第19話 やられ役の牢番、ロマン兵器を口にする




 俺はほぼ無意識にその美女を警戒してしまう。


 彼女から購入した石で何度爆死したことか、思い出せばキリがない。



「おや、るがすっす君は彼女と知り合いなのかね?」


「い、いや、実際に会うのは初めて、ですけど」


「も~。初対面で死の商人なんて酷いです~。私は堅実誠実をモットーに商売させてもらってますから~」



 本人はおっとりした人物だが、俺はやはりネアが怖い。

 カードの限界額寸前まで追い詰められたこともしばしばあったからな。


 俺がその場から動けずにいると、エレットがネアに近づいた。



「さて、私たちは君を山賊から助けたわけだが、何かお礼はないのかね?」


「え? ええと~……」


「え、エレットさん?」


「何かね、るがすっす君。私たちは今、先を急ぐ身だ。利用できるものなら何でも利用しなければならない状況なのだよ」


「それは、そうですけど」


「私たちが助けたことの『恩』をこの場で返して貰おうというだけの話だ。ほら、商人君。君も受けた恩を返したまえ」



 エレットがネアに報酬を要求する。


 ネアは助けて貰った手前、断りづらいのか、金銭の入った袋を渡してきた。


 しかし、エレットはネアの渡してきた報酬が不服な様子。



「何だね、これは」


「ええと、お金ですけど~……」


「もっと他に何かないのかね? 具体的には希少な鉱石でも何でもいい。私の興味がそそるものをくれたまえ」


「ええ~!?」



 これむしろエレットの方が賊だろ。


 結局、ネアは涙目になりながらエレットに大量の資材や食料、水を譲った。


 ネアの乗っていた行商用の馬車には色々と雑貨が載せられていたようで、あるだけエレットに奪われてしまう羽目に。



「うわあああああん!! これなら賊に奪われる方がマシでした~!!」


「さ、流石にやりすぎなんじゃ……」


「君が悪いのだよ、るがすっす君」


「え、俺!? なんで!?」


「君が私の興味をそそることを言ったんじゃないか。『みさいる』や『がとりんぐがん』と言っていたね。ほら、それらについて早く概要を教えたまえ」



 エレットが目をキラキラ輝かせながら言う。


 俺は時間がないとは思いつつも、エレットの凄まじい圧に耐えられず、手短にそれらがどういう兵器なのかを説明した。



「ふむふむ、ふむふむふむふむ。ああ、素晴らしい。やはり君は最高だよ。私の知らない世界を教えてくれる君は、本当に最高だ!!」


「いや、あの、それは分かったんで、作るのはカティアナ嬢を助けてからに……」


「何を言うのだね!! カティなんとかちゃんを救出する上で『試作型アルティメット無敵ゴーレム君58号スーパー』の改造は必須!! さあ、ほら!! というわけで続きを話したまえ!!」


「つ、続き? いや、ミサイルやガトリングガンについてはもう――」


「君は焦らすのが上手いのだね!! どうせ君のことだ、もっと素晴らしいアイデアを持っているのだろう!? 早く!! 早く教えてくれ!!」



 いつもの冷静沈着なエレットはどこへやら、目を血走らせながら迫ってきた。



「ご、ご主人様、この人間、ヤバイですわ!! 本当に頼って大丈夫ですの!?」


「う、ううむ……」



 このままではカティアナを助けに行くことができない。


 しかし、エレットの言うように救出をより確実なものにするためにはここでゴーレムを改造するのも手かも知れない。


 悩みに悩んだ末、俺が出した結論は――



「多脚、クローラー脚、ホバリング脚、肩キャノン、パイルバンカー、ビームサーベル……」


「!?」


「ファ◯ネル、破壊◯使砲、トランスフォーム……を備えるのはどうですかね?」


「お、おお、また何か素晴らしいものが聞こえてきたね!!」



 たしかに今すぐカティアナを助けに行きたい。


 しかし、同時にエレットならどこまで作れるのか知りたくなってしまった。



「……ワタクシにはさっぱりなので、さっき逃がした山賊を仕留めてきますわ」


「え? え? あの、この状況で私を一人にするんですか~?」


「気安く話しかけないでくださいまし」



 どうやら時間を持て余したらしいラーシアが山賊狩りに出掛けてしまった。


 エレットが『試作型アルティメット無敵ゴーレム君58号スーパー』の内部格納庫から工具等を引っ張り出して改造を行う。


 しかし、ここで重大な問題が発生した。


 至極当たり前のことなのだが、俺の語った武器やパーツを作るには圧倒的に資材が足りなかった。



「ああ、まったく素材が足りない!! もっともっと金属が必要だ!! それはもう大量に必要だ!! ネアと言ったかね!! 君、もっと資材を寄越したまえ!!」


「ええ~!? こ、これ以上は私が破産しちゃいますよぉ~!!」


「知ったことではないよ!! 私は今、るがすっす君の語る全てを形にしたくて仕方がないのだ!!」



 もういつものエレットじゃなかった。


 数々のロマン兵器を口にした俺も大概だが、まさかこうもエレットが暴走するとは。


 しかし、ネアの方も馬車に積んでいた資材がもうないらしい。


 ネアとエレットが違う意味で途方に暮れていた、まさにその時だった。



「見てくださいまし、ご主人様!! 始末した山賊たちがたんまり溜め込んでいたようですわ!!」



 ラーシアが嬉々として大量の金貨が入った袋を持ってきた。


 それも一つや二つではない。


 何十袋もの金貨が――金属が詰まった袋を持ってきたのだ。



「よし、これを鋳溶かしてしまおう」


「「「え!?」」」



 億万長者になれるであろう金貨全てを溶かし始めたエレット。


 これに関しては俺も驚愕した。


 翌日、この世界に存在してはならないであろう超兵器が爆誕するのであった。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「破壊◯使砲まじカッケェ」


ル「分かる」



「エレット暴走してて草」「大金溶かすの笑う」「作者に同意する」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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