第十八話 イッッッッツァ----コォーコォー グハァ! ギニヤッ
「うぉおおおおおおおおああおおおおおおッ!」
暴走するルシファーを、アルナが押さえ込んでいた。
『魔神』で魔力を奪い続け、世界を滅ぼしかねない力を制御していた。
無駄なことを。
四六時中そうしているつもりかアルナ。
不可能なんだよ。
ルシファーを殺すしか世界を救う方法はない。
早く見せてくれ、お前の輝きを。
「『観客席』ぃいいいいいいいいい----ッ!」
人のあだ名を怒号に乗せるな、キャサリル。
キャサリルは空に向かって叫んでいた。俺はそんなところにはいないというのに。
「この世界の存在保証をする『座』に座るお前が! こんなことをしてただで済むと思っているのか!?」
思うね。
世界はきっと喜んでくれる。
「ソロネを唆し魔王に仕立て上げたこともか!?」
そうだなぁ。
あれも結局、和解というつまらない結末になってしまった。反省してるよ。
「ルシファーも、お前が生み出したんだな!?」
ご名答だ。
アルナと戦わせるため。
アルナVS偽アルナという試合を成立させるために作った、アルナのコピー、だからピーコ。記憶もアルナの半生を模して作ったんだ。
シャラプと名付けられたけアルナ。
ピーコと名付けられたルシファー。
良い対比だろ。
「あなたは----あなたは何が目的なんですか!?」
今度はイヴが尋ねてくる。
さっきも言っただろ。
試合を見るためだ。
厳密に言うなら、試合を見て楽しむためだ。
「楽しむ----そんな理由のために」
おいおい、そんな理由って酷いな。
こっちとしちゃ生きがいなんだ。お前らだって、スポーツ観戦とかするだろ? 面白いだろ? 俺にとってアルナは
いいか? 俺は本当に退屈だったんだ。アルナが生まれるまで。
ちょいちょいちょっかいは出していたけれど、いまいち盛り上がりに欠ける試合ばっかだった。
だがら、俺はアルナを作った。
世界のルールを壊しかねない世界最強だ。
分かるだろ? 強いやつに強いやつぶつけだらどうなるのか気になる気持ちが、そしてどんな強いやつでもねじ伏せてほしいという征服欲。
アルナは俺の希望なんだ。
「……あなたとは、分かり合えない」
当たり前だ。
ほら、早くアルナに殺せと言え。
イヴからのお願いならなんだって聞いてくれる。
つーか、そのためにお前を作ったんだから。
「----え?」
イヴってのはさ、アダムの妻の名前じゃん。んで、イヴはアダムのためだけに作られた存在なわけよ。つまり、アルナの行動原理になるために作られたお前は、アルナにとってイヴなんだ。
「----私は、アルナのために生まれたのだとしても構わない、それに従うかは私が決めるし、私はアルナとみんなのために戦いたい。だから、あなたの思うようには----」
『イヴ様----ッ! 助けてぇええええ!』
「え?」
え?
誰だ今の声は?
『イグリです! ほら王の間にいたあの!』
「あ、えっと、確か、アルナにぶん投げられた人? 神権を最初に使われた」
『そうですそうです』
いや、もう誰もお前のことなんか覚えてねぇよ。
ていうかお前どこにいんの?
『ソファの上です。アルナの野郎にぶっ飛ばされて、変なところに来ちゃって、そしたらふかふかのソファがあったもんで座ってたら、イヴ様の声が聞こえて』
「13脚の座が1つ、『ソファ』だ! 効果は治療するだけの座だ!」
キャサリルが説明する。
つまりあれか、アルナがぶん投げたイグリが、大陸を超えて、この『座の世界』に到達させたってのかよ。
「ってことは」
イヴが何か思いついたようだ。
だが、今更何をしたところで試合は----
「アルナ!」
「何!? 今結構余裕ないんだけど! て言うかさっきから2人とも誰と話してるの!?」
「結婚式を開くよ!」
「はぁっ!?」
「国に帰ろう!」
いや本当に分からない。
何をしようとしてるんだこの女は。
「今から、説明します」
と言ったのはイヴ。
キャサリルが生み出した巨大なドラゴンの上だった。乗客は混沌としている。今にも世界を滅ぼしかねないルシファーと、それを抑えつけるアルナ。言葉でドラゴンを維持し続けるキャサリル。加えて気絶中のセラフィム、ケルビム、オリハル国軍の方々。
そしてアルナの連絡魔法によってセントラル王国と会話が可能、相手は内閣のハゲたち。
「結婚式を開きます」
それは知ってんだよ。
「まず、式場はあの王の間。アルナがセントラル王国から出ていく原因となった事件の現場だね」
縁起が悪すぎるだろそれ。
「その理由としては、イグリが座の世界にたどり着いたことが関係してる」
あれはびっくりした。
で、それがどうした?
