宝石
「肝心のシルバー級昇格の依頼! 来たぞ〜!しかも鉱山組合からだ! 俺達の活躍が知られてるんだなぁ……」
俺はギルドから専属依頼の紙を持ってくると、宿屋の個室のベッドの上で目を擦っている二人に呼びかける。
マリアは元気良く飛び起き、依頼の紙をじっくりと眺めた。
ルナはあくびをしながら、ゆっくりこちらに向かってくる。
「もう来たんだ、早いね。……また、鉱山の探索?」
「暗い場所の探索なら、ゴブリンの時にもやったから慣れてるよ〜! 今回も楽勝かな?」
「それがな……規模が違う! 大きな鉱山だ! もう使われてない鉱山を再利用しようとしたら、新しめの人の痕跡があったんだと。盗賊か何かが根城にしてるかもしんないから、それの調査に冒険者を利用しよう! って訳だ! 腕が鳴ると思わないか?」
「人と戦う事になるのかな。シェイドに敵意を向けるんだったら、容赦はしない」
「ボクも! シェイドはボクが守ってあげないと! ね?」
守ってあげる、か……その単語を聞くと、この前の嫌な記憶? が思い浮かぶ。
流石に考えすぎだと思いたいんだけど。
「人を殺めるのは流石に、無いと思いたいな……流石に人を傷付ける奴は容赦しないけどな!」
「さっすがシェイド! その意気だよ〜! 私も頑張るからね!」
「何か食べてから行きたいな、ご飯」
「ちゃちゃっと腹ごしらえしてから行くか! この前の資金もちょっとは残ってるからな!」
俺達は適当に王都の出店で簡易的な食事を取ってから探鉱に向かった。
今日はマリアがルナに負けじと沢山食っていた。
動けなくなったら困るので流石に静止したが。
──────
「ここ、か……暗いな! 点灯魔法とか覚えてる?」
「うん、【シンプル・ライト】。これで見えるんじゃないかな」
「流石魔術師は違うなぁ〜! 俺もそんくらい魔術を使えたら良いんだけど……」
「また、昔みたいに教えてあげるよ。シェイドの適正は炎だから、この点灯魔法の代わりにもなると思うし」
教えてる最中に私の事好き?とか聞いて来ないよな……ダメだ。
本当に疑心暗鬼になってるぞ、コレ……!
「ボクは魔法からっきしだからなぁ……でも、剣術を学びたかったらボクに頼ってねっ! シェイドと組手するの、好きだから!」
才能には勝てない、とか言ってた人のセリフじゃないよな、これ……。
やっぱり俺の記憶違いなのか?あれって。
あぁ! もう忘れよう、あんな記憶!
モヤモヤして仕方ない。
「ルナ、マリア! 大きな場所に出るぞ……! 何かいるかも知れない、気を付けろ!」
「リーダーっぽいね、シェイド」
「ひゅーひゅー!」
「茶化す時じゃ無いんだけどなぁ……って、な……なんだここ?!」
俺たちの目の前には、無数の何色もの宝石が星空の様に光り輝く空間が広がっていた。
天井にも地面にも、無数の宝石が輝いている。
「うわぁ……綺麗……宝石がこんなに〜! 一個くらい持って帰っても……」
「ダメに決まってるでしょうが! 王都領なんだから、人の家の物勝手に取るみたいな奴になるかも知れないんだぞ……! でも、綺麗だな……」
昔、三人で大人同伴で小さな山の頂上まで登って星空を見た時を思い出して、感慨深い気持ちになってしまう。
「待って、シェイド、マリア。何か来る」
ルナが咄嗟に俺達の前に出ると、空間把握の魔法らしき物を展開して部屋の中を探っている。
俺達もそれを覗いてみると、天井に蠢く何かがあった。
「……! 降ってくる、構えて」
天井から大量の宝石と共に巨大な宝石の塊の様な物が落ちてくる。
目を凝らして見ていると、宝石に8本の蜘蛛の様な足が生え始める。
こちらを向いたかと思うと、蜘蛛の顔の様な物が姿を現した。
「うへ、グロテスク……!」
「ボク、蜘蛛苦手だから結構辛い、これ……」
「多分ここはこの魔物の巣、確か宝石を食べる魔物。名前は……ジェエルライブ」
ジェエルライブ、という魔物はこちらを捕捉したのか勢いよくこちらに勢い良く走り始めた!
