陽気の裏面 ─マリア視点
ボクは子供の頃、ガキ大将を懲らしめたり、大人と共に野生の動物や魔物を討伐したり。
平穏ではないが、それなりに楽しい毎日を送っていた。
とある日、村の中を散策している時に一人の同年代の少年を見つけた。
少年は不恰好な木の槍をひたすら木に突き付けていた。
「何してるの? 君」
「ん? 特訓!」
そう言うと少年はまた木を突く作業に戻る。
その姿は特訓とは言えず、ただひたすら突いているだけの作業だった。
私はどうしても放っておけず、少年にもう一度話しかけた。
「それ、ほぼ意味ないよ。力は強くなるだろうけど、技術は伸びないかな」
「え?! マジ?! ルナにもちょっと言われた気がするな、これ……どうしたら良いとか、ある?」
「良いよ、教えてあげる。ボクは剣しか使えないけど、基礎的な所とかは教えてあげられるよ!」
シェイドとの出会いは、そこが始まりだった。
ボクの初めての弟子。
「もっと突いた後に捻る動作を入れると、魔物に効率良くダメージを与えられるよ。あと、突きのスキルとかある?」
「無い! 剣のスキルしか無いや。剣の方が合ってるって度々言われるけど、俺には父さんから貰う予定のランスが似合ってると思うんだ! へへ……」
才能は無いのにひたむきに前だけ見る姿に、私は惹かれていた。
ボクの父さんがよく言っていた。
「人間は才能が九割、お前は選ばれた人間だ」と。
シェイドは、ボクと違って剣は握らなかった。
例え才能が無くとも信じた物を信じ切った。
もう一度言おう、ボクはその姿に惹かれていた。
そして、同時に悲しさを感じていた。
一度、シェイドに剣を握って組手をして貰った事があった。
ボクはその時、シェイドに……負けたんだ。
優れた力量、優れた直感。そして、ランスでは使えない優れたスキル。
ボクはシェイドのその姿に、惚れ込んだ。
自分より強いのは大人以外に居ないと思っていた、だけど……シェイドはその考えをぶち壊した。
けれどシェイドはもう一度槍を握った。
ボクはその姿が、どうしても。
どうしても悲しく思えた。
才能ある人が認められない、こんな苦痛がある。
大好きな人が才能が認められず、苦労をする。
こんなに辛い物があるものか。
「ねぇ、シェイド! もう一度剣の訓練をしてみない? 気分転換に! 剣で突きのスキルを覚えたら、ランスでも使えると思うよ!」
「剣で突き……応用出来るな! よし、やろう! でも俺はランス一筋! 父さんと一緒にプラチナ級冒険者になるんだ!」
シェイドの「剣」の実力ならば、プラチナ級程度は容易だろう。
けれど「槍」の実力は残念ながら、あまり及ばない。
私がシェイドの、手を引いてあげないと。
手を引いて、正しい道に導くんだ。
ルナはシェイドを擁護する為に、剣の才能は無いとよく言った。
それこそ、シェイドの幸せを考えていると言えるんだろうか。
愛するランスで夢破れるくらいならば、ボクはシェイドの「夢」を叶えてあげたい。
苦労をして、その苦労分の嬉しさが得られるならば、ボクはシェイドの手を引きたい。
だけど、どう言ってもシェイドは槍を使う事を辞める事は無いだろう。
強引な手を使うしかない、でもそれはシェイドに不信感や恐怖を与えるかもしれない。
せめて、ランスを使うシェイドを守る為に。
ランスを使いたいというのなら、私が守ってあげなければならない。
シェイドが王で、私は騎士。
もしもシェイドが剣を握ってくれるのなら、いつかは騎士として共に立ちたい。
せめて楽しく決めれるなら、どれ程良いだろうか。
私には、強引な手に出るしか方法は無かった。
──────
「ねぇ、マリア……俺、怖いよ……夜に山に入っちゃダメだって、お母さん言ってたよ?」
「シェイドは怖がりだなぁ、まぁ、そこが可愛いんだけど。……ここなら、ルナにもバレないかな。ふふ、可哀想なシェイド……ボクがいないと、もう帰れないね? ボクが守ってあげないと、怖い魔物に襲われるかもね……」
シェイドをここに連れてきた理由は、無理矢理でもボクの言う事を聞いて貰う為だった。
きっとルナにバレたら、一生近付けさせて貰えないだろうから。
「シェイドは、ボクに守られなきゃいけないの。私と組手して、理解してるでしょ? 絶対ボクには勝てないって。良い勝負だけどね、いつも」
ランスを使ったら勝てないだけだって、理解してほしかった。
シェイドは勝ち負けにこだわらないから、ボクに勝った事なんて忘れているだろう。
「たまたまだ」って。
「で、でも……お父さんは、絶対次は勝てるって言ってくれてるし……俺も次は勝てるって思ってるよ!」
「でもね、シェイド。いくら頑張っても、やっぱり才能には勝てないんだよ。だから、頑張らなくても大丈夫……ずっとボクが手を引いてあげるから、この暗闇の中みたいに、盲目的にボクに着いてこれば君は安泰なんだよ、シェイド」
例え君がランスを使っても、君の中の剣の才能には勝てない。
だからこそ、ランスを使うならボクが守ってあげる。
暗闇の中のシェイドを見つめる。
怯える顔は凄く可愛くて、ボクを打ち負かした男とは思えない程だった。
「シェイド、抵抗しないで……これはね? ボク達二人がずーっと一緒にいる為に必要な事なの。シェイドは頑張らなくても良いんだよ、ボクにずぅっと守られてて欲しいな?」
ランスを使いたいシェイドへの気遣いだった。
シェイドには恐怖にしかならなかっただろうけれど。
恐怖を辞めてもらうには何が良いだろうか。
そうだ、キスだ。
これが君への愛だと証明出来れば、少しは怯えずにいてくれるだろうか。
愛と、誓いのキス。
ボクは何度もシェイドにキスをした、シェイドは泣き出してしまった。
せめて、楽しく。
そうだ、良い事を思い付いた。
「さぁ、シェイド! 鬼ごっこでもする? シェイドが捕まったら、一生ボクに手を引かれて過ごしてね! 逃げ切ったら……今まで通り、何もなかったみたいに過ごしてあげる! ふふ、アハハ!」
ボクと共に剣を握るか、ランスを使ってボクに守られるか。
運命の鬼ごっこが始まった。
けれど、シェイドは凄く早かった。
ボクが追いつかない速度で村の方面へと走り出した。
火事場の馬鹿力という物だったのだろうか。
翌日、シェイドは怯えていた。
当たり前だ、あれ程の事をしでかしたのだから。
けれど、これからシェイドはボクに守られる存在になった。
ボクの大好きなシェイド。
君は、ボクが守るからね。
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