第2話 陰キャな僕、陽キャなギャルに相談される

 翌日、普段通り学校へ行き教室に入ると、日向寺さんが挨拶をしてきた。


「おっはー」

「日向寺さん、おはよう」

「今泉、ちょっとこっち来て」

「ん?」


 日向寺さんに呼ばれ、教室の隅へ行く。


「今泉さぁ、昨日今泉の父さん、あたい達のこと何か言ってた?」

「うーん」


 僕は昨晩のことを思い出す。


「お母さん綺麗だねって話をしてたと思う」

「そっかぁ」

「どうしたの?」

「あのね。あの後、おかんの様子が何か変だったの。女の顔をしてたっていうか――」

「そうなんだ」

「たぶん、今泉の父さんのことが気になったんだと思う」

「あっ」


(そういえば父さん、動揺していたな)


「ん?」

「僕の父さん、日向寺さんのお母さんの話をしたら動揺してた」

「ほうほう。なるほど」


 今泉さんは右手の指を額に当て、何やら考えている。


「いまーいずみ君。これはひょっとすると事件かもしれません」

「そうなの?」

「あたいの推理が確かなら二人はお互いを意識している」


(まあ、意識してるんだろうね)


「と、いうことはだな。わかるかね。この後、どうなるのか」

「うーん」


 僕は日向寺さんの言っている意味がわからなかった。


「はぁ。君は探偵失格だな。二人が恋に落ちたのなら素敵な未来が待っているではないか。今泉君、そう思わないか?」


 男手一つで育ててくれた父親には、これからも幸せでいて欲しい。もしかすると日向寺さんも同じように母親のことを考えているのかもしれない。


「二人がくっ付けば、いいってこと?」

「そう。ドゥユーアンダスタン?」

「うん、理解した」

「二人が恋人になるためには接点が生まれないといけない」

「そうだね」

「そのためにあたい達、協力しない? 二人の未来のために」

「僕らで二人が一緒にいる時間を作り出すってこと?」

「そうそう。わかってるじゃん」

「具体的にはどうするの?」

「まずあたい達が仲良くなるの。子はくさびって言うでしょ?」


(子はかすがいね。楔だったら二人を引き裂くことになるよ)


「うーん、――うわっ」


 いきなり日向寺さんはヘッドロックをしてきた。


「今泉、やるよな? NOとは言わせないぞ」


(ちょ、ちょっと日向寺さん、顔におっぱい当たってるよ)


「やるよね?」

「わ、わかった。わかったから」

「よし。わかればよろし」


 ヘッドロックが外され、何だか名残惜しい気もする。ここでおっぱいのことを言っても話がこじれるだろうから止めておこう。


「じゃあ、放課後。作戦会議ね」


 ◇


 放課後掃除が終わり、二人で作戦会議をする。掃除のときに日向寺さんの水色のパンツが見えたことは指摘しないでおこう。


「いまーいずみ君」

「何ですか日向寺隊長」

「何か良い案は無いかね?」


 僕の父親と日向寺さんの母親。いきなり二人だけにするのは難しいだろう。


「家族ぐるみでイベントに参加するとか」

「家族ぐるみかぁ――」

「例えばボランティア活動とかお祭りとか」

「そのイベントが開催されるのを待つの? もっと早い方がいいと思うんだけど」

「うーん」


 スマホも使い、何か良い方法がないか考える。僕が悩んでいると日向寺隊長から提案があった。


「見てこれ。映画館の割引チケットがあるみたい」


 日向寺隊長のスマホをのぞき込む。


「場所も近いし、ここの映画館四人で行かない?」

「うん、いいかも」

「よし。じゃ今泉、チケットの手配よろしく」

「えっ? 僕?」

「そうだぞ」

「お金は?」

「二人の幸せを願っているのだろう? 建て替えたまえ」


 僕はがっくりと肩を落とす。お金を建て替えるって、こういうことが今後も続くのであろうか。


「善は急げ。都合のいい日を確認しよ」

「わかりました。隊長」


 ◇◆◇◆


「ただいま」

「父さん、おかえり。今日は肉じゃが作ったから」

「おっ、いつもありがとな」

「ねえ、父さん」

「どうした」

「今度の日曜日、映画館に行かない? チケットが手に入ったんだけど」

「サッカーのチケットじゃないのか?」

「うん、映画のチケット」

「なら、難しいな。月曜仕事だし休ませてくれ」

「そっかぁ、日向寺さんと彼女のお母さんも来るんだけど、難しいよね……」

「行くぞ。チケットを寄越せ」


(手のひら返し早いな)

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