第2話 ドワーフの町に風呂を!

「なんか普通に疲れたですぞ」

そう言い出したのは見た目だけは癒し系の小さな魔物のポメヤ


「でも歩かないと前に進まないワケだから、その立派な短足で歩くと良いと思うぞ」


「は?ケンカか?良いからさっさと抱っこなり担ぐなりすればいいですぞ」


「嫌だよお前見た目の3倍くらい重いじゃん」


「重さより気持ちですぞ」

なんか絶妙に的外れなんだよなぁ…

そんな不毛な会話をしていると後方から馬車がやって来た。


「はい止まってですぞ」

ポメヤが番兵のような言葉で馬車を止めた


「なんだい、可愛い魔物に通せんぼされちまったよ」

馬車のオジサンは笑いながら止まってくれた。


「乗ります!ドワーフの町でしょ?行くのは!一緒に行きますぞ!」


「すみません乗せて下さい…あとアホがすみません」


「乗っていきな!少し揺れるけど我慢しろよ!」


「我慢の限界は僕が決めますぞ」

本当にごめんなさい…後で罵詈雑言浴びせておくので…


馬車に乗ったおかげで予定より早くドワーフの町に到着できた。おじさんはこのままサラマンダーの町まで行くらしい。謝礼金を少しだけ払おうとしたが断られた。良い人もいるもんだ。


