第5話 守護者カサブランカ
夕暮れ時、悠真とアスカは祖父の家へと戻ってきた。森の中を歩く二人の後ろには、虹色に輝く巨大なカサブランカの姿がある。その足音が地面を震わせ、家の窓が微かに揺れるほどだった。
庭先で作業をしていた勝二はその様子に気づき、目を丸くした。手にしていた鍬をゆっくりと下ろし、二人に近づく。
「二人ともおかえり……っ、こりゃまた、すごいお客さんを連れてきたのう……」
その声には驚きと半ば呆れたような響きが混じっていた。悠真は少し気まずそうに笑いながら、後ろのカサブランカを振り返った。
「じいちゃん、驚かないで。こいつは『カサブランカ』っていうんだ。僕らの……友達になったんだよ」
その言葉に勝二は片眉を上げ、カサブランカをじっくりと見上げた。その巨大な体を流れる虹色の光が、どこか幻想的で、生き物らしい気配を感じさせる。
「友達、のう……ふむ、見た目はとんでもないが、悪いやつではなさそうじゃ」
勝二の表情は驚きを超え、次第に興味へと変わっていった。
「心配いらないよ、アスカの言うことをちゃんと聞くんだ」
「おじいさん、この子はとても優しいの。私たちを助けてくれたし、意思が通じるみたい」
アスカの言葉に勝二は微笑み、肩をすくめる。
「心配せんでも、友人だったらわしは誰でも大歓迎じゃ」
その言葉に応えるように、カサブランカが虹色の光を柔らかく揺らした。それはまるでアスカの言葉を肯定しているかのようだった。
「ほう……随分と賢いもんじゃのう。こりゃ驚いた」
勝二は満足げに頷き、カサブランカを見上げた。その瞳には純粋な好奇心と、少しの安心感が宿っていた。
「じいちゃん、ありがとう。でも今日の発見はそれだけじゃないんだ!」
悠真が勢いよく声を上げる。その瞳は興奮で輝いていた。
「カサブランカがアスカの声を聞いたってことは……空クジラにも、同じことができるかもしれない!」
その言葉に、勝二の表情が一瞬硬くなる。
「ほう……空クジラに……?」
悠真は力強く頷いた。
「うん! だってカサブランカだって意思があるんだから、空クジラだって同じだと思う。もしアスカが声を届けられたら……空クジラを止められるかもしれない」
その言葉にアスカも驚いたように顔を上げた。しばらく考え込むように視線を落としていたが、やがて静かに頷いた。
「だけど悠真、……空クジラは空の上にいるんだよ? どうやってそこまで行くの?」
その問いに、悠真は一瞬考え込んだ。
だが、次の瞬間、彼の視線はアスカの背中に移る。
「なに言ってるんだ、アスカ、君には翼があるじゃないか! それで飛べば、空クジラにだって近づけるよ!」
その言葉に、アスカは自分の背中に手を伸ばし、白い翼を広げた。その羽根は淡い光を反射し、柔らかく揺れている。
「私……飛べる、かな……?」
彼女の声には、不安と希望が入り混じっていた。悠真は力強く頷く。
「絶対に飛べるよ! 翼は空を飛ぶためのものなんだから。それに僕だって手伝う。アスカが飛べるようになるまで、何だってやるよ」
その言葉に、アスカの表情は少しずつ変わっていった。不安の色が薄れ、代わりに決意が宿っていく。
「私……練習してみるよ。空を飛んで空クジラに近づけば、きっと何か分かるはずだから」
その瞳には、強い意志が輝いていた。
「カサブランカも手伝ってくれるかな?」
アスカがそっと呟くと、カサブランカが虹色の光を明滅させた。それは、まるで「もちろんだ」と答えているようだった。
勝二はそんなやり取りを静かに見守りながら、柔らかい笑みを浮かべた。
「なるほどな……どうやら本当に良い友人を見つけたみたいじゃのう。まあ、ゆっくり休んでから考えればええ。焦っても何も始まらんからな」
その言葉に、悠真とアスカは安心したように頷いた。そして、カサブランカも静かに二人の後ろに付き従いながら、家の周囲に守護者のように佇んでいた。
その夜、三人と一体の「家族」はそれぞれ思いを巡らせながら眠りについた。
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