第5話 王女から女王へ
それから一ヶ月もしないうちに、この国に不幸が襲った。
現国王……つまり、ナナ姫の父が逝去された。魔王軍が滅んだ後、病に冒され、医者の手には負えず、回復魔法では延命処置しか出来ずにいた。最後は、彼女ナナ姫に負担を掛けないようにとの判断であった。魔王軍と対峙し、一度は城を取られるも、勇者と共闘し――中にナナ姫もいたが――この国を救った英雄の死であった。
しばらくの間、国中が喪に伏すことになった……だが、ひとり止められない人物がいた。
一週間もしないうちに、馬車鉄道の線路上に奇妙な
遠くからでも分かるほど、煙を上げて走っている。煙突の横には、まるで
それを馬車と呼んでいいのか……のちの機関車と言っていいものだろう。まあ、この時には表現できる言葉がなかった。
そして、その馬車には決まって、ナナ姫が乗っていた……いや、次の王、女王である(王冠をもらっていないので、名目上はまだ)。
これは彼女がタルーンから購入したカッターボートの機関を、荷馬車に乗せたものだ。中央に蒸気機関を積み、燃料は薪を使い、酒樽に水を入れて、ピストンからの動力を駆動輪に伝え、レールの上を走っている。
その荷馬車には、その他に釜焚き作業員と運転手の計3人が乗り込んでいた。釜焚きは、この国にはない蒸気機関の指導のために、商人ポポロンが後から送り込んだものだ。釜焚きの彼を含めて、一〇名ほどが先行して送られた。その後、数十名の技術者が送られてくるのだが、もちろん、その仕事は蒸気機関の運転指導のみではない。
ナナ女王との約束……北方での試掘の為の技術者を含まれている。だが、それ以上に多いのは冶金技術。鉄の生産拠点を新たに作ることだ。
彼女の目論見は、蒸気機関の自国での量産化。その先には、今、乗り込んでいる機関車の世界販売だ。そのためには、高品質の鉄が必要になる。しかも大量に……幸い、燃料たる木材には困らない。しかも彼女の国には、良質な木材を産出する場所があった。そこには建築資材、造船にも使える木材が大量にある。しかし、彼女のいる新王都からは少々と遠い場所にある――約40キロではあるが。
「この木材を外国に売って、財源にしましょう!」
と、彼女の一言。
そこで、大規模な鉄道路線を計画した。もちろん、使うのは彼女の発案した蒸気機関車だ。馬車鉄道に使う馬が、手に入りづらいから当然である。
ところで、ここまで来ると、蒸気機関の生産、機関車の製造、レール等の施設関連……その他諸々の資金が、想像以上に膨らんできた。それに加え、前国王の葬儀。すでに国庫は危機的状態なのに、ナナ女王の国でそんなことができるのか。
実は、ほとんどが借金だ、商人ポポロンからの。
当初は、『試掘権』でカッターボートの小型蒸気機関を買った。その後、ナナ女王の発想により、馬を使わない馬車……機関車が実験的ではあるが走り始めると、その特許と独占販売の権利をチラつかせてきた。
世界中の家畜不足……特に馬の不足状態を打開するためのアイデアとしては、申し分ない。そう商人ポポロンは思い、資金提供を開始した……ほとんど賭けだ。いくら小国を賄えるほどの財力がある商人ポポロンといっても、限界があった。なにせ、商人ポポロンは海の向こうの隣国にいて、ほぼ事後承諾で計画は動いていたのだ。しかも、投資した資金の回収のためには、このふたつの事業を成功させなくてはならない。試掘の結果もそうだが、蒸気機関車という馬などの動物を使わずものを運ぶ技術は、諦めるには惜しいものだ。いつしか、ナナ女王の性格も相まって、資金を借りている相手の方が強く出てきた。湯水のように資金が消費されるのを止められずにいた(商人ポポロンの心労が思いやられる)。
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