第5話 陰キャな僕、陽キャなギャルの家にお邪魔する
土曜日の夕方。僕と父親は日向寺家のアパートへと向かっていた。車の中が今までにない清涼感に包まれていたことは、きっと気のせいだろう。
「どうした譲? ずっと黙っているけど緊張しているのか?」
(緊張しているのはあなたですよね?)
「ちょっとだけ頭が痛いんだよ」
「そうなのか」
「うん」
そんなこんなで日向寺家に到着。スマホで連絡を取るとアパートから日向寺親子が現れた。
「ごほん、ごほん、ごほん。あー、あたいダメかも」
(わざとらしいな。普通そんな咳しないでしょ)
「美咲、大丈夫?」
「あたい、今日は無理。みんなで食べに行ってきて」
「そう?」
「父さん」
「何だ」
「僕、頭が痛いし熱っぽいんだ。だから今日、ラーメン屋に行くのはキャンセルするよ」
「そうなのか――じゃあ譲、自力で帰ってな」
(あのー、父さん? 熱が出ている息子に自力で帰れっていうんですか? まあ、熱は無いですけど)
打ち合わせ通り実行した結果、父親と日向寺ママは二人きりでドライブデートへ。車が出発するのを見送った後、日向寺さんの声がした。
「行ったね」
「これでうまく行くといいんだけど」
「たぶん大丈夫じゃん。おかん気合入っていたし」
「うん。僕の父さんもプレゼントを用意していたみたい」
「そういえば譲。これからどうするの? 歩いて帰るの?」
「うーん。歩いて帰るしかないよね」
「それなら家で休んでいけば? おかんが帰ってきたら、車で帰ればいいし」
「なるほど」
「じゃあ、こっち」
僕は予定には無かった日向寺家を訪問する。
「お邪魔します」
玄関を上がり、居間に通される。
「狭くてごめんね」
「そんなことないよ」
「今泉は自分の部屋あるの?」
「うん。あるよ」
「羨ましい。自分の部屋があったら気軽に友達呼べるのに」
「あの陽キャグループ?」
「ううん。中学で仲良かった子とか」
「そうなんだ」
「そう。信用できる人しか呼べないよ」
「信用できる人かぁ」
(そうなると僕は信用できる人の中に入っているってことか……)
「日向寺さんの中で、僕は信用できる人なの?」
「何言ってるの? 当り前じゃない。約束は守ろうと努力するし、掃除だって真面目にやる。それに安易に
(そっかぁ。そう思われているって何だか有難いな)
日向寺さんとは短い付き合いだが、信用に値する人間だと評価されたことは正直嬉しい。
「座って。飲み物持ってくる」
僕は座って日向寺さんを待っていると、部屋の片隅に青い何かがあることに気がついた。よく見ると
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
日向寺さんは僕に飲み物を渡した後、何食わぬ顔で下着のある方へ行った。そして僕の脇を通り、下着を仕舞いに行ったようだ。
「ゲームなんかあれば遊べるんだけど無くてごめんね」
「大丈夫だよ」
「今泉はゲーム機とか持っているの?」
「うん、持っているよ」
「いいなあ、あたいもゲームしたい。今泉はどんなゲームするの?」
「将棋とかシミュレーションゲームとか頭を使って攻略するゲームが多いかな。アクションゲームとか格ゲーとか反射神経を使うヤツは苦手かな」
「へぇー、そうなんだ。頭を使って女の子を攻略するゲームは持っているの?」
(よかった買ってなくて)
「持ってないよ」
「そうなんだ。何か残念」
(残念? ああ、冷やかすためか)
「あっ」
「何?」
「父さん達がうまく行ったら、一緒に家でゲームできるよ」
「そっか!」
「うまく行けばの話だけどね」
「うん、そうだね。うまく行ったら達成感があってドーパミンがドバドバっと出るんだろうなぁ――そうだ今泉隊員」
「何でしょうか隊長?」
「あたいら連携して仲良し男女に仕掛ければ、たくさんのカップルができると思わない?」
「そう?」
「自分達が関わってカップルが誕生すれば楽しいって」
「そうかな?」
「絶対そうだよ。協力してくれるよね?」
「うーん」
「くれるよね?」
日向寺さんが徐々に距離を詰めてくる。近い。
「協力しろ!」
「うわっ」
日向寺さんからヘッドロックを食らう。ヘッドロックを食らうってことは柔らかいダイレクトアタックもあるわけで――。
「ちょっと!」
「協力してくれる?」
「わかった、わかったから」
「なら良し」
(これだけスキンシップがあったら、どう考えても意識しちゃうよ)
僕は日向寺さんと一緒にいる時間に心地よさを感じていた。一緒に住んだら楽しい時間が待っているのだろうな。
◆
「夜遅くなっちゃったね」
「うん。たぶん今日はもう帰ってこないんじゃないかな?」
「今泉、ごめんね。呼び止めて」
「それは問題ないよ」
夜になっても親は帰ってこない。きっと二人はうまく行ったのであろう。僕は夜遅くなったけれど、日向寺さんのお風呂の時間もあるし、歩いて帰ることにした。
「日向寺さん。じゃあ、月曜日学校で」
「今泉、気をつけてね」
「うん。ありがとう」
少し歩いて振り返ると、日向寺さんがこちらを見ていた。きっと近い将来、彼女と一緒に暮らす日が来るのだろう。その日がいつになるかはわからないけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます