第21話 やられ役の牢番、狙撃の才能に気付く




 エレットの登場に目を瞬かせるカティアナ。


 その視線はエレットの後ろに控えていた俺にも向けられる。


 まあ、エレットの作った認識阻害の魔法具外套があるし、気付かれる心配は――



「な、なぜルガス殿まで!?」



 一発でバレとるやん。


 俺はエレットの首根っこを掴み、ちょっと事情聴取をする。



「なんでもうバレてるんです?」


「認識阻害は親しい相手には通じないからね。君の存在が彼女にとってそれほど大きいものということだよ」


「……そっすか」



 嬉しいような、複雑なような……。



「ル、ルガス殿。エレット殿はともかく、貴殿は帰った方が……」


「あー、まあ、そんな水臭いこと言わないでくださいよ。せっかく手伝いに来たんですから。いや、何の役に立つのかって感じですけど」


「いや、そんなことは――」


「そうだよ、るがすっす君。君は私が認めた男だ。そう卑下するものではないよ。というわけで私からのプレゼントだ」



 そう言ってエレットが最強ゴーレム君のコックピットからゴソゴソと何かを取り出した。


 それは、やたらとデカくて長い銃だった。



「これは……?」


「アンチマテリアルビームライフルさ。君が言っていたものを片手間に作ってみた」


「片手間で超兵器作らないでくださいよ」



 小さな大砲と言ってもいいようなそのライフルはそれなりに重量があり、持ち運ぶのも一苦労だった。



「こんな重いもん扱えないっすよ。銃なんて実際に撃ったことないですし」


「まあまあ、そう言わずに。試しにここから王都を囲む防壁上にあるバリスタでも狙ってみるといい」


「絶対当たんないですって……」


「いいからいいから」



 強引なエレットに促されて、俺は地に伏せてアンチマテリアルビームライフルを構えた。


 丁寧にスコープまで付いていたので、数キロ先にある王都の防壁上にある大型のバリスタに狙いを付ける。


 カチッと引き金を引いた。



「お?」



 当たった。


 アンチマテリアルビームライフルの銃口から紫色に光るビームが撃ち放たれ、大型バリスタを一瞬で蒸発させる。


 流石にビギナーズラックによる着弾だと思って二発目を撃ってみた。


 当たる当たる。面白いように当たる。



「俺、スナイパーの才能があるかも」


「だろうね」


「……冗談ですよ。そこは『自画自賛するなー』とか言ってくださいよ」


「いや、客観的事実だよ。君は目がいい。それでいて空間を把握する力に長けている。こういう距離を取って敵と相対する武器が合っているんだろうね」


「そ、そっすかね?」



 正面から褒められると少し照れる。


 俺とエレットがそうして会話していると、不意にカティアナが言った。



「貴殿ら、私が見ない間に随分と仲良くなったのだな……」


「ああ、そうだ。忘れていたよ。この戦いが終わったら私は彼と結婚するつもりでいる」


「「!?」」



 俺はエレットの思わぬ一言にカティアナと共に目を見開いた。



「って、なぜルガス殿まで驚いている!?」


「い、いや、冗談だと思ってたんで……」


「おや、私は本気だよ。君と一緒にいられるなら、人類を裏切ったって構わない」


「「!?」」



 ヤバイ。俺は一体どれだけエレットに惚れられてるんだ。

 ヒロインにここまで好かれるとちょっと嬉しいぞ。


 それから少しして、作戦会議が開かれることに。


 参加者はカティアナ、正規軍の偉いオッサン、エレット、俺だ。


 なおラーシアは狩りに出掛けている。


 軍の人が少ない物資から食料を引っ張り出してもてなしてくれた、お世辞にもあまり美味しそうではない食べ物を見た途端に行ってしまったのだ。


 何かあったのだろうか……。


 いやまあ、ラーシアは未だに弱者を見下す悪癖があるので下手に待機させるとトラブルを起こすかもしれない。


 ある意味これでよかったのだろう。



「しかし、不思議ですね。敵はどうして籠城なんてしてるんです? 向こうの方が数は多いんじゃないんですか?」


「ああ、それには事情があってな。まあ、ただの推測になるが……」



 俺が疑問を口にすると、カティアナが事情を話し始めた。



「今回の反乱の原因は、国が魔族との戦争のために重い税を民衆にかけたからだ。それ故、反乱軍の殆どが平民だ」


「あー、まあ、よくあるやつですね」


「……よくあっては堪らないが。とにかく、奴らは平民の大半が戦争というものを知らない。我が国で徴兵等はしていないからな。数による有利を分かっていても、防壁という安心感を与えてくれるものを得て消極的になってしまった、のかもしれない」


「じゃあこのまま放っておいたら、籠城で食料が尽きて反乱軍は勝手に自滅するのでは?」


「いや、そうなる前に動き出すだろう。奴らも馬鹿ではない。追い詰められれば数の有利による物量戦を仕掛けてくるはずだ」



 そうなれば正規軍の敗北は必須。


 その前に王都へ総攻撃を仕掛け、防壁の中にいる方がやはり安全だと思わせ、食料が尽きるのを狙う作戦、らしい。


 上手く行くだろうか。


 少なくとも俺が干渉しなければカティアナは敵の捕虜となるはず。


 と、その時だった。



「た、大変です!!」


「何事だ!? まさか反乱軍がもう動いたのか!?」


「い、いえ、エレット殿と共にやってきた女性が、その、巨大な魔物を仕留めて担いできたようで……なんかパニックです!!」



 伝令兵が報告を投げ捨ててどうする。


 とは思いつつも、ラーシアが何かやらかしたようなので俺も様子を見に行く。


 すると、陣地の中心に巨大な猪の魔物の亡骸が倒れていた。


 その側にはラーシアが立っている。



「何やってんすか、ラー――さん」



 危ない。危うくラーシアの本名を晒すところだった。


 俺の問いにラーシアは鼻を鳴らして説明する。



「ふん、あんなまずそうな料理でもてなされても、ワタクシは食べられませんわ!! ご主人様、本物の料理を見せてやってくださいまし!!」



 いや、君さ。


 最近まで料理は身体を軟弱にする~とか言ってた側だよね? どの口で言ってんの?


 とは思ったが、たしかに兵士たちが歓迎のための振る舞ってきた料理は微妙だった。


 ……うし、ちょうど腹も減ってきし、何か作るか。





―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「しばらく見ない間に仲良くしてくれてた男女がいい感じになってた時の疎外感、悲しいよね」


ル「急に言われても……」



「エレットかわいい」「ラーシア完全に堕ちてるやん」「作者悲しくて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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