第十七話 世界最強VS偽世界最強

「第二のさぁ! 人生をさぁ! 送りたいわけよ! 許してくんねぇんだよ世界がよぉ!」


 ルシファーを殴打しながら叫ぶ。

 場所は地球の奥深く、地熱によって大地が溶かされ、生まれたマグマの海。

 が、世界最強たちには関係ない。


「けどさぁ! 俺は昔、滅茶苦茶やんちゃしたからその罪滅ぼしもしなくちゃいけないんだよ! それでも頑張ってたんだ! みんなのために! だのに王様が化け物って呼ぶんだよ俺を! そりゃ俺は強いさ! けど化け物はないだろ! イヴとの結婚を許してくれてぇ! すげえ舞い上がってたんだ! 裏切られて傷ついて家出しちゃったんだよぉ!」


 ルシファーの両足を掴んで、鉄球投げの要領でぐるぐるぶん回す。

 プロレスにこんな技あったっけ。


「そしたらなんでだよ! なんで戦争が起こってんだよ! いや違う、違う違う! そうじゃない! 分かってたさ、戦争になることくらい! けど見て見ぬ振りしてしまった! 戦争になってもいいやと思ってしまった! イヴも付いてきてくれた! だから許されたと思ったんだ! けど違った! イヴは俺も国も救おうとしていた! そしてお前がそこに来ちゃったんだよ! マジでぶち殺してぇよクソガキぃ! 落ち着くんだ俺!」


 情緒が定まらない。

 これではどちらが子供か分からない。

 ついにルシファーの体をぶん投げた。

 瞬間移動でぶん投げた方向に移動した、んでキャッチ、1人キャッチボール&人間ボール。

 次は逆エビ固め。

 プロレス技の満漢全席を始めてる。


「俺は落ち着いて考えたんだ、ことの顛末はつまりどういうことだったのかと、そして行き着いた結論は!! 俺がもっと仲良くしてればよかったんだ、王様とも、もっと話して俺が安心して任せられるやつだと思ってもらえるようにしなきゃいけなかったんだ。娘さんを僕にくださいを成功させるにはそうしなきゃいけない」


 なんかおかしなこと言い始めた。


「だから俺は、この件が終わったら、色んな人と話して、好きになって、守りたいと思って、そうすればきっと、本当にイヴと結婚できるんだ」


 みちのくドライバーをかけながら言うことではない。


「で、その嫁が助けて欲しいと言う女の子がお前だ。だから、今から話し合おう」

「殴って投げて絞めてから言うなぁああああ!」


 どんなに怒っていても、それより先にブチギレている人がいると落ち着いてしまうものだ。なのでアルナが落ち着くとルシファーがブチギレるシステム。


「さぁ、何が欲しいんだっけお前?」

「自由だ! 私が欲しいのは自由!」

「どうやって手に入れる?」

「奪う! 壊す! 私にはそれができる!」

「それじゃあ無理だ。自由とは言えない」

「何故だ!?」

「好き嫌いをしているからだ」


 ルシファーの動きが止まる。

 エラーを起こした機械のよう。


「お前はイヴのことが好きか?」

「----まぁ」

「お前は俺のことが嫌いか?」

「ああ!」

「俺を殺せば、イヴはお前のことを嫌いになる」

「……はぁ?」

「イヴは俺のことが好きなんだ」

「はぁ!?」


 よく恥ずかしげも無く言えるなそんなこと。


「イヴに嫌われるなんて嫌だろ?」

「そうだけど! そうだけどお前は嫌いだ壊したい!」

「イヴに嫌われたら悲しいだろ! だったら俺を殺すな! 俺を殺してはいけない!」

「そんなの、そんなの----自由じゃない!」

「ほらな」

「!」


 なるほど。その理論か。


「好きな人が、自分の嫌いな人を、自分と同じように嫌いになってくれるとは限らない。こんなこと当たり前だ、お前だって薄々分かっていたはずだ」

「う、うぅ----」

「好き嫌いをしている限り、愛されたいと思う限り、自由は永遠に手に入らない」

「そんな、そんなわけないだろ!」

「俺は嫁は好きだが、嫁の実家は嫌いだ、けれど嫁と愛し合うためには、嫌いでも仲良くしなきゃいけない」

「お前はそれでいいのか!?」

「いいんだ」

「それは不自由だぞ!?」

「幸福な不自由もある」

「自由になれば幸せだ!」

「お前は1人じゃ生きていけない弱い存在だ。寂しいと死んじゃうんだよ、俺たちは」

「嘘だぁああああああああああああああああああ」


 後先を考えない全魔力を込めた魔弾。

 アルナへと向けて放つ。

 アルナは逃げも隠れもしない。

 その全てを受け止める。

 そして、


「神権『魔神』」


 全てをした。


「魔力を支配する神権。ついさっき作った。もうこれで、俺はこの世の全ての魔力を手に入れた」

「嘘だ、嘘だ」


 ルシファーの顔がどんどんくしゃくしゃになっていく、醜い泣き顔だ。

 アルナはルシファーに手を差し伸べる。


「一緒に大人になろう」

「や、だぁ----」

「人は変われる。現にお前はもう、

「ちがう、ち----がう」


 ルシファーの狂ったイントネーションは、幼少期にまともに言葉を教わらなかったことに由来する。

 その未熟が、この短い期間で、多くの人との会話によって、育った。

 永遠に子供であることは出来ない。

 やがては大人になってしまう。


「私は、幸せになりたい」

「なろう。なれる。一緒に、頑張ろう」


 ルシファーは手を伸ばす。 

 手と手が結ばれる。

 アルナVSルシファーは、どちらの勝利でも、どちらの敗北でも終わらず、引き分けでさえない。

 和解によって終わった。















 いや。 

 いやいや。

 いやいやいや。

 いやいやいやいや。

 いやいやいやいやいや。

 いやいやいやいやいやいや。

 いやいやいやいやいやいやいや。

 いやいやいやいやいやいやいやいや。

 いやいやいやいやいやいやいやいやいや。

 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。


 終われないってそんなんじゃ。 

 どっちか勝たなきゃいけないの。

 それを俺が望んでるの。

 『観客』である俺がだ。

 だから、決着をつけなきゃいけないんだ。

 どんなに強引だったとしても。
















「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ----ッ!」


 ルシファーが断末魔を上げる。

 2人が地上に戻り、キャサリルとイヴに事情を話したところでだ。

 暴走していた。

 神権『魔神』をコピーし、空気中の魔力を吸収している。

 大陸全ての魔力を奪い、やがては世界を滅ぼすだろう。

 これで、ルシファーは完全にアルナとなった。

 筋書きとしてはこうだ。

 本来持っていた魔力量を大幅に超えていたために、肉体が壊れかけていた。アルナたちはもうどうしようもないので、ルシファーと戦うことに。

 まぁ、少し強引だがいいだろう。

 さぁ、やっと辿り着いたこの筋書き。 

 アルナVS偽アルナ。

 ようやく、見れるのだ、この試合いが。

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