「あっぶなっ……大丈夫か?!」
「遅い遅い、大丈夫!」
「なんとか避けれた」
ジュエルライブが壁にぶつかると、天井から無数の鋭利な形の宝石が降り始める。
「二人共、来て! 【バリア】!」
宝石はバリアに弾かれ、俺達は事なきを得た。
「危なかった〜っ! ルナがいなかったらギリギリ死んでたよ……ライバルだけど、今日くらいは感謝しても良いよねっ!」
「ほんとに助かった……心臓縮み上がるかと思った……」
「反撃の機会、行こう。【アイシクル・ダスト】」
鋭利な形状をした氷が、ジュエルライブに向かって放たれる。
が、体に付着している?頑丈な宝石が攻撃を通さない。
「効かない、炎なら……【ヘルファイア】!」
少し効いたのだろうか、怯んだ気配は見せた。
しかし決定打にはなっていない、どれだけ強いんだ、コイツ……!
「次はボクだね、任せといてよっ! 【斬鉄剣】ッ!」
直剣を大きく振りかぶると、ジュエルライブに振り下ろす。
ジュエルライブの硬い宝石さえ貫いてダメージを与えた様だ。
かなりのダメージを負ったのか、大きく仰け反り隙を見せた。
「俺も良い所、見せないとな……ルナ、コンビネーションで行こう! 【ヘルファイア】、頼んだ!」
「……! わかった。【ヘルファイア】!」
ルナの魔術が的中した瞬間、俺は走り出した。
狙うは、ルナの魔術が的中した宝石部分。
本来なら固くて弾かれる所だろうが、今回ばかりは。
「【疾風突き】!! ハァッ!」
俺の十八番とも言える疾風突きを宝石部分に喰らわせる。
ランスは見事突き刺さり、ジェエルライブの繊細であろう内部を貫いていく。
「もっと……押し込むんだ……! こんなに手伝ってもらったんだ、あとは俺一人の力でも……!」
しかし、ジュエルライブの生存本能だろうか、段々とランスが押し返されていく。
俺一人の力では、押し込めそうにない。
そんな時だった。
「シェイド! 手伝うよ〜っ!」
「手伝う。だから、後で褒めて」
「ルナ、マリア……!」
二人の手が俺の手に重なり、三人の力を込めたランスをジュエルライブに突き刺していく。
「行けェェェェッ!」
俺達三人の攻撃は……見事、ジュエルライブを完璧に貫いた。
ジュエルライブは付着していた宝石や体の全般を担って頭大きな宝石だけを残し、灰となって消えて行った。
「結局、盗賊も盗賊らしきはいなかったな……もしかして、コイツに食われたのか?」
「わからない、けど……これで晴れてシルバー級だね、シェイド」
「そうだな、うん……そうなんだなぁ……! 俺達、シルバー級になったんだなぁ!」
「シェイド、泣いてる? もう、涙脆いなぁ〜! 嬉しいのは一緒だけどね、えへへ!」
俺はようやく実感出来た。あの悪夢は偽りだ。
俺達は最高の幼馴染で、シルバー級の冒険者なんだ。
俺達は喜びを分かち合いながら、ギルドへと戻って行った。
念願のシルバー級のプレートを受け取り、俺は一日中ニヤニヤしてしまっていた。
お駄賃もたんまり貰って、しばらくは悠々自適な生活が送れそうだ。
未来は薔薇色、なのかもしれない!
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