第六話 韻を踏んで同じ轍を踏む
セントラル王国会議室兼緊急司令部。
で、ハゲと幼女エルフたちが大忙しに働いていた。
「巨大スライム被害で今のところ17の町村が破壊されたとのこと!」
「人的被害は!?」
「事前避難により0です!」
「引き続き避難誘導と支援を!」
「巨大スライムの移動速度が出ました! 予測によると避難が間に合わない避難チームが複数!」
「空間魔法使いを向かわせろ!」
「もうすでに! 国が抱えている者だけでは足りません!」
「わしの弟子たちを呼べ! 民間団体からもかき集めろ! 報酬は弾め!」
「なあ、入れ歯どこじゃ?」
「黙れクソボケ大戦犯ジジイ! 多分洗面台だ!」
「ありがとなぁ」
オリハルコンスライム100体の進行により、会議室は慌ただしくなっていた。
彼らはその名所は知らないが、現れた場所からオリハル国由来のものだということは理解できた。
しかし、オリハル国からの降伏要求もないことから、混乱は加速していた。
ピーコが原因であることも分かっていなかった。
「技術班はまだ巨大スライムの破壊方法が分からないのか!?」
「目下不可能! 今は別の解決方法が優先されているようです!」
「オリハル国からの伝令は!?」
「未だありません! やはり降伏さえ視野に入れない殲滅作戦でしょう!」
「シャフトとピーコの伝令チームはまだ戻ってきていないのか、もういい時間だぞ!?」
「おそらく、オリハル国によって拘束、もしくは殺害されているかと!」
「本気で交渉の余地は無いようじゃな」
宣戦布告が届かない、戦争のルールを度外視したその状況は、彼ら彼女らにそう受け取らせるのも仕方のないことだった。
「クソ、ここまでオリハル国の侵攻が早いとは」
「ですが、この状況を見るに、アルナ様の新天地も被害に遭っているでしょう。もしかしたら協力をしてくれる可能性も----」
「そう! だが来ないことには作戦は絶対的失敗としか言えないのじゃ」
「一応、謝罪と協力要求を伝える伝令を送っていますが……」
「アルナはセントラル王国に全く愛着が無い。だが、イヴ様ならアルナを説得してくれると期待するしかないんじゃ」
この状況を打開するにはもうアルナしかいなかった。世界最強のアルナが。
アルナさえ要れば全てがうまくいく。
誰もがそう思った。
駆けつけて欲しいと。
ヒーローになって助けに来て欲しいと。
その願いは、半分叶った。
「ぶち殺してやるうぅぅ----てめぇらの血は何色だあぁぁ----下衆どもおぉぉ----ッ!」
会議室の扉が吹っ飛んだ。
吹っ飛んで空中で5回転した後、木っ端微塵になって降り注いだ。
まるで雪のよう。
「血に染めてやるうぅ! 真っ赤になあぁ!」
「うわぁ! 鬼の形相になったアルナ様がセントラル王国を滅ぼしに来たぞぉ!」
「WRYYYY----ッ!」
「もう人間の唸り声じゃあない!」
「落ち着くのじゃ! 騒ぐんじゃあない! わしは以前にもアルナがこんな風になったところを2度見たことがある! 1度目はイヴ様が誘拐された時、2度目はイヴ様がナンパされたとき!」
「つまり!?」
「イヴ様に何かあったのじゃ!」
「イヴはどこだあぁ人間のゴミどもおぉ!」
アルナはイヴが攫われたと思っている。本当は丸太小屋で寝ているが。
アルナはピーコがセントラル王国の手先だと思っている。半分正しいが、あの行動はピーコの勝手な行動である。
よって、アルナはセントラル王国を本気で滅ぼす気である。
「落ち着くのじゃアルナ! イヴ様に何があったのだ?」
「白々しいんだよ! おまえらがイヴを攫ったって情報はもう上がってんだよ!」
「何をいっている!?」
「そうか、あんたの手先だったか、あんたの考えそうなこったなぁ元師匠!」
「あぁ!? テメェ誰に向かって言ってやがんだこのキャサリル様は一生テメェの師匠だバカ弟子!」
試合開始。
「これが師匠? これは失笑! それは自っ称!」
「自称じゃねぇぜ交わした契約! 認めてたまるかあの日を消却!」
「性犯罪者予備軍製造機がほざいてる! いつまで経ってもロリっ子エルフ抜け出せないでいる!」
「わしはお前の初恋泥棒ぉ! 今ここでとっておきを暴露ぉ! 可愛い頃のお前はどぉこぉ!? とってあるぜあの日の
「ぐはぁっ!!!!」
「アルナ様が後ろに吹っ飛んだ!?」
「そういう世界観じゃないだろここ⁉︎」
試合終了。
「腐っても腕は落ちてないようですね、師匠」
「お前も怠けてはいないようだな、バカ弟子」
2人は固く握手し合う。
「この人たちはなんの師弟なんだろう?」
「知らん」
ハゲどもは呆れ合う。
「さて、ピーコが師匠の手先ではなかったっていうのは分かりました」
「ああ、わしもまさかピーコが勝手そんなことをするとは驚いている」
「さっきの攻防で理解し合っただと!?」
呆れを通り越して驚いた。
心の毛根まで抜けてしまうハゲたち。
だが、理解し合えたとはまだ言えなかった。
アルナはイヴを優先し、キャサリル含め上層部は国と国民を優先する。
「俺はイヴを見つけたい。助けたい」
「わしだってイヴ様を案じておる。しかし、今は国家存亡の危機、巨大スライムの件をなんとかしなければならない」
「俺ならなんとでもできる。だから、イヴ捜索を優先してくれ!」
「ダメだ、国民が現在進行形で危険に晒されている! 割ける人員はもうない!」
「……だが、ピーコはガキだ、ちょっとしたことでイヴに何をするか分からない!」
「イヴ様なら国民優先を望む!」
「そんなわけない! イヴはこの国を捨てたはずだ!」
破裂音。
キャサリルがアルナの頬を叩いたのだ。
何をされたのか理解できないアルナ。
「アルナ、本気でそれを言っているのか?」
「……なんだよ、だってイヴは俺を選んでくれた」
「正しい。だがこの国を捨てた訳じゃない。だから、イヴ様はあの国境間で----」
「黙れ! イヴは、イヴは----」
「最速最善最強に解決しろ! お前は世界最強だ!それができる! アルナ、お前の唯一の弱点は精神力、しゃんとしろ!」
「……なんで、なんで皆んな俺を頼るんだ----ずっと俺は頑張ってきたのに、俺は裏切られたのに、俺にはイヴしかいないのに----やっと、自由になれると思ったのにぃ」
「泣き言をぬかすな!」
「だって、だってぇ」
アルナは子供のように泣き出す。
実際、子供なのだ。まともな人間関係を作らず、英雄として崇められただけ、ちゃんとした意思疎通をしてきたのは師匠とイヴだけだった。
自由を与えられたことのない子供が、やっと手に入れたものを取り上げられたに等しい。
「速報です!」
「なんだ!?」
現地に送られた調査員が戻ってくる。
溢れ出す汗から、ただ事ではないことが見て取れる。
「す、スライムがッ、各地のっ」
「落ち着け、落ち着いて話せ!」
調査員は水を一杯飲み、呼吸を整え、伝える。
「進行してきた各地の巨大スライムが、次々に、原因不明に、消滅しました!」
一同、声を揃えて「はあ!?」。
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