「ありがとうですぞー、揺れないとダメだったかー?どうにかならなかったかー?」

流石にどうなんだお前のそれ。

おじさんは笑いながら手を振ってくれた。


そして今ドワーフの町の門の前にいる。

大きな扉だ、ドラゴンが来ても通れそうなほど大きい。

すると小窓から一人のドワーフが顔を出した。


「旅人さんか?ちょっと待ってろよ」

小窓のあたりに小さな扉がありそこからドワーフが1人出てきた。


「観光で来ました、数日滞在したいと思っています」


「うわ汗くせぇ」

お前ですぞを付けるの忘れてるぞ、あとその感情と口が直結してるのなんとかしろ


「ハッハッハ!正直なチビだ!そりゃ俺たちドワーフは一年中トンテンカンテンと鉄を打ってるんだから汗の臭いもするわ!誰も気にしないがな!」


豪快に笑うなぁ、まあそういう文化なんだ、匂いくらいなんて事ないよな。

ポメヤは短い手で鼻を覆っている、ついでに口も覆っておけば平和なのに


「汗くせぇ町だけど楽しんでくれ!ドワーフの町へようこそ!汗くせぇ旅人さん!」


そう言われてハッとした


そういや僕も相当だよな…ポメヤはこう見えて綺麗好きだから知らないうちに川で身体を洗ってたりする。


その川が激流で僕なんかが入ったら自殺みたいな川だったんだ。

ポメヤは気合いでとか言ってたけど…コイツ一応魔物だしな。


門を潜ると金属を叩く音が反響していた。

巨大な洞窟を町にしたのか、穴倉という単語が頭に浮かぶ。

所々にオレンジ色のランプがあり、優しく全体を照らしている。

道には石畳が敷かれて整備されており、なんというか繊細なイメージを受けた。

ドワーフは仕事に妥協を許さないと言うが納得だ。


「宿でお風呂入りたいですぞー、なんかもう鼻を洗いたい所存」

こんなに素晴らしい風景なのに…旅に向いてないよなこの魔物


途中ドワーフの女の子に道を聞いて宿屋まで案内してもらった。

宿屋の一人娘らしい、ハナという可愛らしい名前だ。

栗色の長い髪の毛を後ろで結んでいる、目はパッチリしていて鼻筋が通った可愛らしい、というか普通に美少女だ


「お母さーん!お客さん連れてきたよー」


「お父さーん!お風呂の準備ですぞー」


お前もうこの宿の子になるか?止めないけど


いらっしゃいませと出てきたのは背は小さいが美人のドワーフ。


男のドワーフは筋肉質でヒゲと髪の毛がモジャモジャだが女のドワーフは背が小さいだけで普通の人間とあまり変わらない、強いて言うなら少し筋肉質ってくらいだ。


「1人と1匹でお願いします、できれば先にお風呂を…」


「できなくてもお風呂ですぞ、かなわん」


すると女将さんは信じられない事を口走る

「よく旅人さんがお風呂って言うんですけど無いんです、お風呂」


「え?こんなに汗だくになる環境なのに?桶に水貯めて身体を拭くとかですか?」


「まあ泥だらけになったら拭くくらいはしますけど…そもそもそんな事したってすぐまた汗をかくし意味がないというか…」

ドワーフは身体が強靭なので病気などにはかからないと聞くが…確かに清潔にしなくても良いのならそういう文化になってもおかしく無いかも…


「なんか妙に説得力はありますが諦めないですぞ!風呂に入るまでここを一歩も動かん!」


駄々をこねるポメヤはハナちゃんに担がれて部屋に運ばれた。

風呂に入れないショックと年下の女の子に運ばれている現状のショックが重なり死体のようになっていた。

そしてハナちゃんにポイッとベットに投げ捨てられたのだ。


「流石にお前惨めだな」

「笑えばいいですぞ、雑魚が」


こいつちょいちょい貶してくるけど本当に僕と旅してて楽しいの?

それにしてもこの環境で風呂が無いのはちょっとな…

どうにか交渉してみるか。

無いのなら作れば良いんだ。


「女将さん、裏に空き地あるみたいですけどお風呂作ってみても良いですか?」


もうダメ元で聞いてみる、まあダメなら流石に諦めるけど。


「使い道がない場所だから勝手に使いな!旅人用に風呂とやらがあっても良いだろ!」


豪快だなぁ、ありがたい限りだ。

死体みたいになってるマヌケを起こして町に出よう。


「おいですぞ魔物、風呂の材料買いに行くぞ!」


ポメヤはベットから飛び起きると扉までトコトコ歩いて行き、


「さっさと行きますぞ!」


元気の良いことで…

まず浴槽だよなぁ、木でも良いが鉄がこんなに溢れてるんだ、加工したら案外すぐできるんじゃ無いの?


