第18話 やられ役の牢番、死の商人と出会う




「というわけで、俺はカティアナ嬢を助けに行くことにしたんです。……役に立つかは微妙ですけど」



 俺はラーシアに事のあらましを話した。


 すると、事情を聞いたラーシアは真っ先に反対してきた。



「反対ですわ!! 人間どもの国に魔族であるご主人様が行くなど自殺行為ですわ!!」


「んー、まあ、そうなんすけどね。でもやっぱ友だちは助けたいじゃないですか」


「そ、それだけの理由で……?」



 友情という概念が希薄な魔族には理解できないだろう。


 しかし、俺は元人間だ。


 親しくなった友人を助けたいと思うし、酷い目に遭わされると知っていたら普通は止めるよねってだけだ。


 まあ、半ば勢いでの行動であるのは事実だけど。



「ああもう!! 分かりましたわ!!」


「え、何が?」


「ワタクシもお手伝いしますわ!! ……ご主人様には一応、恩がありますもの」


「……助かります」


「ふん!! お礼など不要ですわ!!」



 ここで思わぬ戦力が得られた。


 ラーシアは人間の間でも有名なので顔は割れているだろうが……。


 まあ、顔を隠せば大丈夫だろう。



「まったく。見せつけてくれるね、るがすっす君」


「え?」


「さっきまで私を後ろからだきしめて、私のお尻でヒィヒィ言っていたくせに」


「!? ど、どういうことですの!? ご主人様、まさかこの人間の小娘と!?」


「い、いや、違う!! 違わないけど違う!!」


「ひゃんっ♡ ど、どさくさに紛れてどこ触ってますの!?」



 ラーシアの誤解を解くのに、それなりの時間を要した。









「そろそろ人類圏だよ」


「な、なんか緊張してきましたね」


「ご主人様は人間の土地に攻め込むのは初めてですものね?」


「いや、別に攻め込むわけじゃですよ?」



 ラーシアは普段から人間の国を襲撃しているからか、あまり緊張していないようだった。


 いや、ただの牢番と比べるのは失礼か。



「もう数日でカティ何とかちゃんの国に辿り着くけれど、食料が心配だね」


「狩りなら俺がやりますよ?」


「いや、この辺りは魔族と人類が頻繁にドンパチする関係で動物が逃げていてね。食いでのある獲物は獲れないと思うよ。山賊でもいたらいいのだけど」


「山賊?」


「おや、知らないのかい? 山賊からは食糧や金品を強奪しても犯罪にならないんだよ。私も研究資金のために頻繁に襲っていてね」



 あ、あー、あったわ。そういう設定。


 まあ、山賊だって人から奪って生きているわけだし、別にいいか。


 と、ちょうどその時だった。



「ん? あの、エレットさん。あそこの馬車、なんか襲われてません?」


「む。……君は目がいいのだね。言われなければ見落としていたよ」



 コックピットに映し出されている映像の端で馬車が襲われているようだった。



「ではワタクシが行って皆殺しにして参りますわ!!」


「その必要はないよ」


「「え?」」



 エレットが幾つかのレバーを動かす。


 その次の瞬間、ゴーレムの肩部がガシャンという音を立てて巨大な弩が出てきた。

 ゴーレムが弩を装備し、狙いを定めてボルトを放つ。


 ボルトと言っても、人間を殺傷するには十分な速さと威力があるようだった。


 え、すっご。



「こんな武装、あったんですね……」


「『試作型アルティメット無敵ゴーレム君58号スーパー』は戦闘用のゴーレムだからね。まあ、弩以外に武装は剣が二本しかないがね」



 どこか不満そうに言うエレット。


 流石にガ◯ダムとかアーマ◯ド・コアみたいな武装はないのか……。


 そう思って、俺はポロッと失言してしまった。



「まあ、流石にミサイルとかガトリングガンとかは積んでないっすよね」


「なんだね、それは?」


「え? あー、えっと、爆薬を使って全部吹き飛ばしたり、鉄の玉を大量に飛ばしたり、みたいな?」


「興味深い。それはどういう武器なのかね? もっと詳しく」


「え、あ、ちょ、まだ馬車が襲われて――」


「そんなことよりもっと詳しく!! 今は私の好奇心が疼いているのだよ!!」



 馬車がまだ山賊に襲われているにも関わらず、キラキラと目を輝かせて迫ってくるエレット。


 どうにか彼女を落ち着かせ、山賊を撃退することができた。

 


「ふむ。どうやら襲われていたのは商人のようだね」


「あ、じゃあ食糧とか分けてもらえるんじゃないですか?」


「そうだね。少し交渉してみよう。ああ、それとるがすっす君、あとでさっきの話を詳しく聞かせてもらうからね?」


「……うっす」



 後が怖いなあ。


 エレットがゴーレムを下りて、襲われていた馬車の持ち主である商人のもとへ向かった。


 俺とラーシアもその後に続く。


 なお、俺とラーシアはエレットの作った認識を阻害する機能のある魔法具の外套をもらったので、魔族だとバレる心配はない。


 さて、助けた商人に関してだが……。



「助かりました~。お陰で荷を奪われずに済みました~」



 見覚えのある人物だった。


 ピンクブロンドの長い髪と柔和に微笑む絶世の美女である。


 めちゃくちゃおっぱいが大きい。


 マリセラと同格、下手したらそれ以上の大きなおっぱいだ。


 俺はこの人物を知っている。


 『プリヒロ』のプレイヤーなら嫌というほど知っている。



「で、出やがった、死の商人!!」


「はい~?」



 彼女の名前はネア。


 『プリヒロ』でヒロインを獲得するためのガチャを回す時、必要になる魔法石を売ってくれる商人。


 いくら課金しても狙ったキャラが出なかった一部の紳士たちが、きっと彼女の売ってきた魔法石に問題があると言い掛かりを付けた。


 それが『死の商人』。ネアの異名である。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「普段はクールなジト目キャラが好きなものには目を輝かせるのってかわいいよね」


ル「あれ? まともなこと言ってる?」



「アーマ◯ド・コアは草」「課金画面に出てくるキャラは恨まれやすいよな」「作者がまともで笑う」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る