第22話 やられ役の牢番、猪カツを作る
「さて、何を作ろうかな……」
俺は大量の肉の前で悩む。
ラーシアが獲ってきた魔物は猪型で、上質な美味しそうな肉だった。
シンプルにステーキにしても絶対美味しいだろうが、ラーシアがハードルを上げてくれやがったのでもう少し凝ったものを作りたい。
……ふむ。
「これからドンパチやるわけだし、願掛けも兼ねて豚カツでも作るか」
いや、豚じゃないから猪カツか?
俺は猪を解体する傍ら、ラーシアに頼んでとにかく沢山の卵を集めてもらった。
小麦粉は正規軍の陣地に食糧や酒を売りに来ていた商人から買い取り、パン粉は兵士たちに配給されるパンをミキサーにかけて用意する。
なお、ミキサーはエレット作のものを使う。
材料は揃ったので、解体した猪肉に下味を付けて小麦粉をまぶす。
軽くはたいて余計な小麦粉を落とし、ラーシアが獲ってきた大型の鳥の魔物の卵に浸してパン粉をつける。
あとは油にポーンで完成だ。
ちなみに油はエレットがネアから強奪したものを使っている。
別に最強ゴーレム君の改造に使うとかそういうのではなく、とにかく奪えるものは奪っておいたらしい。
エレットが怖い。
「これはまた、いい匂いがするな……」
「お腹が空いてくるね」
「これこれ、こういうのですわ!!」
油の爆ぜる音や揚げ物特有の香ばしい匂いに釣られて、兵士たちがわらわら集まってくる。
「お、おい、なんかいい匂いするぞ?」
「ああ、カティアナ様のご友人が料理しているらしい」
「カティアナ様の? いつ料理人と友人になったんだ?」
「そんなことより何を作ってんだ? めちゃくちゃ美味そうだぞ」
「あれは、油を使ってるのか?」
と、そこで俺は違和感を覚える。
全員が全員、まるで揚げ物を初めて見るような反応だったのだ。
人類は魔族ほど食に無関心ではない。
普通に美味い料理くらい作られてると思うし、兵士たちの反応が不思議だった。
あ、でもたしか揚げるって比較的新しい調理法なんだっけ?
何処かでそんな話を聞いたことがあるような、ないような気がする。
いや、それよりも。
「あの、ちゃんと全員分作るんで、そんなにじろじろ見ないで貰えます?」
ずっと兵士たちが見てきて集中できない。
ラーシアが獲ってきた猪はかなりの大物だったので、兵士たちに行き渡らせるには十分な量がある。
心配しなくても全員分作れるってのに……。
「おっ、そろそろかな」
俺は揚げているカツの音が変わったのを感じ、さっと油から取り出す。
揚げたてのカツを包丁で軽くカット、味見する。
「あふっ」
さすがは揚げたて。めちゃくちゃ熱い。
でも衣はザクザクで食感よし、下味もしっかりついていて美味しい。
猪の肉だから多少はくせがあるかと思ったが、そうでもない。
本音を言えばソースが欲しいな……。
こんな場所でも料理すると知っていれば魔王城から持ってきてたのに。
「あふっ、むぐっ、こ、これは、美味いな……」
「美味しいね。流石はるがすっす君だ」
「あひっ、し、舌を火傷しましたわ!!」
カティアナ、エレット、ラーシアはからは好評だった。
さて、兵士たちの反応はどうかな?
「な、なんじゃこりゃ!?」
「外はザクザク!! 中はじゅわーっとした肉の旨味!!」
「うまい!! 噛めば噛むほど美味いぞ!!」
「お、おい、オレの分も寄越せ!!」
「あ、二つも持っていくな!!」
兵士たちからも好評なようだが、我先にと食べようとするせいで猪カツを取り合って喧嘩が勃発している。
見かねたカティアナが慌てて止めに入るが、このままでは乱闘になりそうだった。
と、その時。
「何の騒ぎだ!!」
何やらちょび髭を生やした偉そうなハゲのオッサンが騒ぎを聞きつけてやってきた。
格好からして正規軍でも偉い人なのだろう。
「なんだ、これは? 誰が作ったんだ?」
俺の作った猪カツを見て首を傾げる偉そうなちょび髭。
兵士の一人が俺を指差して「この人が作ってました!!」と皿に乗った猪カツを嬉々として差し出し、ちょび髭に報告する。
すると、ちょび髭は猪カツの乗った皿を手で払いのけて地面に落としやがった。
……あ゛?
「「「「あ!?」」」」
地面に落ちた猪カツを見て悲鳴を上げる兵士たち。
それを見たカティアナは「まずい……」と何か焦ったような顔をした。
「これから重要な戦いに赴くというのに、料理なんぞで浮かれおって!! 貴様らはそれでも誇りある王国軍の兵士か!! 時間があるなら訓練をしろ、訓練を!!」
ちょび髭が地面に落ちた猪カツを踏みつけながら怒鳴り散らす。
いや、まあ、うん。
きっと王都を取り戻す前の戦いを控え、苛立ちが募っていたのだろう。
なんせ頭がつるつるに剥げてしまっているのだ。
多分おそらく、日頃のストレスが溜まっていて騒いでいる兵士たちに我慢の限界を迎えたのかもしれない。
でも、敢えて言わせて貰おう。
「貴様も貴様だ!! カティアナ様にどうやって取り入ったのかは知らぬが、勝手な真似は――」
「おい、歯ぁくいしばれ」
それはそれ、これはこれ、だ。
俺はちょび髭の顔面を殴り、よろめいたところを更に蹴飛ばした。
転倒するちょび髭。
「ぐっ、な、何をす――がふ!?」
「食べ物を粗末にする糞野郎がッ!! 腹が減っては戦はできぬって言葉を知らねーのかミソッカスがッ!!」
俺は蹲るちょび髭に何発も蹴りを入れた。
どうしてこうもこの世界には食べ物を粗末にする奴が多いのか。
慌ててカティアナが止めに入ってくる。
「ま、待て待て!! ルガス殿!! 落ち着け!! その者は私の方で処罰しておく!! ひとまず怒りを抑えてくれ!!」
「ふしゅー、ふしゅー」
俺はどうにか怒りを抑え、調理に戻った。
すると、何やら一連の流れを見ていた兵士たちが硬直しているではないか。
ちょうどいい。
「おい、兵士ども。食いたきゃ順番に並べ。あと食べ物を粗末にしたら殴る」
「「「「は、はいっ!!!!」」」」
兵士たちは猪カツを巡って争うのをやめ、一列に並んで順番を待つのであった。
その翌日。
ついに正規軍は反乱軍から王都を取り戻すため、決戦に望むのであった……。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「揚げ物の中だと作者はコロッケが好き」
ル「手作りは手間がかかるからやだ」
「やっぱ食べ物を粗末にしちゃだめ」「兵士たちが面白い」「コロッケおいしいよね」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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