在るべき姿 シルバー級編

変化

 

昨日から一夜明けて、ギルド広場。

 俺達三人はシルバー級の依頼を覗いていた。

 昨日の出来事は絶対に消えないけれど、俺は一つ思っている事がある。



「あ、の、なぁ……前より距離感近くない?!」



「お嫁さん候補なんだから当たり前でしょ〜♡シェイドももっと、近寄って良いんだよ♡」



「そう、シェイドは恥ずかしがり屋過ぎる。もっと……近くに来て?」



 正直ちょっと、と言うかかなりドキドキする。

 如何せん、二人共顔が良すぎるから……。

 


「良いか、お前達が俺をどう思おうが勝手だ! だけど俺は……お前達を、親友だって思ってる」



 俺は二人をなだめながらそう言い放つ。

 正直、昨日のマリアの言った事について心の整理はついていない。

 けれど、少しは自分を前に進める為の発言だった。



「……そっかぁ。ま、認めて貰うから良いけどね〜っ!」



「やっぱり、恥ずかしがり屋さん」



「あ〜! もう良いんだよそれに関しては! 俺は絶対認めないからな! 



 俺は壁から一枚依頼を取り、二人の前に見せる。

 この依頼は冒険者らしい、ダンジョンの攻略だ。



「洞窟の様な自然物じゃない、魔物や昔の人によって作られた遺跡みたいな建築物の探索だ! やっと冒険者らしくなって来たと思わないか?!」



 ダンジョン。

 その単語を聞いただけで、冒険者を夢見る少年や、ブロンズ級には垂涎物だろう。

 実際、俺もその中の一人だった。



「ふふ、シェイド楽しそう。シェイドが良かったら、私は何でも良いよ」



「ボクも腕試ししたいからね〜っ! 頑張って、一緒に手を引いて歩く為に……あはは♡」



「や、辞めてくれそれ……俺は俺で歩けるから!」



 マリアはぶーっと言った顔で頬を膨らませている。

 楽は出来たらしたいけど……目を瞑っているだけで勝手にのし上がっているなんて、つまらないじゃないか。

 正直言うと、今まではマリアとルナに頼り切りで目を瞑っている様な物だったけど。



「今回からは俺も戦闘に積極的に参加する! 先行は任せてくれ!」



「もう……シェイドは頑張らなくて良いのに〜。辛い時は、ボクに任せてね?」



「シェイドが辛いのは、私も辛いから」



「辛くないの、楽しいの! 昔読んだ伝記の主人公みたいな事言うけどな、戦うのってワクワクするんだ!」



 俺は笑みを浮かべながらそう言う。

 ルナは同意してくれるかのように笑みを浮かべてくれた。

 マリアは少し心配するかのように、少し口を尖らせた。



「今回のダンジョンはいつもの平原の森の中の地下の迷宮だ! まぁ、迷宮って言う程入り組んでる訳じゃないけど……まぁ、腕試しには十分だ! 行くぞ〜!」



 俺達は武器を持ち、慣れた足取りでギルドを出た。

 少しは歴戦の冒険者、父さんに近付けているかな。



「あと二人共、俺の腕抱き締めながら移動するの辞めないか?!」



「シェイドが取られちゃったら怖いんだも〜ん! シェイドは年頃だから、セクシーなお姉さんとかに弱そうだし」



「男は誰でも女の子に弱いぞ」



「そっかぁ……」



──────


「こう……なんか、あれだな。平原のド真ん中にレンガみたいなので作られた階段だけがあるの、シュールだな」



「結構……深そうだね?」



「万全にして行こう、どんなのが出てくるかわからない」



 俺達はゆっくりと、階段を進み地下に進む。

 太古の昔からあるだろうに、未だ消えていない松明達が俺達を出迎える。



「誰かが先に付けてくれてたのか……それとも魔術か? 一応このダンジョン、最近見つかった物らしいしシルバー級に依頼は置かれてるけど……」



「そこでパーティの行方不明や、強大な魔物の報告があったらゴールド級やプラチナ級に格上げされるって訳だね……シルバー級は丁度良い捨て駒みたいな物なのかな」



「怖い事言うなよ、急に……ギルドは冒険者一人一人を大切にしてるんだ。そんな事無いはず。……だと思う」



 ルナは俺達の為に神経を尖らせていて、喋る暇が無さそうだ。

 マリアと適当に会話しながら、ダンジョンの奥に歩を進める。

 

「ルナも、少しは気を抜いて良いと思うけど……俺達の為にやってくれてるんだもんな、感謝しか無いよ」



「自分の王子様を守るのは、お姫様の役目だから」



「意見の合致〜! シェイドはボク、ボク達にぬくぬく守られて、好きな時に卵から出れば良い鳥さんの雛なんだから!」



「俺だってさっさと飛び立ちたいんだよ……」



 その気持ちは嬉しいが、俺にもプライドがある。

 流石に女の子に頼り切る訳にはいかないし、男らしく行かないと。



「シェイド、マリア。何か来る。魔物、だと思う」



「サンキュー! 構えろ、マリア! ルナ!」



「楽しいお喋りを邪魔するなんて悪い子だなぁ……お仕置きしなきゃ、ね?」



 俺達の目の前に現れたのは、動く人間の骨だった。



「えっ……何コイツ、生きてるの?死んでるの?」



「この魔物はスケルトン、魔物の霊に取り憑かれた人間の骨。多分……ここで死んだ人に、取り憑いたんだと思う」



「ここは墓かなんかだったのか……? わかんないけど、さっさと片付けるぞ!」



 俺はマリアに指示する前に、自らで魔物を討伐する事にした。

 ランスを敵に向け、勢いの限り突進する。



「シェイド! 一人で行ったら危ないって!」



 スケルトンは俺に剣を振り下ろす。

 軽装の俺はある程度は体の自由が効く。

 スケルトンの一撃を避け、攻撃を喰らわせる。

 するとスケルトンはバラバラになり、動かなくなった。



「ありゃ、一撃で終わった。心配する程でも無いよ!」



「シェイド、後は任せて。こいつはね、普通にやったら絶対倒せないの。聖属性の魔術を使える魔術師がいないとすぐ復活するの」



「それマジ?! 耐久力は無いけど無限に復活するって、魔術師が居なけりゃ攻撃してバラバラにしてから逃げるしか対策方法無いな……ルナは聖属性の魔術も使えるんだっけ、そう言えば」



「ボクも魔術が使えれば、シェイドを守りやすいのに……ルナ! ボクにも魔術を教えて!」



「シェイドに教えてあげた後でね。【ホーリー】」



 優しい光がスケルトンの残骸を包むと、骨は灰になって消え去った。



「これでシェイドとの結婚ポイントプラス1」



「結婚ポイントって何だよ!」



「ボク達の中で密かに流行ってた活躍する度に増えるポイント!」



「だから二人共、いつも活躍しようとしてたのかよ……」



 俺達のダンジョン探索は始まりを迎えた。

 ここから先、どんな物が待ち受けているのか。

 それは未だにわからないけれど、一つ理解出来るのは。



「今のボクの結婚ポイントが4だから〜、5貯まったら何してもらおっかな〜?」



「勝手に貯められたポイントで何かする訳無いでしょうが! お馬鹿!」



 今の俺に、今のこの二人の扱いは難しすぎるというだけであった。

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