第15話 やられ役の牢番、励まされる
カティアナが地下牢を脱獄した後。
俺はどこかボーッとしながら普段通りの日常を過ごしていた。
「――ルス!! ルガス!!」
「え?」
「余のハンバーグが焦げるのじゃ!! ボーッとするでない!!」
「あ、すんません」
俺はルシフェールに身体を揺すられてハッとし、慌てて焼いていたハンバーグをひっくり返す。
あとは蓋をして少し蒸したら完成だ。
ルシフェールがホッとして胸を撫で下ろし、横からガミガミ言ってくる。
「まったく!! 近頃のお主は心ここにあらずといった様子じゃな!!」
「あー、すんません。ちょっと考え事しちゃって」
「なんじゃ? まだ捕虜に逃げられたことを悔やんでおるのか?」
「いや、悔やむっていうか、行かせてよかったのかなーって思って」
「ふん。勝手に脱獄した捕虜に肩入れしすぎなのじゃ」
ルシフェールに呆れられてしまう。
いや、実際にただのやられ役の牢番である俺がヒロインたるカティアナを心配するのはおかしいのだろう。
しかし、カティアナは友人だ。
あそこでカティアナを止めていたら、彼女が酷い目に遭わなくても済むかもしれなかった。
「っと、できましたよ。ハンバーグ」
「おお!! むふふ、最近はお主の料理を食わねば何に対してもやる気が出なくて困ってきたのじゃ!!」
俺の作った料理が盛られた皿を嬉々として運ぶルシフェール。
マリセラのところへ行くのだろう。
ちょうどそう思ったタイミングでルシフェールがこちらに振り向いた。
「おい、ルガス」
「なんです?」
「余はお主の悩みなんぞ分からんし、理解するつもりもないのじゃ」
「ええと、そっすか」
「じゃが、母上なら相談に乗ってくれるじゃろう。どうしても胸のうちのモヤモヤが晴れぬなら、一度母上に相談してみるんじゃな」
それは、ルシフェールなりの気遣いなのだろう。
不器用な物言いだが、以前のルシフェールならしなかったであろう発言だ。
たしかに一人で考えていても何にもならない。
「というわけで、来ちゃいました」
「あらあら」
気が付いたら、俺はルシフェールと共にマリセラの部屋を訪れていた。
ルシフェールはマリセラの横になっているベッドの脇に椅子とテーブルを置いて美味しそうにハンバーグを頬張っている。
俺の急な訪問に嫌な顔一つせず、マリセラは朗らかに微笑んでいた。
それから俺はカティアナのことを相談する。
無論、カティアナがこれから体験するかも知れない未来については黙っておく。
ゲーム知識の話をしたところで信じてもらえるとは思えないしな。
マリセラは俺が話し終えるまで、たまに相槌を打ちながら耳を傾けてくれた。
「……そう。ルガス君は、その人間のお友だちを行かせちゃったことを後悔しているのね」
「後悔っていうか、まあ、止めるべきだったかなあと」
「難しい悩みね……」
そう言って困ったように腕を組み、頬に手を当てるマリセラ。
大きなおっぱいが強調される。
「何かを後悔している時、誰しもその選択をしなかったらと思うことはたしかにあるわ」
「え?」
「でも、そういう後悔ってどちらを選択しても結局はするものなのよ」
「は、はあ、そうですかね?」
「ええ、私がそうだもの。だから私はそういう時、複雑に考えないようにしているわ」
マリセラも過去に何か悩むことがあったのか、懐かしそうに微笑む。
そんなマリセラを見て、俺は更に心情を吐露してしまう。
「でもこう、なんていうか、どうしても情が湧いちまうくらいなら最初から仲良くなろうなんて思わない方がよかったんじゃないかって、そう考えちゃうんですよね……」
最初からヒロインに優しくなどしないで、平然と切り捨てていたらどうなっていただろうか。
もしかしたらカティアナが脱獄する際、俺はゲーム通りにやられ役としてあっさり殺されていたかもしれない。
俺が今生きているのは、彼女が少なからず俺に親愛の念を抱いていたから。
しかし、それが原因で俺は後悔している。
ならば最初からヒロインを見捨てて脱獄しないよう徹底的に牢屋を頑丈にしておく方が後悔はなかったのではないか。
マリセラの言うように複雑に考えまいとしても、そういう考えが浮かんできてしまう。
「それは違うわ、ルガス君」
「え? おわ!?」
あまりにも突然の出来事だった。
何を思ったのか、マリセラは娘が見てる前でいきなり俺を抱きしめてきたのだ。
ふかふかで柔らかい、大きなおっぱいに頭を包み込まれる。
思考が完全に停止して、自分が何をされているのか分からなかった。
!? え、な、何事!?
「あ、あの、マリセラ様!?」
「ふふ、落ち着くかしら? 亡くなった夫が何かに悩んでいる時、よくこうしてあげたのよ」
「いや、お、落ち着くというか、逆効果というか!!」
めちゃくちゃ甘い匂いがする。
しかもマリセラの体温は高めなようで、抱き締められるだけで気持ちいい。
「せっかく大切なお友だちができたのに、最初からお友だちじゃない方がよかったなんて思っちゃメッ、よ」
「……」
「後悔しているなら、その後の行動が大事なの。後悔したまま、それをずっと胸にいきるか。あるいはその後悔を断つために行動を起こすか。どちらを選ぶのも、貴方次第よ」
「……そんなこと言われたら、やるしかないじゃないですか」
まあ、これも俺がヒロインと仲良くなって死を回避しようとした結果だろう。
俺は悪くない。
ただ成り行きでシナリオをガン無視する羽目になってしまっただけ。
そうだ、全部俺は悪くない。
これから俺が何をしてどういう結果に繋がっても、悪いのは俺じゃない。
「マリセラ様、ありがとうございます。俺、ちょっと行ってきますね」
「ええ、頑張って。応援しているわ」
「はい。ええと、だから、その、そろそろ解放してほしいんですけど……」
「あら、もう少しだけいいじゃない。ふふ、それとも私にギュッてされるのは嫌かしら?」
いや、全然嫌ではないです。
ただずっとこのままだと下半身が色々とヤバイだけです。
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あとがき
どうでもいい小話
作者「ママァ!!」
ル「急にオギャるなキモい」
「ルシフェールかわいい」「マリセラ様が女神すぎる」「作者のキモさは今に始まったことじゃない」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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