工房だらけなのでどこに頼もうか迷っていると

「ここは腕も良いし安いと思うな!」


この声はハナちゃんか、後を追ってきたんだね。

「お母さんから案内してあげてって頼まれたんだ!お風呂っていうのも気になるし!」


「ありがたい、とりあえずこの店で色々聞いてみようかな」


「早く行くですぞ!さっさと!」


工房内はやはり暑い、汗が吹き出してきた

「すいませーん!依頼したい物があるんですけどー」


すると仕事の手を止めてドワーフがカウンターまで来てくれた。


「なんでも作るぜ、ナイフか?剣か?鎧でも2日あれば仕上げてやる!」


「いや浴槽…こう、人が1人か2人入れるくらいの桶が欲しいのですが…」

僕は身振り手振りで特徴を伝える、一応紙にこんな感じですと絵も描いてみた。


「なんか不思議な形だがまあ出来るぜ!鉄の厚さはどんなもんだ?」


「鋭利になると怖いので指くらいの太さがあった方が良いですね」


「そこそこ金かかるけど良いのかい?」

実は以前行った町で大金を稼いでいるのでお金には余裕があるのだ、僕は言われた金額を払いますと言って店を出た。


なんと今日の夜には出来上がるらしい、しかも宿まで運んでくれるサービス付きだ。


なんかいつものうるさいヤツが静かにしてるな…

あれ、どこいったアイツ

ハナちゃんもいつの間にかいないけど

まあ2人なら大丈夫だろう、僕は火の問題を解決しに行こう。


【ポメヤサイド】


「手分けした方が早いですぞ、トーマは丁寧すぎる故時間がもったいない」

そんな事をボヤきながら歩いているといつも間にか隣にハナちゃんがいた。


「魔物さん迷子になるといけないから一緒に付いていってあげる!」


「僕は大丈夫ですぞ!でもまあ普通に助かりますぞ」

まあ土地勘も無いしたまに別の人間と歩くのも悪く無いですぞ。


「何を買いに行きたいの?」


「水問題を解決しようかと、多分トーマは火の問題解決をしてるので手分けですぞ」


「仲良いんだねーちょっと羨ましいかも」


「腐れ縁ですぞ!かっかっか」

仲が良いと言われて少し嬉しかった、まあそれがなんだという話だが


「水の魔石的な、なんかこう水を出す何かないんですぞ?」


「普通に宿にあるよ、お水出れば良いんでしょ?地下水を組み上げる仕掛けを発明したドワーフがいるから蛇口っていうのを捻ると水出るよ!」


はいお終いお終い


手分けですぞ!とか勝手に飛び出してきてそもそも何も問題は無かったっていう

なんとも恥ずかしい感じですぞ…


「ハナちゃんはいつも何してるんですぞ?」

もう何も無いので興味本位で聞いてみる。


「私は家の手伝いばっかりだよ、宿って言ってもお客さんはほとんど来ないからお父さんの工房の手伝い、毎日ヘトヘトなんだ。」


「もしかしてさっき勧めた工房ってお父さんの工房だったりするわけですぞ?」


「へっへーバレちゃったね」

少女は可愛らしく笑うとクルンと回った


「やるじゃん、なかなか商売上手ですぞ。暇だしもう少し街の案内をお願いしますぞ、看板娘」


看板娘と言われて気を良くしたのか少女は元気良く走り出した。


「いや歩幅ぁ!待って頂きたいー!」

歩幅が違うので結局抱き抱えられる形になってしまった。筋力あるなぁ。なんというか、無念である。

ノドが乾いたと言うとカフェに案内された。


「おごりますぞ。好きな物を頼むと良い、どれだけ頼んでも良いですぞ?」


「えっ!良いの?お誕生日でもないのに!」


「お誕生日でもないのにですぞ」


少女は目を輝かせてメニューを見ている、気になっていたのだがなんともこう、裕福には見えないのだ。

この世界で旅人はそう多く無い。


しかし宿屋が一つもない町というのも格好が付かない。

宿は綺麗に掃除されていたしこの家族は何かこだわりがあって宿屋を経営しているのか。


それとも外れクジを引いたのか…


少女は大きなケーキを注文するらしい、僕は気になっていたアイスコーヒーというメニューを注文した。


「ハナちゃんはいつ誕生日なんですぞ?」

特に会話がないのでなんとなく聞いてみた


「昨日だよ!18歳になったの!でもお金が無いからお母さんが好物のシチューを作ってくれたの!美味しかったから魔物さんも食べて見てよ!」


はあ、ドワーフだし鉱物だけに好物って話?


流石に僕もそこまで無粋ではないので口には出さなかった。あの男の前なら確実に声に出していただろう。

それにしても18歳かぁ、見えないですぞ


ほどなくしてケーキとアイスコーヒー、追加で注文した果実のジュースが到着した。


「好きに食べるといいですぞ、足りなかったらもう一個でも二個でも頼むと良い良い」


「本当!いただきまーす!」


「家族へのお土産も買いますぞ、後で選んでちょーだいね」


「なんでそこまでしてくれるの?」


「お誕生日は祝うものですぞ」

少女はお礼を言うと一心不乱に食べ始めた。

アイスコーヒーとやら美味しすぎる、これは是非にでも持って帰りたい。


結局大きなケーキを3個食べ切った少女はお土産に3個のケーキを持って嬉しそうにしている。


帰り道でアクセサリーのお店が目に入った。


「寄っていきますぞ、ここは良い品が多いと思う」

少女はあまり入った事が無いらしくケーキも抱えているので外で待っていた。


中には流石ドワーフの町と言わんばかりの精巧な細工のアクセサリーが並んでいる。

しかしお金はあるんだ、前引くくらい稼いだからね。


羽の形をした銀細工に赤い宝石がハメてあるのネックレスを買って店を出た。


「買い物終わりました、後ろを向くと良いですぞ」


少女の首にネックレスを付けてあげた。

「誕生日プレゼントですぞ、おめでとうございます!さあ帰りますぞ」


すこし照れくさい、こんなキャラじゃなかったはずなのに。

「なに?ケーキ持ってるから見えないよ!待ってよー」


少女はケーキを持ってポメヤを追いかけた。

すぐに追いつかれたが世間話をしながら帰った。


「おいお前、ケーキ女の子に持たせて何してんの?」

そういえばそういう風に見えますぞ…


トーマは火の魔石を手に入れたようでもう浴槽も宿屋に届いていた。


ケーキを持ったハナちゃんはお母さんにケーキの件を報告、こっちが申し訳なくなるくらいに頭を下げられた。

少女は鏡で首にあるネックレスを見てピョンピョン飛び跳ねている。


なんかこう、幸せって感じですぞ。


【トーマサイド】


火の魔石を1人で探し出し帰ってきたら女の子にケーキ持たせたマヌケがいるし浴槽はもう届いてるしハナちゃんとポメヤはなんか仲が良くなってるし女将さんからすごい頭下げられるし…