「イグリが行けたってことは、多分、同じことをすれば行けるんだよ、座の世界に」
----なるほどねぇ。
つまり、俺のとこにカチコミに行こうって話か。けどよぉ、投げるのはどうしてもアルナだろ? ってことはアルナは俺のところにこれねぇ、俺だって座の1つ、『観客席』に座るものだ、アルナ以外のやつに負けるようなタマじゃない。
「いいえ、送るのはルシファーちゃんよ」
……は?
今、なんて言った?
「座の世界に爆発寸前のルシファーを送ると言ったのよ」
はぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?
そんなことをしてみろ!
座はこの世界の存在証明をするためにある、そんな精密なとこに爆弾放り投げてぶっ飛ばす気か!? 下手したら世界ごと滅ぶんだぞ!?
「そしたら、あなたはルシファーの暴走を意地でも止めるじゃない」
あ。
「さて、ルシファーの件についてはこれで大丈夫ね。じゃあ次の件についてよ」
おい待て、良くねぇぞ。
やめてくれよマジで、止めるの簡単じゃねえんだぞ。
「次は、アルナと『観客席』の繋がりを絶つわ」
はぁっ!?
そんなこと出来るわけ----
「結婚して名前を変えれば?」
しまったぁああああああああああああああああああああああああああああああ喋り過ぎたぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?
「アルナ・カーベルト。カーは魂を表す、ベルトは拘束具。つまり魂の支配を意味していると考えられる」
「いや、イヴ様、それはさすがに----」
……。
「黙った!? 当たってる!?」
「あと、カーベルトって、車のベルトとも言える、つまりシートベルト、やはり座との繋がりが感じられるわ」
「いやいやいや、んな無理矢理な----」
……。
「さっきまでペラペラだったのに何黙ってんだよ! この三人称視点野郎!」
「キャサリルも言ってたでしょ? この世界では名前が重要な意味を待つと。今まで会ってきた人たちは名前通りの個性だったわ。アングリーさんは怒りっぽい。ハッピーさんはお気楽。それはさっき、あなたが保証してくれたでしょ? アルナのために作られたからイヴだって、それってつまり、名前で役目とか性格を登録しているんじゃなくて?」
ぐぬぬ。
「ついにぐぬぬって言い出したよこいつ」
「結婚すれば名前が変わる。カーベルトから私の名字、セントラルにね」
……ハハハ。
まぁその通りだと言っておこう。
座は面倒臭がりなんだ、だから名前とキャラを一致させて世界を管理している。
まさかそれが利用されるだなんてね。
「これらの理由から結婚式を行います。国中を上げたすごい式場にしてね、内閣の皆さん!」
イヴは笑顔で連絡を切る。
なぁ、イヴ。
お前、もしかしてだけど、実はただ単に、結婚式をしたかっただけなんじゃないか? 色々理由つけてるけど、改名の方法なんて他にいくらでもある。
「それは言わなくて良いですよ、『観客席』さん」
くくく。
だとしたら、俺もアルナも世界も、全部お前の手のひらの上にいるみたいだ。
分かったよ、今回は俺の負けだ。
俺は決着が着かないのが一番嫌いなんだ。
一思いにやれ。
「私は新婦です。言い方を変えてください」
細かいなぁ。
けど、勝者にはそれぐらいやるか。
新郎新婦とその他大勢を乗せたドラゴンは、結婚式場へと向かう。
『幸せになれよ、アルナ、イヴ』
俺は、久しぶりに心から喋った気がした。
アルナがルシファーをぶん投げる。
鉄球投げの要領で。
あの時のが練習になったのかな。
超高速で移動するルシファーがこちらに来る。
さてと、んじゃまぁ、自分が原因だけど、世界救っちゃいますかなぁ。
俺は構える。
ルシファーは目前。
俺はルシファーをキャッチする。
うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
痛えぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ--------ッ。
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