俺達は、段々とダンジョンの最下層に進んでいる……気がしている。

 ルナに探ってもらってはいるが、いまいち進展が無い。



「お腹空いた。食べ物持ってくれば良かった。シェイドが褒めてくれたら、食べなくても頑張れる」



「偉いぞ〜! お前のお陰で今俺達は生き延びれてるんだぞ〜!」



「結婚するって、言って」



「嫌です……」



 ルナは黙々と空間把握魔術の作業を続けているが、集中力が切れてしまったらしく俺とマリアの駄弁りに参入して来た。

 適当にあった事を喋りながら、何階層も下に降りていく。



「シェイドに剣とか教えたいな~! ね、戻ったら私の授業受けない? 絶対良い所まで行けるよ! そして、一緒に『剣聖』って称号で呼ばれようよ~!」



「俺にそんな才能は無いよ……まともに扱えるの、ランスしか無いんだからさ」



「忘れちゃったの? 昔、一回剣を握って私に勝ったこと! あれで自信持っても良いのに……」



 一応、それについては覚えている。

 が、しかし。

 俺には剣を持たない理由がある。


 天国か地獄にいる俺の父さんと同じ様に、ランスでプラチナ級になるという目標があるからだ。

 きっとこれは無謀な挑戦だろうが、やってみなければわからないモノ。

 俺も父さんの血を引いているんだ、才能があるかはわからないけれど恥じない能力は持っていたい。



「シェイドはランスが好きなの。無理矢理引き込む物じゃない」



「うぅん……ま、気が向いたら言ってよ! 絶対、強くしてあげるからさ!」



「というか、俺の疾風突きもマリアに教えて貰った物だから絶対、教える腕は確かなんだよな……応用も出来るだろうし、帰ったらちょっと頼むよ!」



「やったー! 気合い入れて教えるから、覚悟してね? あと結婚ポイント一気に5個位くれない?」



「だから結婚ポイントは俺の管轄外なの! 貯まったら何が起きるか想像して身震いしてるんだから本当……!」



 魔物にもそれ程出会えず、ただ迷宮の中をひた歩く。

 静かな空間の中に、俺達の足音だけがただ響く。

 これ程まで生物が居ない環境は珍しい、小さな生き物程度から居ても良い物だろうけれど。



「……? シェイド、この先行き止まり。先に行く空間が無い」



 ルナが空間把握魔術の結果を伝えてくれた。

 結果は行き止まり、行ってみないとわからない。



「よし、行くか……ここを曲がったら行き止まり、なんだろ?」



 俺達はゆっくりと歩き始め、曲がり角の向こうを覗く。

 ルナの言う通り、先は行き止まりだった。



「行き止まり、だなぁ……進捗無しか。一旦帰ろうぜ?」



「帰ったら、シェイドはボクと修行ね〜っ!」



「待って。もう一回調べる。……! 地下に空間がある、それも巨大な」



 巨大な空間、隠し部屋か何かだろうか。



「もしかして、めちゃくちゃな規模の財宝が隠されたりして! 行こうよ、シェイド! ルナ!」



「罠かも知らないだろ……? ま、まぁでも?! 巨大な魔物とか?! 財宝とか?! あるかもしれないしな?! 仕方な〜く行くか?!」



「シェイド、行きたい欲隠せてない」



 正直、隠し部屋なんてワクワクが止まらない。

 言わば秘密基地にちょうど良い場所を見つけた子供のような気分だった。



「でも、地下にあるなんてどう行くんだろうなぁ……床に思いっ切りジャンプしたら開いたりするか?」



「そんな古典的かなぁ……ま、やってみよっか! シェイドのやりたい事をやるのが一番!」



「それじゃ、いっせーのーで、で飛ぼうか」


 マリアはいっせーのーで、の部分で飛びかけていた。

 俺は思いっきりしゃがみ、ジャンプで床を踏みつける準備をする。

 行き止まりでマリアもルナも同じ姿勢を取っているのが、側から見たら珍妙な光景だろう。



「いっせーのー……っで!」



 俺達は勢い良く空中に飛び上がる。

 そして……地面に足が再度着いた時。

 床がグラつき、俺達は地面の下へと放り出された。



「下、何も見えねぇ!! 高すぎるここ!! 死ぬ〜!! シンプルに落下であの世行き〜!!」



「お、落ち着いてシェイド! 良い感じの落下方法を取れば半死位にはなれるかもしれないよ! えへへ、シェイドと一緒に天国行くのも良いかも……♡」



「何言ってんだコラ!! プラチナ級にもなってないのに、父さんに顔向け出来るか!!」



「【アップドラフト】」



 ルナが落ち着いて魔術を唱えると、遥か遠くの地面の方から風が吹いてくる様な気配がする。

 下から勢い良く風が吹きつけ、俺達はゆっくりと落下していく。



「やばっ、スカートがっ……!! シェイドー! 見ないで〜!! 流石に恥ずかしいから〜!! で、でもシェイドが見たいって言うなら……♡」



「見たくねぇよ! 乙女の心を捨てるな! 頑張れ!」



「私なら良いよ♡」



「良くねぇよ!!! テンションおかしくなるからこれ以上それ言うの辞めろ! 頑張って隠してくれ!」



 俺達は地下へとゆっくり落ちていく。

 やっと地面が見えた所で、地面には大量の骨ばかりが置かれていた。

 さっきから空中にチラチラ浮いてたの、骨かよ……!



「なんとか着地する所に骨は無さそうだな……骨に足つけるとか不謹慎過ぎるし」



「先に何があるんだろう……というか、帰れるの?これ」



「帰りは私の魔術でなんとかする。【アップドラフト】を最大まで強くすれば帰れるはず」



 俺達は地面に着地すると、真っ暗な辺りを見渡す。

 暗闇で何も見えない俺は辺りを見渡しても何も見えなかったが……マリアだけが、空中を見ていた。



「なんか居たか?」



「ド、ドドドド……」



「ド?」



「待って、明かりを付ける。【ヒューゴライト】」



 ルナが点灯魔術で明かりを灯す。

 俺達の目の前に現れたのは。



「ドラゴン、なのか……?!」



 遥か太古、神話の時代に絶滅したとされていたドラゴンだった。

 黒い表皮をしたドラゴンは、品定めをするかのように俺達を見つめると心の臓から震え上がる様な咆哮を繰り出した。



「逃げる、か……?! いや、こんなチャンス二度とない……! ギルドに報告したって、きっと嘘っぱちだと思われる! 角やら爪やら持って帰って、本当にいるんだって証明するんだ!」



「ボク達ならきっと勝てるよ! 神話生物にだって! 絶対、シェイドは私が守るから……」



「無謀だけど、楽しそう。私も久しぶりに本気出す」



 俺達の一世一代をかけた大勝負が今、始まろうとしていた。

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