僕だけ?真面目に風呂の事考えてたの


もう考えないようにして風呂の用意だ、

蛇口から水を浴槽へ、後は火の魔石を中に入れてちょうど良い温度になったら取り出せば良いだけだ。

簡単だがこれで良いだろう。


すぐにちょうど良い温度になったので魔石を抜いた。


「さてと…もう限界ですぞ」

さっさと服を脱いで風呂に入ろうとする魔物


「ちょっと待てお前、なにさっさと入ろうとしてんの?見たところケーキ食ってお茶して帰ってきただけだよな?誰がこの風呂用意したのか言ってみ?」


「誰が用意したのでは無く誰が先に入るかって話ですぞ!何いってんだお前!」

許していいの?この魔物


「とりあえず僕が先だ!お前はケーキでも食ってろ!」


「横暴ですぞ、ゴミめ…」


捨て台詞を吐いて部屋に戻って行った。

本当に悪態のタイミングが良く無いんだよなアイツ…

しかし良い風呂だ、疲れが溶けていく…


【ポメヤサイド】


あの人なんであんなに自分勝手なんだろな。

手が出る所ですぞ全くもう。


悪態をつきながら一足先に夕飯のシチューを食べている。

確かに美味しい、少女の言った通りだ。

少女はせかせかと働いているが時折こっちに手を振ってくる。


僕はその度に手をヒラヒラさせて答えている

なんとまあ、キャラじゃないですぞ


するとトーマが風呂から上がってきた、とても満足そうだ。ちょうどシチューを食べ終わったので風呂に入る事にした。

「どうでしたか?僕の前に入った一番風呂は?さぞ気持ちよかったはずですぞ」


「気持ちよかったよ、お前もゆっくりしてこいよ」


なんか毒が抜けてますぞ、今なら引っ叩いても怒らなそう。

僕はそそくさと風呂に向かった。

服を脱いで湯に浸かる

「生き返りますぞー、なんか全てがザマァ見ろって感じですぞー」


「うわーこれがお風呂!すごいね!」


え?


少女が興味津々でこっちを見ている。

まあ人間なら恥ずかしい気持ちもあるはずだけど僕魔物だからそんなの気にしないですぞ。


「私も入っていい?」


「いいですぞー、のんびりしたら良いー」


少女は服をスルスルと脱ぎ始めた。

え?今?僕の後に入るんじゃ無くて?

「少し恥ずかしいね」


少女はそう言うと浴槽に入ってきた。

正直僕1人だと大きすぎるくらいだったしまあ良いけど。


「のんびり入るんですぞー、これが心、心なんですぞ」


「初めて入ったけど気持ちいいねー、毎日入っても良いくらい」


「毎日入ってもいいですぞー、どうせ火の魔石とかもう使わないだろうし置いていくように言っておきますぞ」


「え!?本当に!」

少女は大きな声を上げて立ち上がった。

見えてる見えてる、恥じらいも大事ですぞ。

しかし意外と…子供のようだけどもう大人の身体に…


「ちょっと!」

僕の視線に気がついて少女は大事な部分を隠して浴槽に腰を下ろした。


「まあお風呂なので気にしない方がいいですぞ」


「いやらしい目で見てたのに?」


「いやそんな事ないですぞ?まあ謝るけど…」

その後は2人で談笑しながら長風呂をしてしまった。少女が風呂上がりにニコニコしながらネックレスを付けているのを見て少し嬉しくなった。


少女は風呂が気に入ったらしく興奮しながら両親に報告していた。


部屋に帰るとトーマがニヤニヤしながらこっちを見てくる。

「なんですぞ気持ちの悪い、通報しても?」


「いやぁお前にも優しいとこあるんだって思って」


「ありますぞ?雑魚なお前よりもな、さっさと寝ますぞ」

鬱陶しいから明かりを消した。


「起きてますぞ?トーマさんや」

「ギリギリね、ポメヤさんや」

「明日出発ですぞ?」

「そうだな。もう十分じゃないか?」

「はいですぞー」


明朝、出発の準備をしていると…

「魔物さんもう出て行っちゃうの!?」


少女がノックもせずに飛び込んできた。

ここ客室だが?


「そうですぞー、急な用事が出来てしまったのでー」


「そうなんだ…また来る!?」


「お風呂があればまた寄るかもですぞー」


「分かった!毎日沸かしておくね!」


「毎日入れば良いですぞ」

ドワーフの町の入り口まで宿屋全員で見送りに来てくれた。

両親も風呂が気に入ったらしく火の魔石をとても喜んでくれたようだ。

「きっとまた寄っていってねー!お風呂沸かして待ってるからねー」


「はーいですぞー」


「ありがとうございました!」

トーマも軽く頭を下げて出発した。


「ところでナイフは買ったんですぞ?」


「うわっ忘れた!でもそれどころでは無かったの分からない感じですか?」


「ドンマイですぞ」


「次はサラマンダーの町かな」


「暑苦しいのが続きますなぁ」


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