第14話 やられ役の牢番、生理現象を起こす
「昼食持ってきましたよー」
その日、俺はいつも通りに作った食事を牢屋にいるカティアナとエレットに持って行った。
エレットは昨日遅くまで何か作っていたようで、まだぐっすりと眠っている。
仕方ない。
先にカティアナに食事を済ませてもらおう、そう思って彼女の入れられている牢屋を見た。
「え? ちょ、カティアナ嬢!?」
「うっ、ぐぅ」
カティアナがベッドの側で倒れ、胸を押さえて苦しんでいた。
俺が持ってきた食事を慌てて地面に置き、鍵を開けてカティアナの容態を確かめようと彼女に近づいた、まさにその時。
急にカティアナが俊敏な動きで立ち上がり、俺をベッドに押し倒してきた。
「え? え? ちょ、カティアナ嬢――」
「騒ぐな。大きな声を出したら殺す」
そう言って俺が持ってきた食事用のナイフを喉元に突きつけてきた。
あ、やっべ。完全に油断してた。
病気で倒れているフリをして牢屋に入ってきた牢番を不意打ちで殺す。
ゲームでカティアナが脱獄する時と全く同じやり方だった。
くっ、順調に仲良くなっていたと思っていたが、俺の気のせいだったのか!?
と、そのタイミングで俺は気付いた。
カティアナは申し訳なさそうに俯いており、今にも泣きそうな顔をしていることに。
「すまない。このような手荒な真似、貴殿にはしたくなかったのだが、こうするしかなかった」
「な、何かあったんです? 俺でよかったら相談乗りますけど」
「……貴殿はやはり、魔族らしくないな」
そう言って少し表情を和らげるカティアナ。
「先ほど連絡があってな。詳しい手段は言えないが、緊急事態が私の祖国で起こっている」
「緊急事態?」
「ああ、祖国で反乱が起こり、私の父が幽閉されてしまった。私は父上を助けに行かねばならない」
「……まじか」
俺はその出来事を知っている。
『プリヒロ』の初期にあったイベントで、内容は反乱を鎮圧するだけ。
しかし、鎮圧に失敗したら酷い目に遭う。
それもイベント限定でしか得られない特別なエッチシーンが見られるため、プレイヤーからは好評だった。
今回のイベントは特に人気だった。
カティアナの生まれ育った国を祖国とするヒロインたちが次々と反乱の首謀者たちに捕まって酷い目に遭うのだ。
俺も何度お世話になったことか。
「た、大変じゃないですか」
「ああ、だから私は行く」
「えーっと、じゃあ――」
俺が何かを言おうとすると、ぐいっと喉元にナイフを押し当ててくる。
「動くな、ルガス殿。可能なら、貴殿を傷つけたくはない」
「ちょ、カティアナ嬢!?」
殺す気はないようだが、抵抗したら本気で息の根を止めに来る。
それが分かるくらい、カティアナは焦っているようだった。
殺すのを躊躇するくらい仲良くなっていたことは喜ばしことだ。
しかし、だがしかし!!
「あ、あの、胸とか、お尻とか、全部当たってるんですけど……」
ふかふかの柔らかくて大きなおっぱいや、肉感的でムチムチなお尻が押し当てられる。
これはアカン。息子も元気百倍だ。
「っ、こ、細かいことは気にするな!!」
「あっ、ちょ、動かれると余計に!!」
「ん? お、おい!! 何を硬くしている!!」
これは生理現象なのだ。
カティアナのような美女にベッドに押し倒され、馬乗りにされるとか健全な男なら誰しも興奮してしまう。
俺、悪くない。
悪いのはエッチな身体を押し当ててくるカティアナの方なのだ。
すぅー、はぁー。取り敢えず落ち着こう。
「わ、分かりましたよ。親父さんが心配なのは。だからとめないですし、行ってください。適当に脱獄されたって言い訳しときますから」
「……すまない。事が済めば、戻ってくる」
「え? いや、せっかく自由の身になれるんですから、そこまではしなくても……」
「そ、そうか?」
カティアナが堅物なのはゲーム知識で知っているが、まさかここまでとは思わなかった。
「……すまない。貴殿と過ごした時間は、悪くなかったぞ」
「俺も楽しかったですよ。あ、それからもう一つ」
「なんだ?」
「お昼ご飯、冷めちゃう前に食べて行ってください。捨てるの勿体無いんで」
「……ふふっ、ははは。貴殿は、本当に魔族らしくないな。ああ、いただこう」
そう言ってカティアナは俺からナイフを離し、牢屋の外に出た。
鍵をかけて俺を閉じ込め、食事を済ませてから地下牢を出て行ってしまう。
「さて、と。先輩が出勤してくるまで、一休みするか」
俺はカティアナの使っていたベッドに頭からダイブした。
ふわっと、カティアナのいい匂いがする。
それと同時にさっきまで押し当てられていたお尻やおっぱいの感触を思い出してしまい……。
「……ちょ、ちょっとくらいいいよな。後で片付ければいいだろ」
カティアナのことを考えながら、一人遊びを始めようとした、その時。
隣の牢屋にいるエレットから声をかけられる。
「職務怠慢だね、君は」
「うおわ!? お、起きてたんすか、エレットさん!?」
「ずっと起きていたよ。そもそも私はあまり眠らないタチだ」
危ない。
もう少しでナニしようとしていたことがエレットにバレるところだった。
「いいのかい?」
「え、何がっすか?」
「彼女を行かせたことだ。私は君の隠していることを詳しくは知らないが、何か知っているのだろう?」
「っ、ど、どうしてそれを……」
「君が普通の魔族ではないことくらい、出会った時から分かっていたさ。彼女を止めるべきだったと、私は思うよ。君の言葉なら、彼女にも届いたろうからね」
エレットの言葉に俺は黙り込む。
「いや、俺みたいな雑魚にできることとか何もないですって」
「……そうか。それが君の意志なら、私は君を肯定するよ」
そう言ってエレットはまた何か作業を始める。
ただエレットの言葉が、妙に胸に引っかかったまま取れなかった。
俺は、どうするべきなのだろうか。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「こういうエロとギャグとシリアスが混じった話書いてるの楽しい」
ル「よかったな」
「美女に押し倒されるとか羨まけしからん」「エレットかっこかわいい」「混入しスギィ!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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