いですぞ!絶対ですぞ!」
ポメヤはまた会うかもと約束を、僕はお世話になったと頭を下げて町を後にした。
「嫌な事を思い出したな」
「忘れた事なんかないクセに良く言いますぞ」
エルフの綺麗で絵画のような国は僕達が観光した数日後に帝国に攻め落とされた。
事前に麻薬漬けにされ、弓の抵抗も出来ないまま捕獲されてしまったのだ。
僕達は麻薬に勘づいていたが何もできないまま町を出たんだ。
「フィリアちゃん、無事だといいですぞ」
ポメヤを麻薬の噴水から抱き上げて洋服を真っ赤にそめても笑っていた太陽のような女の子。
逃げ切れたとは思えないけどな。
「次はどこだっけ?なんかのんびりした町がいいですぞ!」
「いいですぞ!じゃないよ君、次はドラゴンの国だよ」
「なんか重くない?生き急ぐのなら1人でどうぞですぞ」
………
サラマンダーの国で新しい娯楽を開発し、大儲けした少女は旅に出た。
親友を疑った訳ではないがエルフの国がどうしても諦めきれずに最初の旅先はエルフの国にした。
赤い噴水の湧き出る綺麗な景色の町には人間が住んでおり、過去の話を全て聞くことが出来た。
「ウソばっかりなんだから、今度リバーシで懲らしめなきゃね」
少女は優しい笑みを浮かべてフフっと笑った。
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