第3話 陰キャな僕と陽キャなギャルと家族デート
日曜日の午前中。僕と父親は駅前の広場で日向寺親子を待っていた。どことなく父親がソワソワしているのは気のせいだろうか。
「いまいずみー!」
日向寺さんが手を振ってこちらにやって来る。
「日向寺さん、こんにちは」
「ごめん、今泉。待った?」
「そんなに待ってないよ」
(父さん。やっぱり集合時間の二時間前入りは気合い入り過ぎだよ)
僕は一時間半待ったことには触れず、財布の中に入れたチケットを確認した。
「今泉さん、こんにちは。今日はよろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。日向寺さんのお召し物素敵ですね」
「ふふふ。そうですかね?」
(なるほど、このタイミングで洋服を褒めるのね。ふむふむ)
「今泉、今泉」
「ん?」
「二人いい感じじゃない?」
「うん、いい感じ」
「じゃあ、作戦開始と行きますか」
「うん。ねえ、日向寺さん」
「何?」
「今日の洋服素敵だね」
「えへへ。そう? 変じゃないかな?」
「ううん、変じゃない。かわいくていい感じだよ」
(ちょっとボディラインが強調されてエロいけどね。まあ、いいでしょう)
「じゃあおかん達、映画館行こ!」
◆
「美咲、どの映画にするの?」
「恋愛もの一択でしょ!」
映画館に着き、上映されている作品をもう一度確認する。日向寺さんと目が合い、打ち合わせ通り仕掛ける。
「父さん、先入っていて。僕、トイレで時間がかかると思うから」
「おかん。あたいお腹痛いから、トイレ行ってくるね」
日向寺さんはそう言って、僕の手首を捕まえ連行する。物凄い勢いでトイレへ走るが、いくら早く二人きりにしたいとはいえ、やり過ぎだろう。
◇
「日向寺さん、チケットあります?」
「あります。先に二人で入りましょうか?」
「そうですね。ポップコーンでも買って先に入りましょう」
◇
「よし! ミッションクリア」
「隊長、この後どうしますか?」
「あたいらも映画見ようよ。何見る?」
「えっ? さっき決めたやつじゃないの?」
「だーかーらー。二人きりにするのが目的なんだから、違うヤツがいいって言ってるの」
僕はアニメのヤツが見たいがどう切り出せばいいか悩む。
「あたいホラー映画がいいんだけど、今泉はどう?」
「うーん」
「ひょっとして怖いの? お子ちゃまだなぁ」
(別にホラーでもいいか)
「じゃあ、それにしよう」
「よし! じゃあ、ポップコーン奢ってね」
僕はがっくりと肩を落とす。これから先、いろいろ奢らされることが容易に想像できたからだ。
◆
「きゃー! いまいずみ」
「落ち着いて、大丈夫だから」
「でも――わー」
(日向寺さん。お胸ががっつり当たっています。役得でしかないんですけど、映画の内容頭に入ってこないし)
最近、隊長のスキンシップが多い気もするが、陽キャグループではこんなことが日常茶飯事なのだろうか。
「いまいずみ、怖いよー」
「落ち着いて、日向寺さん。僕、ここにいるから」
「でも――きゃー!」
◇
「いやー、楽しかった。今泉、面白かったね」
(ホラーって、ああいう楽しみ方をするのね。僕は他のことに気を取られて何とも言えないんだけど)
「そうだね、日向寺さん。これから親と合流するんでしょ? 集合場所はどこ?」
「何言ってんの? 二人の時間を作ることが目的なんだから、このままあたいとデートするの」
「ほえ?」
(デートと言えばデートだろうけど、本当にそれで大丈夫なの?)
「そろそろ時間かな」
日向寺さんはスマホを取り出し、どこかに電話をかけているようだ。
「あっ、おかん。あのね、この後今泉とデートすることになったから、そっちはそっちでよろしくやって。えっ? 合流しないよ。あたいらいい感じだから邪魔しないで。じゃあ、切るね」
(だいぶパワープレイだな)
◆
映画を見終え、僕らは近くのファミレスへ行く。ちょっと遅めの昼食。日向寺隊長と今後の作戦について話し合う場になるのだろう。
「でさぁ。また告られてイヤになっちゃうよ」
「そんなにイヤなの?」
「だって喋ったこともない人に告られるんだよ? 知らない人なのに彼女になるわけないじゃん」
「ふーん」
「それにアイツらあたいの胸ばかり見て告白してくるんだよ。そんなの体が目的って思うじゃん」
「そうなんだ。陽キャグループにはいい人いないの?」
「いいヤツはいるけど――時間にルーズだし、平気でウソつくし、掃除もサボるからね。信用しきれない」
「そうなんだ」
「あーあ。高校生になったら彼氏できると思ったんだけどなぁ」
(彼氏作ろうと思えば作れるのにな。理想が高いんだな)
お昼を食べながら、作戦会議とは関係ない雑談をする。
「今泉は彼女作らないの?」
「僕が作れると思う? クラスの女子と接点がほとんど無いんだよ」
「作れると思うんだけどなぁ。みんな今泉の良さわかってないよ」
「そうかな」
「うん。チケット奢ってくれるし、ポップコーン代も払ってくれるし、ご飯代だって嫌な顔せずに出してくれるもの」
(ここの奢り確定なのね……)
「あっ。二人がうまく行って結婚したら、あたいらキョウダイになるんだよね?」
「あー、そうだね。言われてみれば」
「どっちが上かな? 今泉はお義兄ちゃんって呼んでほしい?」
「お義兄ちゃんか……。何かイメージが湧かないな」
二人で誕生日を確認すると、何のイタズラか二人とも同じ誕生日。どっちが上なんだ?
「ジャンケンで決める?」
「うーん。まだ確定事項ではないから、二人が結婚したら考えればいいんじゃないかな?」
「そうだね――ねぇ、今泉」
「ん?」
「今泉って、あたいのおっぱいよく見てるよね?」
(はい、見てます)
「うん、見ちゃってるね」
「そんなにいいもんなのかな? 脂肪の塊だよ」
「まあ、男なら本能で目が行っちゃうよ」
日向寺さんは両手で自分のおっぱいを持ち上げている。
「はぁ」
「日向寺さんに本当に好きな人ができたら、その人にアプローチするのに大きな武器になると思うんだけど」
「そっかぁ」
「うん」
話をしながら僕は伝票を確認する。
(高いな……。ゲーム買いたかったけど諦めよう)
この後、親の様子を見てから作戦会議をしようという話になり、今日は解散。また明日以降、考えることにした。
次の更新予定
陰キャな僕と陽キャなギャル。恋のキューピッド作戦始めました フィステリアタナカ @info_dhalsim
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